表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/580

第二話 印象は微妙?

 音が聞こえる。

 意識が浮かんできて、目を開けば極彩色の鳥っぽいやつ。


「オメザメカナ?」

「焼き鳥にしてやろうか??」


 なんかいる。

 寝起きのぼんやりとした頭は、それでいっぱいになる。赤、青、緑。無駄に綺麗なグラデーションや飾り羽が目に痛い。寝起きに見るべきものではない。


「オレヲクウノカ? オススメシナイゼ、ニクショクダカラナ」


 確かに、肉を食べる動物の肉は不味いと漫画で読んだことがある。いや、違う、そこじゃない。


「ニコメバカタサハドウニカナルカモダナ。デモクサミハドウスルンダ?」


 そりゃあハーブとかそういうので臭みを取ればいいし、やりようはいくらでも…いや、だからちげえよ。


「ハハハジョークダゼ、ダカラソノブッソウナモノヲサゲテクレヨ」


 懐のナイフ(最近の若者の標準装備)を首元に突きつけると、仮称トリモドキはそう言う。


「トリモドキッテ、オレハドウミテモタダノトリダロ。」


 お前のようなバカデカい鳥が普通であってたまるか。お前が普通の鳥なら世も末だよ。


 夜露と大体同じくらいの大きさの鳥。確かに普通ではないが、突っ込むべきはそこではないような気がする。


「ゴクサイシキノハネナノトシャベルコトハフツウナノカ??」


 全くもってその通りであったが、夜露自身がまず普通ではなかった。


 魔力には波――魔力波長という――があり、それには個体ごとに違いがあるはずなのだが、夜露は生まれた時から波形が曖昧なうえに、弄ろうと思えば弄れるのだった。

 例えるなら、心拍数を意識的に操作できるような感じだ。普通にやべー奴である。


「ソレノオウヨウデ、マリョクをモッタイキモノデアレバイシソツウガデキル……?」


 頭に疑問符を浮かべるトリモドキ。

 ちゃんとした会話が成立するのは珍しいが、そういうケースもなくはないし、羽の色はそういうものだと思考を放棄する夜露。

 ふと、首から何か札が掛けてあることに気づく。


「ウン? コレカ。コレハヒトデイウトコロノ、ミブンショウメイショダナ」


 なるほど、「私が作りました」と書いてあるようなものか。


「ゼッタイニチガウ」


 全力で否定した後にトコロデ、と置いて、公園の滑り台のほうを嘴で指すトリモドキ。

 そういえばここ公園だった。


「アソコニオマエトオナジフクノヒトガイルガ、ドウルイナノカ?」


 見れば、金髪長身の男Aと、Aに比べ頭ひとつくらい小さい、黒髪に赤いメッシュの入った男Bがいた。

 まずい、トリモドキの同類と思われてしまう。


「シツレイナヤツダナ……ソレニハチョウガアワナイトオレハミエナイカラ、シンパイハイラナイゼ」


 失礼な、と言っておきながら後の言葉で心配はいらないと言っているあたり、自分の異常性を自覚していると推測できる。どんなに色々滅茶苦茶な鳥でも、自覚できているのは良いことだ。


「ダガイマノオマエハ、コクウトカタリアウフシンジンブツダゼ」


 だが僕は自覚できていなかった。不味い、直ぐにでも2人組に近づいてトリモドキを無視する口実を作らねば。


「マテオマエ、オレニハ『アルバトス』トイウナマエガ、ソレニキュウニウゴクト……オイッ」


 ごたごたとうるさいアル何とかを無視して、立ち上が――身体中が悲鳴を上げる。


「イワンコッチャナイ……」


 鳥に呆れられた。身体も心も痛い。

 それでも何とか立ちあがり、今朝の事を思い出――さずに思考から除いて歩き出す。


「トリアエズオレハマッテルゼ」


 着いてこないのはありがたいがそのまま帰れ、とは言わない。


「コイツ…ノウニチョクセツ……!?」


 口にするまでもないからだ。これも魔波(魔力波長の略)の操作の応用である。

 そしてゆっくり(筋肉痛で素早く動けない)と2人組に背後から近づき、声をかける――――


「うおっなんかいる!?」

「うっ」


 までもなく、匂いで気づかれる。そりゃあ吐いた後着替えていないからな。時計を見れば既に昼前だった。口の周りの、胃酸混じりの唾がかぴかぴする。

 男A、Bが露骨に嫌そうな顔をするのを見て、泣きそうになるのを堪え、声を出そうとするが、


「……ぁっ」


 出なかった。

 伊達に中学三年間をソロで乗り切ったわけじゃなかった。

「制服……?」

「ん? ほんとだ、よく見りゃ同じ学校じゃねぇか! 俺、篝火(かがりび) (ともし)ってんだ。よろしく!」


 男B:篝火の陽のオーラに意識が飛びかける。そうだ名前、自己紹介しなきゃ、


「あんたも魔術特化学園の……見た感じ同い年か?」

「灯くん、留年しているかもしれないのだから、ネクタイの色で歳を判断するのはやめた方がいい。学年だけにしておくべきだよ。あ、私は那津麻(なづま) ライモン(らいもん)、よろしく」


 魔術特化学園、通称魔特。本来、夜露が今日から通うはずだった高校である。入学式に出席していれば、校長についての話や担任についてで盛り上がれた筈だが、今の夜露にはそれに気づけるだけの余裕がなかった。


 か、会話の切り出し方ってどうすればいいんだっけ…男A:那津麻にとんでもなく失礼なことを言われている気もするが、自己紹介の内容を組み立てることに必死でそれどころじゃない…


「あ、そうだあんた名前はな「し、四十九ヶ崎 夜露、です!!」んて……」


 気まずい沈黙。

 やらかした。かなり食い気味かつ大声になってしまった。


 ベンチの方が目に映る――トリモドキが笑いを堪えている――目を閉じる。後で焼く。



 生まれ変われるのなら、中学時代からやり直したい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ