第百三話 忍者の恐怖?
翌日の午後6時32分。
最終下校時刻はとっくに過ぎているので、校舎に人の気配はない。ボランティア部員は、ひとまず校庭に集合している。
人以外とか、元人の気配はどうだか分からないがな。
「えーそれでは、折角なので肝試しをしようと思うよ!」
「わー」
赤色が死んだ目で拍手をする。様子からして、何らかの準備を手伝わされたのだろう。
そして、止められなかったのだろう。
肝試しか……まあ確かに、霊をおびき出すなら一番手っ取り早いといえば手っ取り早いな。幽霊っつっても元人間なら「おどろかしてやろう」とか考えるだろうし。というか僕ならそうする。
「わざわざ先生にも帰ってもらってすることが肝試しですか……」
職員室から光が無いかと思えば、教師は帰らせたなどと副部長さんが言う。
魔特の職員は基本的に魔術に長けている。教える側なので当然といえば当然なのだが、校長は賢者の資格を持っているらしいし、大半の教師は魔導士以上だ。
つまり、いざってときに役に立つ戦力がないってことか……まずくない?
「へぇ……意外と雰囲気あるじゃない……」
あれだけはしゃいでいたパイセンは、腰に巻いたパーカーの袖を千切れんばかりに握りしめている。
怖いかくそったれ……当然だぜ、多分そういう魔術が仕掛けられてる。ばしばし感じるもん。部長さんの仕込みかな?
「じゃあペアは……くじでいいかな?」
いいかな? と聞きつつ、既にくじは用意されている。最初からそのつもりだったのだろう。
校舎からのとは違って変な波長は感じない……こっちは別に何も仕掛けられてなさそうだな。
公正なくじ引きの結果、パイセンと組むこととなった。
イカサマだッ!! 何か仕込みやがっただろ!?
「怖いなら手を繋いであげてもいいわ」(小声)
しかも1番手。最高に最悪にツイてない。
ちなみに順路は1号館の1階から4階までの教室を一通りぐるりと回る形で、4階の窓から次のペアに指示を出し、次の館へ向かうということになっている。
持ち物は懐中電灯と、記録用のカメラ。一体何を記録するのか。
1号館は普通の学校みたいになってるからまだマシだけど、2号館3号館はその倍は広いからなぁ……バレないように強化使うか。体力がもたん。
「怖いなら手を繋いであげてもいいわ」(小声かつ震え声)
ちなみに他のペアは、副部長さんと書記さん、部長さんと金髪、そして赤色1人だ。
赤色が何をしたというのか……。
「怖いなら手を繋いであげてもいいわ」(小声かつ震え声そして早口)
1号館はただの教室が並んでいるだけとはいえ、それなりに広い。まだ2つ残っているのだ。4階まで行くのに手間取っていれば、全てを回っているうちにそそれこそ日が昇ってしまうだろう。
身体の表面に2層の魔力を纏って身体強化を使っていると気づかれなくする……練習した甲斐があったというものだ。なんと動きながらでも使える! 実戦での有用性は知らん。
「手ェ出しなさい灰色!!」
このパイセンは意図的に無視していたのに、汲み取ってくれなかったのだろうか。
はいはい承りました……でも片手塞がったら幽霊が出たときに対処しづらくない?
「私の左手は幽霊の魔力が欲しいってうずうずしてるわぁっ!!」
パイセンはやけくそ気味に左手を振り回す。
元気なのはいいが歩幅を広げてくれよ……まだあと3階あるっていうかまだ1階の半分も見てないんだからさ。
「というか灰色はなんでそんなに冷静なのよ……! もっとキャーコワーイとか言うと思ってたのに!」
暗いとこは慣れてるからな。それに視力強化って暗視の効果もあるから……てか、忍者が暗いとこダメって致命的じゃ……。
身体強化を使っている間は、身体の基本的な能力が底上げされる。今も視力強化は使っていないが、若干の暗視の効果は出ているのだ。
「うう……あの人体模型、動いたりしないわよね……階段からガシャのカプセル降ってきたりしないわよね……」
屋上にドクロがいるのか……無理矢理心臓引っこ抜いたらすぐに殺せないかな?
2人は話しながら4階まで進む。
まあ、正確にはパイセンが恐怖を誤魔化すために一方的に話しているのだが。