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03 皆殺しの舞踏

 そして今日、彼の終生の悲願であった復讐は、突如として果たされてしまった。ウニカにパンケーキを奢ってやった、約一ヶ月後のことだった。


 ――今、憑魔と篠介の二人は、銃声の響き渡る建物の中をひたすら駆け巡っていた。


 各階の部屋を全て巡り、その部屋に居座る者たちを片っ端から問答無用で撃ち殺していった。


 その間、憑魔の心を支配していたのは「憎しみ」でも「怒り」でもない。彼を突き動かしていたのは、どんな者をも打ち倒す程に強力で圧倒的な「力」だった。常に何かに守られている。そんな奇妙な安心感が身を包み、銃弾の飛び交う戦場でも、冷静な目を失うことはない。それ故に、相手の撃ってくる弾に当たる気がしなかった。自分の撃つ弾が相手に当たる気しかしなかった。


 その溢れんばかりの力を与えてくれる源が、実は自分の手元にあることを彼自身は知っていた。


 ――ウニカ。銃に化けた幼い少女が、憑魔に悪魔の力、すなわち魔力を分け与えてくれていた。今、彼の体には魔力がみなぎり、通常の人間とは比べ物にならないほどの能力を発揮していた。視覚、聴覚共に冴え渡り、敵の位置が手に取るように分かる。相手が死角から飛び出してきても、事前にその位置を察知し、次の瞬間には敵の向かって来る方へ向けて銃弾を放っていた。


 ウニカから放たれた銃弾を身に受け、真っ赤な血を吹いて次々と相手が倒れてゆく。まるでシューティングゲームをしているような爽快感。この分だと、余裕でハイスコアを更新できてしまいそうだ。


 第一棟を制圧し、続いて第二棟に入ると、そこは上六階の中央部分が全て吹き抜けとなっていた。地層の様に広がる各階層から、相手が頭を出してはこちら目掛けて銃を撃ち、また頭を引っ込める。まるで動いたり隠れたりする射的の的を見ているようだ。


 ここから各フロアを順に潰していくのも億劫に感じた憑魔は、手に持っていた金色こんじきのリヴォルバーに声をかけた。


「ウニカ、出番だ。『タカイタカーイ』をやるぞ」


 主人の言葉に対し、銃に化けた悪魔の少女は面倒臭そうに嫌々返事を返してくる。


「ふん? なんだ、もう我の翼にすがらないと勝てなくなったのか? まったく、だらしのないマスターだ」


「つべこべ言わずに仕事しろ。行くぞ」


 憑魔は銃弾の雨が降るフロアへ飛び出し、持っていたリヴォルバーを宙高く放り投げる。同時にそれは空中で弾け、黒煙となって螺旋状に巻き上がり、巨大な蝙蝠こうもりの翼を授かるあの少女の姿へと変身した。そのまま彼女は主人の腰を抱えて大きく羽ばたくと、彼の足はふわりと地面を離れた。


 憑魔は腰に差し込んでいた二丁の自動拳銃シグザウエルを引き抜くと、各階に潜む敵を上空から見事なエイミングで撃ち抜いていった。敵は吹き抜けの中をちょこまかと飛び回る憑魔に翻弄され、一発も当てられないまま、次々と憑魔の放つ銃弾の餌食にされていった。


 全階層の掃討が終わって最上階に降り立つと、憑魔は弾切れになってホールドオープンした自動拳銃シグザウエル二丁を投げ捨て、空中で変形し銃の姿に戻って落ちてきたウニカを見事にキャッチした。


「よくやったウニカ。第二棟も制圧完了だ」


「ふふん、史上最強の我にかかれば、この程度容易いことだ!」


 これぞ、悪魔と人間の見事な連携プレイによる勝利だった。


「……おいおい、待ってくれ……畜生、俺の分の楽しみまで取ってんじゃねぇよ」


 すると、階段の方からゼエゼエ息を切らしながら篠介が登って来る。どうやら一人でも多くの敵を仕留めようと意気込んでいたものの、どの階層に行っても既に死体が転がっているばかりで、必死になって階段を駆け上ってきたらしい。


「エレベーターが隣にあったのに気が付かなかったのか? それに、そんなに獲物が欲しかったのなら、俺が第一棟を制圧している間に第二棟の方をお前が攻略してても良かったんだぞ? 頭を使えよシノ」


「うっせぇ。マッキーが先走るもんだから、こっちも後を追うのに必死だったんだよ。それに、どの階にお前の撃ち漏らした奴が居るかも分からねぇだろうが」


 そう苦しげに言い訳する「シノ」こと篠介。


 篠介は憑魔と違って、とにかく考えるより先にまず行動に移さないと気が済まないタイプの男だった。どんなことにもまずは体当たりで試し、失敗しても反省しない。故に、また同じ体当たりを何度も繰り返す。故に、憑魔はよく馬鹿な失敗をやらかしては辛い目や痛い目に遭っていることが多い。


「俺は狙った獲物は決して逃さない。ウニカが手を貸してくれてるおかげさ。それはお前も知ってるだろ?」


「ちぇっ! ま~た悠長に格好付けやがって。お前にばっかり美味しいところ持って行かれて、俺は食い残しをつまむだけなんて、割りに合わねぇや」


「うるさい口は閉じてろ。ほら、この先が奴の部屋だ」


 憑魔の指差した先には、豪奢な掘りの施された木製の両開き扉があった。間違いなく、この先にターゲットが居る。確信を持った二人は、扉前に並んで銃を構えると、息を合わせて一気に扉を蹴り開けた。

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