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13 空からマスターが降ってきた!

 飛び立ってから一分も経たないうちに、憑魔とウニカは道路上で激しいカーチェイスを繰り広げる三台の車列に追い付き、直下ちょっかに捉えていた。


 先頭を走るシノの乗る車は、後方から接近してきた黒のセダンに左右から挟まれていた。何度も繰り返し体当たりを喰らわされたのだろう。車体の側面は既にベコベコに凹んでしまっている。


 すると突然、左に居た一台がブレーキを踏み、後方に下がったかと思った刹那、急激に加速してシノの乗る車のリアに思い切り頭突きを食らわせた。


 弾け飛ぶバンパー。飛散するヘッドライトとテールライトのガラス片。シノの乗った車は制御を失って大きく横滑りし、次の瞬間にはひっくり返っていた。


 周囲に破片を飛び散らせながら何度か激しく横転した後、ぐちゃぐちゃのスクラップと化した車はひっくり返って底をこちらに見せたまま、路肩の電柱にぶつかって止まった。白煙の立ち上る車両。その周りを囲うように、二台の黒いセダンが止まる。


 一台に四人、計八人の黒スーツを着たヤクザ連中がぞろぞろと車を降りて、ひっくり返った車の周りを取り囲む。


 横転した車の運転席のドアが蹴破られ、車内からシノが咳き込みながら這い出ててくる。先ほど横転した際に怪我をしたのか、額から血を流してはいるが、辛うじて生きていたようだ。


 しかし、そこへ取り囲んでいたヤクザ連中の一人が車内から這い出てきた彼を力尽くで引っ張り出した。その男は仰向けに倒れたシノに銃を突き付け、大声で何かを叫んでいる。


「なぁおい、マスターの兄方、マズいのではないか?」


「……ああ、はっきり言って、あれはかなりヤバそうだ」


 憑魔は唇を嚙む。あのままではシノが殺される。一体どうすれば――


「ふむ、ならば突撃あるのみだ! 行くぞマスター、捕まれっ!」


 しかし憑魔が対策を考えるよりも先に、ウニカが既に急降下を始めていた。まだ奴らに不意打ちをする覚悟すら決められていなかった憑魔は、一気に近付いてゆく地面を前に背筋を凍らせる。


「ほら、行って来いマスター!」


「何? おっ、おい待て〜〜〜っ!!」


 更にウニカは、地面に到達する寸前のところで主人を支えていた腕を離してしまい、シノに銃を向けていたヤクザの頭上へ、野球ボール並みの速度で落下してきた憑魔の尻が直撃した。


「ぐぇっ!!」


 男はうつ伏せに倒れ、その背中の上に憑魔が着地する。下敷きになった男がクッションとなってくれたおかげで衝撃が和らぎ、彼はどうにか怪我一つ無くその場に降り立つことに成功した。


「いっ……いきなり手ぇ離してんじゃねぇよクソ悪魔! 死ぬかと思っただろうが!」


 憑魔は耐えられずに上空に向かって叫ぶ。一方で周りに群がっていた他のヤクザ連中は、いきなり真上から落ちてきた憑魔を前にして驚愕し、銃を彼の方へと構え直していた。


 そこへ、風の如く飛んできたウニカが翼を広げたまま体を回転させて連中のど真ん中に突っ込み、まるでボウリングのピンを弾くように男たちを薙ぎ払う。


「なっ! ――お、お前、マッキーか!?」


 突然空から降って来た憑魔を見て、シノが声を上げた。


「ああ、久しぶりだなシノ。ったく相変わらず無茶しやがって! 側から見てるこっちの身にもなれっての!」


 憑魔は倒れているシノの首根っこを掴んで横転した車両の裏へと引き寄せる。ウニカの体当たりによってヤクザの連中は蹴散らされたかと思っていたが、彼らはしぶとく起き上がって、持っていた銃を次々と乱射する。乾いた破裂音が宙で弾け、周囲に銃弾が飛び交い、あちこちに着弾しては火花を上げる。


 しかし、憑魔たちを庇うように広げたウニカの翼は銃弾を全く通さず、軽く弾かれては、ひしゃげた弾丸が巻いた種のようにパラパラと地面に落ちてゆく。


「動くなシノ。今止血してやるから」


 憑魔がそう言って懐からハンカチを取り出し、血の流れている篠介の額に巻いてやる。


「俺の傷なら平気さ。それよりも、あの嬢ちゃんは何者だ? お前の知り合いか?」


 僕らの前に立ち、盾となって攻撃を防いでくれているウニカの背中を指差して篠介が問いかける。


「あいつか? 今日道端で偶然拾った小悪魔だ。……いや、俺に災いをもたらす疫病神かもな」


「おいマスター! 聞こえとるぞっ!」


 憑魔たちの会話を聞いたウニカが背中越しに声を上げる。


「人の話を聞く暇があったら、とっととあいつらを蹴散らして時間を稼ぐんだ」


「ぐぬぬ……まったく、悪魔使いの荒いマスターだ」


 ウニカはマスターの命に従い、銃弾の雨を振り切り、ヤクザたちに向かって突撃してゆく。男たちはウニカに向かって闇雲に銃を撃つが、彼女の素早い動きに銃弾が追い付かない。追い付いたとしても、弾は肌を通ることなく地面に落ちるだけだ。


「ふん、そんな玩具みたいな武器で我が倒せるとでも思ったか? この程度の威力、痛くもかゆくも――いっ! いだだだだだだっ!」


 全く通じない攻撃を前に、それまで粋がっていたウニカが突然痛みに悶えた。ヤクザの一人が乗ってきた車両の後部座席からアサルトライフルを引っ張り出してきて、ウニカに向かって連射したのである。拳銃弾と違って口径が大きく、弾丸の先が鋭く尖っているライフル弾は、ウニカの肌を貫通せずとも痛みを感じさせるだけの威力は発揮するようだ。


「くぅ〜〜っ……やりおったな! ひ弱な人間の分際でぇ〜っ!」


 ウニカは涙目になりながらも激怒してライフルを撃ちまくるヤクザの男に襲いかかり、脚を掴んで地面に叩き付けた挙句、その男を棍棒のように振り回して周囲の男たちを一気に薙ぎ払った。大人一人を軽々と振り回すことのできるその力に、憑魔と篠介は圧倒される。僅か十秒も経たぬうちに、道路上には計八人の男が転がっていた。


 ようやく全員片付けたかと、憑魔は眉間に垂れる汗を拭う。


 ――しかし、安堵したのも束の間のこと。遠くから聞こえてくる新たなエンジン音と共に、道路の延長線上から更なる影が現れる。憑魔は接近してくる影を前に嘆息を漏らした。


 ……どうやら、襲撃者たちはそう易々と自分たちのことを見逃してはくれないようだ。

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