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新しい任務(1)

  第一王子毒殺未遂事件のごたごたで、どさくさ紛れに家を出る羽目になったり、表向き死亡したことにされてしまったりと、さんざんだった六月はあっという間に過ぎ去って。自分の葬儀の警備なんて、ほとんど嫌がらせとしか思えない任務につけられたりと、こまごまとした後始末に駆けまわっている間に七月もさっさと終わってしまって。

 今年は合同演習に行けなかったなぁ……と、辺境伯領を守る友人たちの顔を思い出しながら迎えた八月。中隊長じきじきに呼び出された僕は王都の遊郭(ゆうかく)を対象とした衛戍(えいじゅ)勤務を命じられた。


 衛戍(えいじゅ)勤務とは、特定の地域に配備された軍が、その地域の警備にあたって軍紀や風紀の監視、軍の関連施設の保護、衛生管理を行うものなんだけど……独立した警察組織のないシュチパリアでは、僕たち第二師団、通称「警邏(けいら)師団」が警察としての機能を果たしており、王都全体の風紀衛生の監督も行っている。


 特に花街は、軍人が任務の合間に遊びに行くことも多いので、治安や衛生状態がきちんと保たれていないと、部隊内に病気が蔓延したり、休暇中に事件に巻き込まれて戦線を離脱してしまう兵士が出てしまう。だから駐屯地近くの花街の風紀衛生を保つ事は、軍規の維持の為にも重要だ。


 幸いなことに、イリュリアをはじめシュチパリアの主要都市では、花街は遊郭として決められた一角にのみ行政の審査を経て営業を許される、集娼制度をとっている。だからきちんと花街の管理をしていれば、いわゆる花柳(かりゅう)病と呼ばれる性感染症の流行はある程度抑え込めるはず。

 そこで、今回からは、警邏(けいら)隊の所属でおおまかな医療知識を持ち合わせている上、立ち回りも得意な僕がお手伝いすることになったわけ。


 もっとも、僕自身はずっと組織犯罪を取り扱う部隊にいたので、衛戍(えいじゅ)勤務にはあまり馴染みがない。どうして急にお声がかかったんだろうと首をひねっていたんだけど、どうやら先日うちの部隊の飲み会で他の部隊で淋病が流行ったって話が出た時に、「ちゃんと花街の衛生管理してるんですか?休暇の時にお世話になる人も多いんだから、廓の方で管理ができてなかったら、当然軍もやられますよ」なんて言っちゃったのが、回りまわって衛戍(えいじゅ)担当の第四中隊の人の耳に入ったみたい。

 酔って余計な事言うもんじゃないよね。


 もちろん、引き受ける以上は僕も全力で新しい任務にあたるつもりだし、この機会に花街の環境改善に少しでもお役に立ちたいと思っている。聞いた話では、イリュリアの花街でも、未だに病気になった女性をまともに治療もせずに、死ぬまで無理やり働かせるような娼館も存在するらしい。この機会にきちんと取り締まって、少しでも人々が安心して遊べる、働ける場所にしていきたい。


 もっとも、管轄外のお仕事をするときは、慎重すぎるくらいにきちんと筋を通して、本来の管轄の人の面目を潰さないようにくれぐれも気を付けなければならない。本来の管轄である第四中隊の担当者ともこまめに連携を取りつつ、上が納得できるだけの根拠をデータを添えて提出するようにしなければ、何もすることができないだろう。

 もし万が一僕の手に余るようなら、次回からは軍医を同行させるよう上申してあるんだけど……やはり上層部としては、軍医殿には本部に詰めていて欲しいらしく、また場所が場所だけに大人数で行くわけにいかず、護衛をつけられないのが不安だとか。トラブルの起きやすい花街での任務だから、自力で身を守れない軍医殿ではなく、一人でも充分に戦える僕に行って欲しいと言われてしまった。


 ここまで言われたら仕方がない。不退転の覚悟で最後まで頑張るしかないだろう。


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