上がる原価、上げられない単価
どうするかなー、と二人で頭を捻っているうちに、ご飯調達担当のイグジはマーケットに行っていたみたい。今日の夕食は海鮮かしらね。
「どうだった?」
「やばいわよ…砂糖の仕入れ値が倍以上になるわ。でも値上げはできない。どうしましょ」
「できないとどうなるんだ?」
いまいちピンと来ない様子のイグジに、算術を使って説明する。けど、やっぱりそのニュアンスはうまく伝わらない。
「ああ、考えてたらお腹が減りました!」
「…確かに」
「そうだな、まずは食べようか」
皆で祈りを捧げて食事にする。
紙袋を開けて取り出したのは、魚のフライ。
コロネは食べられないからこっちの野菜ディップのソース抜きでお食べ。
「ええぇ…こんだけ油の匂い嗅いだ後に油もの…」
私の鼻は既に油拒否病を患っていた。
「いえ、でも、たとえばソースをつけて味を変えれば…」
「あら、いけるわね」
この食の知恵にはいつも驚かされる。
別の出店で買った野菜のディップのソースがこんなに合うなんて。ねぇ。
そこに、前も食べたような骨の揚げ物?も取り出す。
イグジ、これ好きなのかしら?
「あー、骨揚げ、美味しいですよね。小型の魚って安いのに美味しくて無駄なく食べられて良いですよね。この骨なんて多分ただ同然で仕入れたのだと…あ!」
何か閃いたみたいだけど。一応ツッコミどころは突っ込んでおかなきゃね。
「あー、ステラ?先に言うけど、この骨揚げ?だっけ?これは先駆者がいるから…」
「いえ、ほかにもあるんですよ!」
突然輝き出したステラのやる気の光に目が眩む。
「イグジさん、セルテさん、明日の開店前の仕込み、お願いして良いですか?」
はいもいいえも答える前に、セルテは湯浴みに走り出し、こちらがご飯を片付ける頃にはもう戻ってきた。
戻ってきたかと思えば、イグジがまだ部屋に戻る前からベッドに入り込んでしまう。
「ちょっと、どうしたの?」
「いえ、私、明日朝イチで行くところができたんです」
ほー、と思う間に、寝息を立て始めた。
コロネは布団の隙間に潜り込んで、お尻と尻尾を外に出してそのまま動かなくなってしまった。
イグジはなんだか、気まずそうに魚の骨をパリパリと齧りながら、酒をくいっと喉に流し入れていた。
「ちょっと!責任取る気のないレディの寝姿なんて見ないの!」
枕で思い切り顔をはたく。
「うお、そうか、そうだな、すまない!」
走り去るように自分の部屋に戻って行った。まったく、もう少し気を使いなさいよ…。
まあ、あの顔をしたステラなら大丈夫。かしら?
安心したような不安なような、なんとも言えない気持ちで私も湯浴みに向かったのだった。