予想外の事態
最初の一週間、売り上げは順調に上がり続けた。観光客だけでなく、地域の人にも何度か足を運んでもらい、ここまで想定の2.5倍の速さで売り進めてきた。
「…まずいわね」
「ええ、材料が…」
そう、既に三週目ぶんの半分まで、材料を使い切っているの。
このペースだと、今週末時点で、早ければ材料が無くなるかも…!
営業終了を待って、材料を調達してくれた問屋さんに顔を出す。
「やあ、ステラちゃん、うまくいってるかい?」
「お陰様で絶好調なんです!…けど」
「けど?」
「売れすぎて材料が足りなくなりそうなんで、どうにかならないかと思って」
二人で事情を説明する。
「あー、今はどこもかき入れどきたからねぇ。予備があるのは粉なら…」
と、ハプ粉とふくらし粉を出してくれる。
「砂糖はどうですか?」
ステラがおずおずと聞いてみる。
「あるにはあるけど…単価が上がっちまう。ほら」
「えーー!三倍!」
砂糖に三倍もコストをかけると、売価は倍近くとらなければならない。
子供のお菓子なのに、そんな価格にはできない、!何より短期で値上げなどしたら、せっかくのリピーターが離れてしまう…!
でも、このお菓子の鍵は砂糖。なら、我慢してでも使うしかない…。
一応、他のお店も聞いて回るけど、多少改善はしても仕入れ値の倍増は避けられない情勢だった。
「うーーーん、どうする?」
ステラがこんなに考え込んでいるのはあまり見ない。
「高くするくらいなら閉めたほうがまだ良いですよ…」
「それも一理あるわね。でも…」
「そうすると、行列しちゃう、買えない人が出ちゃう、食べられない子がいる…」
想像しただけでステラは半泣きだ。
何か代用品を用意するにも、今からじゃあねぇ。
「砂糖の代わり…」「お菓子の代わり…」
ブツブツとステラがつぶやく。
集中すると周りが見えなくなっちゃうんだから。
とりあえずは倍額以上で用意した砂糖を、単価を上げずに販売で使う方向で調整する。
けど、その場合最終週には利益がだいぶなくなってしまっている計算になる。
何とか採算が取れるようにお姉さんも協力は惜しまないわよ。
「…どうにかしなくちゃ」
つぶやくステラの瞳には、炎が灯っていた。