祭りに向けて
ステラの作戦を聞く。
「この街は港町だからか、魚食の習慣が強く、我々内陸の料理は物珍しいはずです」
ほうほう。
「それに、商業の街らしく、沢山の食材が流通していました。特に粉物とお芋はかなり割安です」
へぇ。さすが我らが料理番。
「粉を使った料理は単価設定が高めで割安にボリュームも出せるので、かなり割良く稼げるはずですよ」
悪くはない。なら乗るにしても突っ込みを入れていこう。
「お祭りの期間中、材料は安定して入手できるの?」
「先程お店を構えた問屋さんと話してみましたが、先払いで75レセト入れれば、必要十分に確保してくれるそうです」
「屋台の台車や骨組みは?」
「実行委員会から期間中130レセトで借りられます」
「ここまでで200レセトを超えるが…どうだろうか?」
「悪くはないと思うわ。ステラの料理の腕前もあるし、私も合わせて二人で店を回して、あなたには片付けと用心棒をやってもらうの」
コロネが『自分は?』と言わんばかりにステラによじ登り、ちょっと重くなった身体を首に巻き付けていた。
ひと月分の滞在費を頭の中で計算する。
宿が一日12レセト、日数がひと月、食事が一日二食三人分ずつ。ざっと500レセトはかかるわね。屋台代と合わせると700レセトを超える。
「船代は?」
「俺が調べた。『青の海』向けに定期便が出ている。二週間の行程で一人180レセトだ。
ということは、船代でさらに540レセト。概算でも1240レセトはないといけないから、余裕を見ていくとなると1500レセトくらいは稼ぐ必要があるわよね…。
コルトレでは三人でそれなりにバタバタ働いて、半月でおおよそ500レセト程度だった。それも、カクタスがかなり割良く雇ってくれていて、だ。
「やるしかないわね。普通に稼いでたら数ヶ月足止めされちゃうわ」
私も覚悟を決めるのだった。
「ふふ、楽しみになってきました。放浪の民の料理とか、物珍しいものも出せますし…」
ステラのやる気は最高潮に上がっている。ここまでくると逆に止めるのも難しいだろうね。
「よし、じゃあそれでいこうか」
イグジも乗った様子。
「私はステラを『竜の花嫁』に仕立てようと思ったんだけどね」
「………え?」
「…ふむ、それもいいかもな」
キョトンとするステラと、まともに思案するイグジ。
一瞬間を置いて、ステラが混乱した表情で否定する。
「いやいやいや、私にそんな恐れ多い!どんなに名誉な役割かって町で色々聞きましたもん!無理ですよ!むーりーー!」
「はは、そこまで否定されちまったらできないよな」
二人で話を片付けてしまった。いけると思うんだけどなぁ。
「さ、じゃあご飯食べながら、作戦会議といきましょうか」
手をパンと叩き、一度場を閉める。
今日は美味しい魚が食べたいわね。
「セルテさん、貝焼きって食べたことあります?」
「ないわ」
「美味しいんですよー!海がそのままギュッと凝縮されたような味がして」
「あんた、海初めてって言ってたじゃない!」
「よく考えたら子供の頃海に来てたわけで…思い出すと色々食べてました」
「なによそれー!」
三人でケラケラ笑いながら繰り出す街の屋台。
一体、どんな明日が待っているのだろう。