竜の花嫁
それにしても…。
「随分賑やかな街ね」
三つ目の宿屋の料金を確認しながら思いを口にする。
「貴方達はこの街は初めてですか?」
宿屋の店員が話しかける。
「ええ。何かイベントがあるの?」
「はい、もうすぐ閉漁期間に入るので、大漁を竜に感謝する一年で一番の祭があるんですよ」
…大漁祭か。珍しいわね。
受付の説明を聞きながら、ぼんやりと考える。
普通、漁場の祭りは開漁前か年初めの大漁祈願。
農業の祭りは夏の初めの豊穣祈願とと秋の終わりの豊作感謝。
狩猟の祭りは解禁直後の初物振舞い。
大体の相場はそんなもの。なので、漁師町としての側面以外にも、この街には何かあるのかもしれない。
「今年は“竜の花嫁”が人に降りて来ている年なので、華やかですよ!」
「…“竜の花嫁”?」
気になる言葉が聞こえて来たので聞き返す。
「はい。この地域には数半年前の伝説で『数ある竜の中でも“王”となる星の竜は人に恋をして、人に成り代わった。この世には数十年ごとに、竜の王が生まれ変わった姿をした人間が現れる。その姿のまま、花嫁を探して結婚して、子供を育てるといつのまにかまた人の前から姿を眩ます』という言い伝えがあります。この街は竜の加護を受けていた街ですので、竜の加護がなくなった後も、竜に感謝をし、竜の伝説になぞらえて、この時期にお祭りをするのです」
きっと言い慣れているのだろう。そらでサラリと説明をしてにこやかにする受付嬢。
へー、竜の伝説はあちこちにあるけど、そういう伝説があるんだね。イグジと合流したら教えてやらないと。
「祭りはひと月通して行われて、時間をかけて花嫁役の娘を選びます。花嫁に選ばれた女の子は祭りの最後の週に大役を務めた後、大変な富を受け取り、自由の身になります」
思わず目つきが銭になる。
「花嫁になって自由の身ってどういうこと?」
「好きな男性と結婚できますし、町の外にも出られます。あくまで『祭りの上での約束を終える』ということですね。
へー。
ま、いい情報を得たわね。
船旅代を稼ぐ上でも考慮しときましょう。
通貨単位はレセト、商業の街らしく、相場は少し安いのかしら。各宿で競わせた結果、この宿で一泊8レセト/人を値切り、三人二部屋で連泊確約することで朝食付き12レセト/日数まで落として決めたのだった。
改めて、皆が宿のイグジの部屋で集合する。
そして、ステラが開口一番に言ったこと。
「皆さん、お祭りの始まりです。屋台やって稼ぎましょうよ!」
「そっち!?嫁じゃないの!?」
私の予想を思い切り裏切る相談に、大いに驚かされたのだった。