次の街までもう少し。
海が見えてきた。
不寝番をしながら、一人で色々考える。
こう見えて、私も海を見た経験は少ない。
だって、大陸の西の内陸で生まれて、中央の内陸の魔術都市で大人になって、その東に流れてからも海になんてそうそう行く機会なんてなかったもの。
魔術の師匠に連れられて学会に行く時くらいしかなかったからね。
だから、海と言ってもワクワクするとか泳いでみたいとか、そんなことを思ってるわけじゃない。
ステラがどうしてもっていうなら、考えてもいいけど。
ま、だいぶ暖かい地域まで下ってきたけど、それでも今は冬。そもそも泳げないんだけどね。
そんなことを考えてながら、ステラと不寝番を交代する。
自分でもよく分からないことを考えているなと思いつつ、テントに入って横になると、すぐに心地よい浮遊感に包まれた。
暗すぎない闇の中を、どこまでもどこまでも落ちて行くような浮遊感だった。
気がつくと、幼い私が鏡の前にいた。
ーーああ、夢を見ているのか。
夢だと分かれば客観的になれる。
幼い私の中から、同時に上から、後ろから見るような。そんな視点。
『ねえ、人は滅ぶの?』
『ん?何を言っているんだ?』
『先読みすると出てくるの。なんで?』
両親の顔は、覚えているが印象的ではなかった。
『また気持ちの悪いことを…』
ほらこれだわ。
私の言う事は異端扱い、だから…。
場面が移り変わる。
私が『降りて帰るから先に行って』と無理言って降りたリマ車の後ろ姿。
直後に万年木が倒れ、下敷きになったあの瞬間。
そのあと、祖父のところに預けられ…。
淑女として育てようとしてくれた祖父は、厳しいが愛のある人だった。
ーああ、お爺様。
目の前に優しく威厳のある老人が現れる。
だがその人の、祖父の死も先読みした。
祖父は微笑み、それも受け入れるだけだと言っていた。
そして血を噴いて倒れる祖父を見て、思った。
『私は人に関わってはいけないのでは…』と。
行く先行く先で死を先読みする私は、きっと死神なのだろう。
レクシアが現れた。
『なぜ、先読みして助けに来てくれなかったの?』
と髑髏の口を開いて主張する。
ごめんなさい。都合が悪いところだけ予知できなくて…。あなたの死を見つけられなくて。
ああ、私は死神なのかもしれない。
両親、祖父、レクシア。そして魔術の師匠が現れる。
代わる代わる、呪いのように恨みの言葉を残して崩れ落ちてゆく。
は、と目を覚ます。
身体を起こし、状況を確認する。
いい香りがする。
起きると既に、ステラがご飯を作ってくれていた。
まだぼーっとする頭に、酸味のある油と酢で味付けをした生野菜がとても良い。口を動かすとサクサクという心地よい歯応えが、頭に活性を促してゆく。
続いてやってくる、塩漬け肉をパンに挟んだ、豪快なトースト。この前のサランの肉かしら?
ムチムチのパンを炙って、少し表面がカリッとしているところに塩分の強い肉を細切れにして挟み込んである。
ちょつと悪魔の種を辛いと思うくらい利かせてあるのが目覚ましにちょうどいい。
美味しい朝食を食べている間に、夢の記憶は朧げになってしまった。本当に、ステラのご飯は罪だわ。
なんだか、ひどく夢見が悪かったことは覚えている。
決まってこういう時は悪いことが起こる。
…何か悪いことが起こりませんように。




