迫る刻限
治安の悪い街で手分けして動けないことは、俺たちにとって大いにマイナスに働いた。
セルテも調子が悪いのか、あまり動きがパッとしない中、落ち着かないステラと二人で動くこともリスクでしかない。かと言ってステラが宿でじっとしていられるはずもなく、結局三人で行動するしかなかった。
だが、『二つの穴開きし場』という言葉がピンとこない。
「基本的に、先読みは『私や依頼者のわかる情報』しか出てこないはず」とセルテが教えてくれる。
今回は特に、依頼者も俺たちだから、俺たちが知っている情報しかないはずなのだ。
「私たちの身の回りで『二つ穴が開いた場所』…セルテさんのピアスくらいですか?」
セルテの耳に注目する。
青く小さい一対のピアスが確かに両耳に付いている。
「一応、外してみるけど…」
そう言って、肩より長い髪を左右に運び、ピアスを外して穴をまじまじと見るが、特に何かがあるわけでもない。
覗き込みながら考え込んでいると、セルテの耳からうなじにかけて、じわりと赤くなってくる。
「すまん、悪かった」
男にジロジロ見られるのはいい気分しないだろう。悪いことをした。
他にも一対の穴と言われてピンとくるもの。
目、耳、鼻…どれも確認するが、どうにもこれは違うと言わざるを得ない。
なら。
この街に入ってから今まで通り過ごしたどこか、それか、この酒場の可能性も考える必要があった。
酒場であちこち、一対の穴を探る。
ダメだ、全くヒントが見つからない。
宿から出てヒントを探りつつ、また尾行が来ることを期待したが、それも徒労に終わってしまった。
何せ街に入ってから救護院、救護院から酒場まで、ほとんど最短距離しかいどうしていなかったので、見る場所自体がとても少ないはずなのだ。
あっという間に雷の曜日の夕方を迎えてしまう。
しかし、仲間が大変な間に遭っていても、俺たちの置かれた状況では酒場で働かない選択肢は取れない。客に関係する可能性も否定できない。
歯噛みしながら、勤務の終了を待つしかないのだ。
「昨日のあのちんまいやつは今日はいないんか?」
常連と思しき客にステラが問われ、笑顔で誤魔化している。
その笑顔の裏でどれほど涙を流しているのかと思うと、こちらも胸が痛い。
俺は客の中に『二つの穴』のヒントがないか、竜が獲物を探すごとく、しらみつぶしに探るが、どうしても見つけることはできない。
閉店時間を迎える。
タイムリミットまで、あと一日と少し。