カヌイの街を出て
水竜との衝撃的な出会いから一週間。
だいぶ回復したステラと、レクシアの弔いを終えたセルテとともに、数日かけて街の探索を行った。
残念ながら、生存者は…いなかった。
だが、あれほど古く大きな街の民が全滅するとは思えない。支配者の館で見つけたメモからも読めたが、ほとんどの者が集団で転居したのだと思いたいものだ。
カヌイの街は、もう夜だけ生命を主張することはなかった。
ところでステラの衣服について、滅亡した街の商店に残されていた衣服くらいは貰っても許されるのでは?
俺はそう思ったのだが、ステラは頑なに、
「そんなこと悪くてできません」
と主張した。
まあ、セルテのお下がりを着てはいるのだが…サイズ違いな服は色々と刺激が強く、男には大変危険だ。
本人がどう思っているかはともかく、新しい街に着いたらなるべく早く買い揃えてやろう。
ヒッポの雑炊を大満足で食べ終えると、ステラはよく採集するアルカラの実を剥き、皆に振る舞う。
カリッとした食感に続けて多少の酸味が癖になる。そのあと待っているのは、程よい甘味と鼻に向ける良い香りだ。
ふと残しておいた実の半分を、よく取り出す瓶に入れているのを見つけ、何をしているのか尋ねてみた。
「ああ、これはアルカラ種ですよ」
いや、ですよと言われてもよくわからん。
「放浪の民の知恵で、この瓶の中には見えない位小さな生き物が沢山います」
「ほう?」
「そこにアルカラの実を入れると、この子たちは一生懸命アルカラを分解します」
「ふむ?」
「そのうち分解されてできるのがアルカラ種です」
まだよくわからない。
「嗅いでみます?」
パカっと開けた瓶から、なんとも言えない香りが漂ってくる。いい匂いとも臭いとも言えない、なんとも言えない、まさにその言葉が当てはまる香りだった。
どういう反応をしたら良いかわからず考え込んでしまう。
あはは、と笑うステラ。
「じゃあ明日は、このアルカラ種を使ってご飯を用意しましょうか」
…どんな料理になるんだろうか?
ここが旅先である事を忘れてしまうほど、彼女の料理法は多岐にわたる。何せ行動を一にしてからというもの、ほとんどメニューが被らないのだ。
「ああ、楽しみにしていよう」
俺も笑って言葉を返した。
しかし、ついこの間、その彼女は危うく死にかけた。数日死線を彷徨って、なんとか命を繋ぎ止めた。
あんな事、二度と御免だ。彼女には謝りきれない。
セルテの首元に目をやる。
たるんだ胸元から、最近ここを定位置にしているコロネが顔を出して、うとうととしている。そのコロネの横あたりが針で刺された場所だったはずだ。
首筋の跡は、今はもうセルテの力で完全に見えなくなっている。だが、俺は忘れることはないだろうな。
ーぱすん
「あんた、女の胸元をじっくり見るんじゃないわよ」
セルテが思い切り刺殺魔術を俺の右足の靴、親指から数セメトの距離に放ってきた。
「あぶねぇ!」
冷や汗が噴き出した。
あと少し、ズレたら足の指が吹っ飛んでいたわ!
「ほらステラ、寒いでしょ?」
目線はこちらにジトリと向けながら、毛布でステラを包んでいく。濡れ衣だろ。
「で、次はどこに行こうか」
我々は、目的地を失っていた。
「…竜に会いに行きませんか?」
ステラが空を見上げながら、提案した。




