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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
幕間④
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凡人と天才

“進化の反対とは何か?”


師匠から考えるように言われた課題。これまで漠然と魔術の奇跡を当たり前と捉えていたことを叱責されたように、私はこの問いに常識の範囲から飛び出して応えることが出来ずにいた。


きっと、同い年でも天才肌のセルテなら、さっと答えてしまう。


同じ問いについて、姉弟子や弟弟子たちが色々語り合っているのは聞いていた。

いざ自分で考えてみると、やはり退化しかパッと思いつかないのよね。


ーで、セルテはどう思う?


彼女のことを考えたからだろうか、姉弟子と歩くセルテの姿が目に入った。


「この問いは”環境への適応”という定義で進化を括るかどうかだと思います。私が思う一番ナンセンスな回答が“退化”ですね」

「うそお、私も退化だと思って論文まとめちゃったわ!」

「退化とは“環境への適応”のために不適な部品を排除していくことと考えれば、すなわち退化も進化の一つ、と見る方が自然です」


あ、と気付かされる。


「ならば、進化の反対とは“環境への適応”を無視することですから、“不変”“停滞”もしくは“概念的な行き詰まり”とみるのが良いと思います」


これが模範回答か。と感心した。


全く、いつもいつも、セルテの発想は私の上を行く。姉弟子として失格だわ。

でも。



……あれ?私、なんでこんなこと思い出したんだろう?


脱ぎ捨てた殻だと思っていた私の思念の抜けた身体に、セルテが何か細工をした。


おのれおのれおのれ…忌々しい!



「ねえ、レクシア。魔術属性の反転について、私も調べてた時期があるの」

悲しそうな顔を向けて、セルテが何か言っている。


「反転魔術はできる属性、できない属性がある。知ってた?地水火風雷光闇の七属性は無理。でも、でもね」

私を見下ろして?見上げて?よくわからないことを言う。


「無属性は反転できる。この意味わかる?」


…あ。



またふと思い出す。




「魔術師ならば元素たる七属性とその他の属性との違いに常に思いを馳せよ」

そう言って師匠が私を見た。

「レクシア・ライラクス。その違いを具体的に答えよ」


うそ、考えてなかった!

「はい、七属性の本質は自然の力です。それに対して、その他の属性は意図や思惑、病い、呪いなど、人や生き物の営みで生まれるものです」

「説明を求めているのではない。違いを考えろと言っている」

「はい」


師匠はがっかりした表情でセルテを当て直す。

「はい。根本的な違いは『人が変えることができるものか』です。つまり、病いは大きく見れば医術で対応し、呪いは反呪で処理できます。さらに大別すれば反転魔法で処理が可能か不可能か、に行き着くでしょう」

「ふむ、反転魔術と結びつける…面白い。理論が出来上がったら是非私に知らせるように」




…そう、師匠の課題で調べたのよね。懐かしいわ。


「なぜ!なぜいつも!私の先を行く!」

これは本音。

いつだったセルテが一番。私はコツコツ丁寧に学んで追いつこうとするのに。


「羨ましい…」

これも本音。

私にあなたと同じだけの才能があれば…いつでもそう思っていたわ。



…でも。


「でも、大好きよ…」




最期に言いたいことがちゃんと言えたかしら。

私は…なんでこんなことしちゃったのかなぁ…。



ああ、綺麗な光…。

私が闇に包まれてから、目を向けることもできなかった暖かい光。

そうか、私自身が悪に、闇に反転したたのか。

ああ。心地よい…


セルテ…ごめんね。そしてありがとう。



こうして私はレクシア・ライラクスとして最後の瞬間を終えた。終えることができたのだった。

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