レクシアの真実
さらに二日。だいぶ体力は回復してきたし、足の痺れもなくなったところでついにまた街に入った。
やっぱり、街は崩壊していた。歩いても歩いても、誰にも出くわさない。
毎日灯りは人を引きつけんと夜な夜な輝いているのに、街の中には誰もいない。
新市街を抜け、旧市街へ。
この先右に曲がると…あった、『銀の天秤』だ。
ーかちゃりとドアを開ける。あれから大きな変化は…ないだろうか。
あらためて、レクシアさんに祈りを捧げる。
この狭い店の中で、[深い]場所を探すことができるのかな。
レクシアさんのベッドを動かしてみても、特に何もない。天井裏には入れるような入り口がない。
地下室の階段などもない。
「当てが外れたか」
イグジさんは窓を開ける。
「レクシアは学者肌の魔術師でね。魔力素材についてずっと調べてた」
セルテさんは、お店の奥の居住スペースを調べていた。私たちは、お店のカウンター、最後にレクシアさんが横たわっていた場所のすぐそばで、レクシアさんの痕跡を辿っていく。
『魔術素材の効率化研究ー最低の素材から最良の術を放つために』
『蓄魔力素材大全』
『質量、法則を突き破る奇跡の素材』
『聖属性、闇属性と無属性』
『属性魔術の反転ー炎を水に、光を闇に』
『月の力と日の力』
『無力化、反転攻撃の理論』
そんなタイトルが並んでいた。
「なあ、ステラ」
「何です?」
「だいぶここの本、反転魔術に関するものが多いよな?」
あ、確かに。栞もついてる。
本を取り出して、栞のページを開く。
『闇を光に、悪を聖に変換する技術的理論』のページだった。
“理論構文に破綻。火と水の相互性が否定された”
付箋にはメモなのか、几帳面な字が書き込まれていた。
よかった、私そんなに読み書き得意じゃないけど、ちゃんと読めるよ。
別の本を見ると『属性の概念的分解』について、「炎の根源=明かり、燃焼。燃焼は水、明かりは闇?」、というメモが残っていた。
素材の本にも手を伸ばす。
『奇跡の素材』のページでは、私が無くした“水竜の涙”にもチェックがついていた。
セルテが寝室から戻ってきた。
日記を開き、悲痛な顔をしていた。
「レクシア、この街の水の問題をどうにかしようとしてたんだね」
「はい、あの時の表情、とても真剣でした」
思い出しても胸が痛くなる。
「それで、真面目に真面目に取り組んで、越えられない壁に躓いた」
今の今、見ていた内容を思い返す。
「日記には、日に日に焦っていく様子が書かれてるわ」
そう言ってページを広げてこちらに見せる。
さっきの几帳面な字とは打って変わって、ガタガタに大小も筆圧も大文字小文字も狂っている。
「街の人が水を飲めず死んでいく。心を痛めて…」
ぺらりとページをめくっていく。
「さらに追い込まれていってー」
その結末は、聞きたくなかった。
「ーそして壊れた」
見せつけられた最後のページには、かろうじて読めるかどうかという字で『もうダメだ、死のう』と書かれていた。