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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
第一章 ステラの章 エバフでの日常
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夕八の刻、水竜の左足通り2番街裏路地、山猫の酒場にて

果物の依頼達成のご褒美は、果物屋ベノム夫妻の美味しいパイとかわいい息子ちゃんの作ってくれた御守り。こんなに心強いものはないね。


出張料も色をつけてくれて。だいぶ潤っちゃった!

バッグから銭袋がカチャカチャと楽しげな音を奏でているのが聞こえてくるもの。


さて、依頼をした傭兵さん、来てくれるかなぁ。

一応一刻ほど先に行って、事情をマスターたちに伝えたほうがいいかな。


酒場の扉を押すと、いかにも平日らしい閑散とした店内に、なにやら険しい顔をしたマスターとセルテさんがいた。


「戻りましたー!マスター、今日私宛にお客さんが来るかも…」

言うが早いか、セリアさんがそっと指をさす。

その先に目をやると…開けたドアに挟まりそうなところに、厳つい鎧を着込んだ、ちょっと頼りなさげな男の人がいた。


「イグジさんですか?」

「……そうだ。あなたが依頼主の…?」

「はい、ステラといいます。来ていただいてありがとうです」


一見して頬がこけて、目が窪んでぐったり気味なこの人。こんなに細身でアリカバンバやヤムル、メクロ鳥をやっつけちゃうんだ!


「あーー、ステラ。この人は…?」

マスターが何やらとても渋い顔をして、わって入ってきた。


「今度ちょっと難易度の高い依頼があって、護衛をお願いしようと思うんです」

ガタガタッ!


んん?振り返ると、常連の皆さんが身内が無罪で捕まったかのような顔でこっちを見ている?何があったのかな?


とりあえず、笑顔でひらひらと手を振ってまたカウンターに目を向けると、セルテさんが背を打たれた竜のように前に立っていた。


「あんた、また無茶しようって言うの!?」

その語気の強さったら、火を吐かれたのかと思うほど!


「ひえっ」

思わず吐息が漏れちゃったよ。

「いえ、あの、だからですね、私より強い人に護衛をですね…」

「それじゃあれよ、旅先でなにやらあれこれされちゃったらその時どうするのよ!」

「!?」


どれ?なにやらどれこれされちゃうってどんなこと?

頭の中は訳がわからず大混乱。


「要はあんたの貞操を心配してるの!」

「ふえっ?」


セルテさんが言いたいことがやっと何となく見えてきたような。


って!

「待ってください!きっとそんなことないですよ」


後ろからアノマさんが割り込んだ。

「いいや、ステラちゃんは俺たちの娘みたいなもんだからな。変な奴にゃまかせらんねんだよ」

ひえっ、アノマさんが絶好調!


「そうだぜ、俺たちの竜の御使さまだからな」

昨日のおじいさん、いつの間にそんなに仲良くなっちゃって!?


ーーそうだそうだ!


あちこちから常連さんが一向の声が響く。いつの間にこんなに来てたのかな??


セルテさんがさらに被せる。

「大体いつも無茶ばっかりして。今度はこんな奴に…」


ぷつーーーん。


「はい、ちょっと皆さんいいですか?」

あ、コレ久々にやっちゃうかなぁ…


自分でも予想以上に冷たく平坦な声で、周りの温度がさっと下がる気がする。


「皆さんが私のことを思って言ってくれるのはありがたいのですが」


「あ、ヤバ」

セルテさんが察知した。

マスターはいつのまにか厨房に避難したようだ。


「セルテさん戻ってきてください」

「ひっ…!」逃がしませんよ。


「私が無謀をするのはいいとして、イグジさんに失礼ではないですか?」

「そもそも、弱っちい私がソロで冒険しているほうが悪いわけで、そのフォローを頼んだイグジさんには落ち度はありませんよね?」

「だと言うのに、皆さん私でなくイグジさんに向けてなんて言葉を吐きかけるのですか」


「す、ステラちゃ…」

「お黙りください」

アノマさんだって同罪ですからね。


「私もう怒りましたよ。マスター!」

「お、おう」

遠くから時間差なく返事が来た。


「今日はもう皆さんにお酒なしです!いいですね!」

「うわぁぁぁ!」


みんなが嘆くけどそんなの知りません!






一刻ほど滔々とお説教をした後、みんなにマスターのご馳走を振る舞ってもらってやっと気分が落ち着いてきた。


「あーー、久しぶりに肝が冷えたわ…」

セルテさんがぐったりしながら丸椅子に腰掛けた。


「ふーんだ、みんなが悪いんですよーだ!」

「いやあんたも悪い。悪いけどうちらも悪かったわ」

「わかればよろしい」


セルテさんとの言葉の応酬はとても心地良い。

お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかな。





「ところで…俺はもう入ってもいいだろうか」


ドアの前で扉に挟まれるような姿勢のままだったイグジさんを、今の今まで誰も覚えていなかった。


時刻はちょうど、夕八の刻だった。

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