目玉焼きの真相
それから二日、イグジさんは狩りと採集を続け、セルテさんは私の看病を続けてくれた。
一昨日は、全く体が動かせなかった。
どうにか寝返りだけ打つと、またそのまましばらく眠りについて、起きてはお粥を食べて、また薬を飲まされる。この繰り返し。
昨日になってだいぶ右手が動くようになって、少しずつ動かせるようになってきた身体を起こして、イグジさんの獲ってくれた獲物と採集した穀草を簡単に料理したりしながら、回復に努めた。
「結局、『支配者の館』は失敗だったね」
「円とはなんなんだろうな」
行き詰まった。
食事をとりながら、考えるがなかなか名案は浮かばない。
一度、思考を切り替える必要があるよね。
あのとき、蜘蛛の巣で、付与魔術の常識とは外れたことをやった時も、ちゃんとできた。あれだけ蜘蛛達に硬いマントを噛みちぎられていたのに、体は無事だったのだから。
で、今やるべき思考の切り替え……[円]の発想。
その時、ふとイグジさんが食べていた卵の焼き物が目に入った。
黄色の芯の周りに、白の外枠。
…そうだよ。
[この街]を円に見立てて、それが旧市街だけじゃ、おかしいのでは…?
「セルテさん、思ったんですけど…新市街含めてこの街の形ってどんな形だと思います?」
「…確かに考えてなかったね…ちょっと待って」
セルテさんが右手の親指と人差し指で円を作ると、何か唱え、そして覗き込んだ。
「…ステラ…当たりだよ。この街の旧市街含めた形が別の円になってる。旧市街みたいに綺麗な真円ではないけど、大体の楕円になってるわ」
やっぱり。
「じゃあ、じゃあですよ?その中心って、私たちの知っている場所だったりしませんか?」
この街に来て、1番の異変が起きた場所。セルテさんが、私が遭遇した、あの場所。
「…レクシアの店、か」
「当たり」
セルテさんは複雑な表情を浮かべた。
レクシアさんの店の出来事があってから、この街の様子が変貌した。
2回目の訪問では、その本当の姿を見せられた。
他のところでは、人の死骸は蜘蛛が食い荒らしていたのだと思う。
…でも、レクシアさんはあの場でそのまま、命果てたままでいた。
もちろん、各家庭それぞれにはまだ取り残された亡骸もたくさんあるのだろう。でも、その違いは何?
布に書き留めた先読みを、あらためて読み返してもらう。
『円の中心。その深部。支配者とその命の皮剥きに付き合わん。滅び、あるときはまた栄えんと、その命は尽きぬ。水の竜の灯火に導かれん』
もし仮にレクシアさんの店がそうだとして、[その深部]とは?
滅びたのがこの街だとすると、また栄えようとして命が尽きたのは誰?
そして、そこに突然現れる[水の竜の灯火]。
核心に近づきつつも、まだまだ分からないことがたくさんある…。
「まあでも、まずは」
「…はい、頑張って早く元気になります」
しばらくは回復に努めよう。