セルテとレクシア
「レクシア?」
セルテさんがそっと遺体に近づく。
私はイグジさんと顔を見合わせる。
「…」
イグジさんも黙って頷いた。
ただただ、黙ってセルテさん達を見守った。
「あんた、こんなになってまでお店を守って…。なんで…」
大きな瞳から涙が溢れる。
気がついたら私も、泣いてしまった。
私にできるのは、見守るくらいのことだった。
一刻ほどそうしてたけど、ついにセルテさんは立ち上がる。
「レクシア、客のくせに裏に入ってごめんね」
そう言ってセルテさんがお店の奥に入る。
私たちは、カウンターまで。
ここから先は、入ってはいけない世界だと思うから。
しばらくすると、昨日使った白水晶を持ってきた。
だいぶ手入れされていなかったのか、とても曇っていた。それを大切に、愛おしそうに、丁寧に拭き上げる。
セルテさんはロッドの先端の“怪鳥の拡声器”を取り外して…代わりに白水晶をロッドに嵌め込む。ちょっと大きすぎると思ったけど、セルテさんが何か呪文を唱えると、水晶がさらに凝縮されてちょうど良い大きさに変わる。
「レクシア、あなたの無念は私が引き継ぐ。あなたのお店はここで途絶えるけど、あなたの思いはこの水晶と共に。私はあなたを忘れない。あなたの誇りを汚さない。ここであなたに誓うわ」
昨日会ったレクシアさんの姿が忘れられない。
どうして。疑問が尽きることはないけど、前を向かなきゃ。一番辛いのは、セルテさんなんだから。
レクシアさんの亡骸は、三人でベッドに運んだ。
お店の奥に入ることはしたくなかったけど、彼女をカウンターでうつ伏せのままにしておくことはできない。一つ一つ、バラバラにならないように、服がはだけないように。あの綺麗な肌や肢体が誰かの目についたら大変だもの。
そのあと、みんなで手分けして探しても、“水竜の涙”は見つからなかった。
道中に立ち寄った『欲深い老婆』の店の跡地にも、私たちが寝泊まりした痕跡以外は特に何も見られなかった。
「昨日見たのは、“この街そのものの亡霊”なのかしらね」
「そんなことがあるんですね」
パパから聞く冒険譚、ママから聞く星の伝承には、そんな出来事は全くなかった。
「私も…初めて見たし体験した。聞いたこともないよ」
「先日の“コゴロシの森”ともまた違った、これも死者との交信てところかね」
薄々気づいてはいたが、イグジさん達との会話でいよいよ理解する。この街は滅亡していた。そう考えるべきなのだと。
「[円の中心]を探そう。それしか手はないだろう」
「…“支配者の館”、ですね」
「レクシア…間に合わなかったけど、あなたの無念は絶対に晴らすわ」
静かに、確かに、セルテさんの赤い瞳は光を放っていた。




