旧市街の『銀の天秤』
「あれ?」
街に入るときに違和感を覚えた。
これまで、どこの街や村に入る時も、ほぼ確実に外壁や自然の障壁があったのだが、この街にはそれがない。
「ああ、門のこと?」
流石セルテさん、私の疑問を即解決。
「この街は歴史が古くて、千年前には今の形がほぼ出来上がっていたみたいね。当然その頃には城壁見たいのが出来上がったわけだけど、この国の権力構造が変わって統治者がいなくなってからは、壁の管理も無くなって、街の人口が膨らんで、壁の外にも新しい街並みが広がった。だから、街の中に壁が埋もれているってわけ」
「はぁぁ、歴史が古いとそういうことにもなるんですねぇ」
「いや、安全でないとあり得ないな。この街はこの千年、脅かされることがなかった。だからここまで警備が緩いってことだろう」
「…ふえー」
早速圧倒されてしまう。
「で、こういう街では、新市街と旧市街で求めることが違うわ」
「というと?」
「俺が求める竜の情報みたいな活きの良い情報は人の出入りの激しい新市街」
「私みたいな魔術関連は名門は大体旧市街」
「宿屋は?」
「値段の新市街か格式・安心の旧市街」
「なるほど」
私は生き物や食べ物のことは知っているが、そういう常識には疎い。パパが放浪していた頃は、偏見ばかりで街に入れず野宿してばっかりだったらしいし。
おかげで野食には困らないんだけどね。
「じゃ、俺はこの辺で武器屋を見ながら酒屋を探す」
「宿屋はこの先の『欲深い老婆』ってところが知り合いだからそこに行くわ。交渉は任せなさい」
「私はセルテさんについていきます!」
イグジと別れ、茶色っぽい石畳の上を歩く。
ふと、石壁が出現する。
なるほど、ここからが旧市街というわけね。
壁を通り抜ける瞬間だった。
ーードクン
「?」
巣張り虫の巣を突っ切ったような、なんとも言えない違和感だった。
「どうしたの?行くよ」
「あ、はい」
まあ、いっか。
しばらく歩く。
「セルテさん、この街は知ってるんですか?」
「伊達に24年生きていないわよ。魔術の師匠にはあちこちの街に知り合いがいてね。この街もそう。何度か来てるからね」
はー、お姉さんは違いますなぁ。
きっと私なんか、すごく田舎者なんだろうなぁ。
またしばらく歩く。
「なんか、道が真っ直ぐですね」
「ん?ああ、統治者がいた頃の街並みだからね。何をするにも効率的。街の形も東西南北に門があって、円を作って、その中に縦と横の線がいっぱい引かれたような街並みなのよ」
「はぇー」
よくわからん。
「ほら、店に着いたよ」
案内されたのは『銀の天秤』という古そうなお店だった。
ーースチャ…リーーーン
ドアを開けた瞬間。奥の方でベルが鳴る音がした。
「いらっしゃい…あら?」
「久しぶり」
セルテさんが親しげに挨拶したのは、セルテさんと同じくらい魅力的な、少し小柄なお姉さんだった。