2つの贈り物
バジット家のドアを叩くと、気のいい女将さんが出迎えてくれる。
「あらあら、おかえり!」
「ただいま戻りました!」
ハグをして、ぎゅっと離さない。
「あなた、ステラちゃんが帰りましたよ」
「おお…おかえり…」
おじいさんはもう、起き上がることもできないほど衰えていた。
おじいさんにかぶさるように、ハグをするステラ。
順を追って、夫婦に報告をする。
道の話、山の話、湖の話、そして『罪の石』での出来事と、預かってきた“水竜の涙”、持って帰ってきたぬいぐるみ。
「…そうかい、レイは…幸せなんだね」
「ステラちゃん、ありがとうね」
二人は涙を流しながら肩を抱き寄せあった。
「確かに私たちは、何十年も、ずーっと謝ったばかりだったわ。あの子がどう思っているのかなんて考えんと、自分のことばーっかり。ばかだねぇ」
二人が笑い泣きしている様を見つめる。
ーーふわぁ
風が舞って、机に置いた“水竜の涙"が青く輝く。
…二人の目には見えていないのだろうか?
ステラが石を手に取り二人に渡すと…
「ああ…レイ、レイ。そこにいるのね」
「はは、最期に…もう思い残すことはないな…」
「…いえ、おじいちゃん。レイちゃんが、『生きて』って。おばあちゃんを一人にしちゃダメよって」
「…はは、怒られてしまったな」
短いが、ゆったりした時間だった。
家の外で待っていたイグジのところに、ステラが戻る。
その手の中にはまた、美しく青く光る小石が握られていた。
そしてこの日より、ステラは『ステラ・ファルスター・シルク』と名乗るようになった。
ここまで一つの街を舞台にした冒険を続けてきましたが、エバフの街中心の冒険はここでおしまいです。水の書はまだまだ続きますので、よろしくお願いします。