昼のお仕事
隣のパン屋さんが二番窯を開けると、固焼きパンに入れたハーブの香りが窓から入ってくる。これが私の目覚ましだ。
「……パン」
まだはっきりしない頭。
どう転がったのか、束ねていた髪は乱れ口や鼻の中に束で入り込んでいる。
なんでか、ベッドの枕と頭のある位置は120度ほどズレ、首はベッドから外れていた。あたたた…
でも、夢見は良かったような…。だいたいこんな感じで目が覚める。
昨晩の湯冷しの水を飲み切ると、今日分のお湯を沸かす。
こういう時、村を出る時ママにもらった魔蔵板が役に立つ。
魔蔵板に向けて魔術を付与する。
「アキア…レダ…ナキ…オノオ…クァナツ」 …水を捉え、炎で加熱した状態を再現せよ
時間は…沸騰後の一定時間。2目盛ね。
先月手に入れたカラカラの喉仏はだいぶ消耗してきたけど、まだお湯沸かせる分くらいには何回かは問題なさそう。台座の窪みに設置して、力の循環を確認すると大きめのポットいっぱいにお水を入れる。
大好きなハーブのパンの匂いを嗅ぎながら、バケットを切り、野菜とチーズを乗せる。
マスターにもらった冷製スープも横に置き、お湯が沸いたところで炒り豆の砕き粉にちょっとずつ回し入れる。
濾し紙を通すと現れる、香ばしい飲み物。最近教えてもらったのだけど、コーヒーというみたい。これにハマっちゃって。
「んーーーーー!」
朝から幸せな食事。たまらないね。
階段を降りて店舗へ。
うん、無人。マスターは午後からだし、セルテさんの出勤は夕方から。
では、今日も掲示板に顔を出しますか。
街に出る。
ひんやりした空気から、陽の光が入ってぐんぐん暖かくなってくる時間。
ひとつふたつ、交差点を越えるとこの街の中心、水竜の泉広場に出る。
現在のこの地域の水竜が生まれ変わった時にできたんだって。
水竜はまだ数回しか出会ったことがない。
力のある人たちは、水竜の護る竜玉を削ってくるんだよね…すごいなぁ。
広場の泉のわきに、お目当ての掲示板はある。
『屋根裏清掃お願いします-1マレル』
『牙兎納品(10羽以下)1羽につき80リル』
『蓄力器素材の採集依頼-出来高払い』
こちらは依頼ボード。
隣には個別ボード。
『ランドルの大型獣肉-出来高払い』
『バレルの何でも屋-出来高払い』
この2人、評判悪いんだよね…。
『ステラの食材採集-出張料50レル+おいしいご飯』
を見ると、依頼タグが2つついている。やったね!
「カナルの実、ヨシカケの実。うんうん、すぐできるね」
「もう一つは…ヤシマンバかぁ…うわぁ、これ1人じゃ難しいなぁ」
ヤシマンバ。シロムクの森でカエンドリを丸呑みにする大蛇。私の軽弓じゃ仕留めきれないと思う。追加報酬10マレルってすごい大金だけど…。
どうしたものかと思っていたら、新しい個別ボードがあるのを発見。
そこには几帳面な字でこう書かれていた。
『護衛・傭兵のイグジ』