コゴロシの森へ①
ステラが最後に受けた依頼は、コゴロシの森の『罪の石』への捧げ物だ。
いつもの依頼とは質が違うもの。あの子はそれをわかっていないだろう。
…私もついていこうかな。
店を閉めた後、部屋からなにも見えない暗い空を見上げた。
そうか、今日は月が出ていない。星も見えないなぁ。
コゴロシの森はそれほど遠くはない。水竜の尻尾の門から出て一日半くらいだ。
翌日、ステラは依頼した老夫婦から受け取った果物と、旅の準備をバックパックに用意していた。
イグジは剣を分解して、刻み込まれた魔術紋まで磨いていた。
「ねえ、私も一緒に行っていい?」
二人にそっと声をかける。
「もちろん食事とかは私も持っていくし、費用は折半。いや、私が持ってもいい」
自慢のロッドを二人に見せる。
「もう素材がダメになりそうでね。代理の素材探しに行きたいの」
言い訳だ。
「もちろん」
頷くステラとイグジを見て、私もさっと準備をした。
街を出る。整備された街道では、特に何も起こらない。
だが、この方向から街に来る人はほとんどいない。
しばらく歩くと、ステラがバテて最初の休憩。
ちょうど昼の刻を過ぎていたこともあり、食事を摂る。
ーーきゅっ
コロネが嬉しそうに歩き回り、あちこちで鼻を鳴らしてはコロコロ転がっている。
今日は私の持ち寄ったパンと、ステラの用意した燻肉のスープ、それと道中ステラが見つけた野草をイグジが小鍋で炒めたもの。それに美味しい果物。
「うーん、アンタら、美味しいもの食べてるねぇ」
こうやって一緒に旅するのはほぼ初めて。旅行食は通常乾パンと干し肉のしょっぱい食事程度だろうに、そのグルメぶりに驚かされる。
「私も最初はそんなものだと思ってたんですけど、美味しい調理を知っていて、イグジさんもお上手で、気がついたらこんなことに…」
そう言うステラはニコニコしながらパンを頬張る。なんとも輝いていらっしゃること。
イグジはそんなステラを見ながらまた一口スープを啜る。
これは…恋慕じゃないよね?餌付け感?
二人の表情を図り兼ねつつ私も美味しいスープと炒め物とパンをいただいた。
食事の後はまた歩く。黙々と歩く。ステラがへばっても、野盗のリスクを避けるため、何とか歩く。
ステラの荷物を持ってやる。軽いわ。
…そういやいつでも付与魔術かけてるんだった。大きさと重さの違和感で錯覚を感じるレベルだった。
なんとか日の入りには目的地でベースキャンプを構えることができた。
竜の足跡と言われる不思議な地形で、三角の形をした窪地に水が溜まっている。
非常に清浄で、何故か生き物が近寄らないらしい。
ステラと私、イグジは少し離れてもう一つ。二つのテントで一休みだ。イグジが1番辛い時間を持ってくれるとのことで、私がまず不寝番をとる。
静まり返った、生物感のない池のほとり。
薪の音だけが響いていた。
全く何事も起こる気配なく、私の時間は終わっていく。
イグジを起こす。
というか、私がテントに手をかけたらもう起きたようだった。やっぱり達人の気質なんだよね。
イグジが顔を洗って戻ってくると、私の番は終わり。
その時、イグジから一声かけられた。
「多分驚くと思うが、そっとしておいてやってくれ」
その理由は、テントに入った瞬間にわかったのだった。