赤い瞳の淑女
街が見える丘。
街道を行く人々が、遠く歩き続けて、最後に休憩をとる丘、通称『水竜街の丘』を越えた先に、小さな森がある。
夕方、その森に差し掛かった時に、その声の主は現れた。
「おいおい、予定と違うだろ?」
男たちは警戒の色を見せ、声の方に目を向ける。
「お前ら、ちゃんと殺っとけよなー」
生身の人間に対して、抜き身の刃を向ける。
ステラにはその顔に見覚えがあった。
「イグジさん、この人悪い人です。ブンカっていう薬の原料の草を独り占めにするために人の畑を腐らせたり、ヨシモクの種を買い占めて値段を釣り上げたり、この人のせいで泣いている人がたくさんいます」
イグジに小声で伝える。
「こういう奴に限って、詰め所に金を握らせて偉い奴を黙らせるのは得意ってのがお決まりだよな」
流石にイグジもよくわかっている。
周りからゾロゾロと野盗のような連中が取り囲んでくる。
「あんたらのいう通りだ。俺たちもアイツにとっては使い捨ての駒ってわけだ」
「そりゃご愁傷さま」
野党の一人が下卑た笑いを向けた。
荷物を運んでくれた四人の男たちは、もはやステラを守るのが当然とばかりに守護するように周囲を警戒する。
今にも戦闘が始まる、というまさにその時だった。
「はーい、じゃ、そこまでにしよっか」
美しい女が、場違いなパーティドレスのような装束で、突然ど真ん中に現れた。
「セルテさん!」
ステラが抱きつく。
「よしよし、迎えにきちゃったよ」
唐突に現れた女に抱きつく少女。
周囲にいた夜盗も、その真ん中で取り囲まれた男たちもポカンとよくわからない空気の中、女が手に持つロッドを持ち替える。
50レルのコインを、ランドル顔に叩きつける。
「…お前、ここにきていきなりかましてくれるな?」
ランドルが歪んだ笑顔を向ける。
「契約はご破断で頼むわよ。私の大切なものを、私は見失わない」
半月から新月に向かう月の宵の口、空からの光は薄く暗く、美女の全貌は掴みづらい。
ただその中で、赤い瞳だけは彼女の動きに合わせて糸を引くように光を放っていた。
「イグジ、ちょっと下がってて」
目を離すことなく、ランドルと野盗から少し距離を取る。
セルテはここまで、既に詠唱を練り上げていた。
呪術でなく、魔術の方だ。
そのロッドの先端からは、目に見えない熱の塊が存在感を放っていた。
頭からだいぶ上、剣で届くかどうかというところに、熱源をボール状に集約する。やっと姿を見せたその塊、その表面は赤く泡立ち、小さくするとなお赤く黒く、重い熱を放った。
その一端から、地面に向かい細く長く、エネルギーを取り出して突き刺して行く。
ーースォォォ…
音もなく黒い槍は地面へと吸い込まれるように突き刺さり、貫きて通してゆく。
5数えた後にそこを見れば拳大ほどの直径の小穴が、底知れずどこまでも深い穴が、その中から水を噴き上げて彼らに警告を発していた。
「やる?」
尚も薄ら笑顔で、美女はロッドを野郎どもに向ける。
「いや、遠慮する。ランドル、俺たちは死にたくないからな、引くぞ」
野盗たちはそのまま霧散するように散っていった。




