探偵セルテの真相究明
ステラがいない夜、山猫は別の店と化す。
ーーはぁ…
誰だ今溜息をついた奴は。
マスターじゃん。メソメソしないでちゃんと料理してちょうだいよ!
あれから二日。調査は難航。ステラに聞いた道程だと、ぼちぼち運が良けりゃ相手と対峙している頃だけど、そればっかりはなんとも言えない。先読みしても確信が持てないのには理由がある。
動物の『意志』には思惑がない。
だからなんとなく、読めなくもないのだが、逆にその通りに動く確信も持てない。
今思うと、なんて不確かなものに固執していたんだか。
もはや過去の自分の思考の方が信じられない。
ステラに話したら、笑われてしまうだろうか。
きっと新入りのイグジに話せば、真面目な顔をしてどう答えようか考え込んでしまうだろうね。
その時、入り口の扉が開いた。
「よう」
アイツだ。
「早ければ明日あたり、手に入るかもしれないぜ」
「…!」
平静を装い、洗い物を続ける。
「へえ、仕事が早いね」
「俺は一人じゃ動いていないからな。…アンタがなんか嗅ぎ回ってるのもお見通しだぜ?」
ほら、気に食わない奴。
「じゃ、楽しみにしているわよ」
ステラが帰ってくる。たった三日会わなかっただけで、お預けを食らった四つ足の家畜のように待ちきれない自分がいる。
表情を崩さないように上手く立ち回らなければ。
要件だけ告げると、ランドルは振り返って立ち去っていった。
閉店の片付けの後、裏口からそっと店を出る。普段ならまっすぐ家に帰るが…
ーーカタン
付けられている。
撒く?捉える?
いや、私は魔術師で呪術師。
今は夜。しかも闇の広がる時間帯。ここは私の独壇場だ。
『我が心の澱みよ、闇を擦り付ける対象を見つけたり。
我が後方60歩、影に隠れて我を狙うものなり。
我が闇にて我が敵を捉え、深淵の泥に連れ込まんと欲す。』
ーーとぷん…
捉えた感触が手に重みとなって現れる。
「へえ?アンタも仲間だったんだ?」
そこにいたのは、粘り気のある闇で押さえつけられたバレルだった。
「なんのことかね?」
「いいの?」
「だから何がだよ」
「アンタの彼女、目が悪いんだろ?」
「…なんでそれを…」
「彼女の父親、アンタを信用してないのかね?ランドルからアラガンの飾り羽根を買うってよ?」
「おい、なんだそれ、聞いてないぞ?」
次第にバレルの顔から悪い人相が引いてゆく。
「しかも8マレルときた。普通、そんな金額払うくらいなら娘の彼氏に依頼して、娘にいいもの買ってくるわよね」
「やめろ、やめてくれ…」
「アンタがアイツとどんな約束してるのかは知らないけどさ。アイツはアンタの知らないところで、アンタにも、アンタの周りにも碌なことはしないよ」
「……すまん、冷静になった。いかようにもしてくれ」
「私を付けてた理由は?」
「奴に雇われた。稼ぎが必要だったのはアンタも知ってるだろ?」
「別にいいわ。明日、ヤシマンバの取引があるって聞いたけど、なんか知ってる?」
「…詳しくは言えないが…」
「知ってることだけでいいわ」
「別の採集屋に取りに行かせて、奪うようだ」
やっぱりそうよね。
「どこで知ったの?」
「何人か、協力者がいるからな…俺みたいに上手く転がせる連中が…」
「だいぶ羽振りいいみたいだもんね」
「今日、早便で、その採集屋がヤシマンバを獲った情報が入った」
「…!」二人ともやるじゃん!
「で、持って帰ってくるほどのメンバー人数でも体力もないようだったからな」
次の一言は、聞きたくない言葉の最上位に近いものだった。
「運搬屋のふりして近寄って、殺して奪っちまおうってさ」