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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
第三章 セルテの章 出逢いと別れ
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探偵セルテの場当たり捜査

店に戻り、小ネタを仕込みにかかる。


『生殖器を用いた魔術素材、出来高報酬は事前に相談』

そう書いたタグを、広場の募集ボードに貼り付けに行く。


さて…どっちがヒットするかねぇ。


もはや確信があった。それぞれに時間を指定して、呼び出しにかかる。


山猫に戻り、待つこと数刻。

ステラのいない昼食は簡素であっという間に終わる。

夜に備え、一休みしてしばらくすると、1組目がやってきた。


「バレルだ。生殖器の魔力素材を頼みたいって奴はアンタか?」


いかにも小慣れた坊やがやってきた。


「そうよ。何か当てはある?」


「そうだな、マカクで良ければ2日で納品可能だろう。大体6マレルくらいだろうな。あとは消耗する武器、防具の分を出来高で乗せさせてもらう」


「マカク程度で6マレル?」


「マカクを馬鹿にするなよ?集団戦法で1匹いりゃ100匹が影から狙ってくるんだ。この身一つで戦いを挑むにゃリスクが高い」


「アスガーテとか手に入らないの?」

ちょっと吹っかけに入る。


「…は?馬鹿か?」

ポカンとした顔でこちらを見てくる。


アスガーテとは、二本爪の獣で、その角で縄張りとメスを争う習性から、雄の角と睾丸は高い魔力を集める素材になるのだ。


「25マレル。まけないからな」


「じゃ、この話はご破断だ。街の近くで冒険ごっこでもやっといで」

ほら、とここまでの相談料に50レルのコインをトスすると、それだけ受け取って彼は身を翻した。


「…どうだろうな」

嘘を言っている気配はなかった。しかしだよ。

「感じ悪い奴」


いや、人のこと言えないんだけどね。


マスターに頼んで置かせてもらっている、南方の穀物で作った酒を軽く口に含む。

コト…とグラスを置く音が、誰もいない空間の静寂を強調する。

騒々しい奴がいないだけで、こんなにここは広かったのかと思い知らされる。


ーーきゅ?


「コロネ?こっち来るかい?」


名を呼ぶと、ヨタヨタとその名の主が現れる。

珍獣マルカ。この国における貴重種でほぼ幻の存在。

幼体は胴が長く愛嬌のある見た目をしている。成体でも雌は幼体の延長線。だが、雄は特殊で、全く別種のような見た目に変化するという。

赤い尾とふさふさの毛並みを持つ四つ足だが、その前足は人並みに器用だ。

親が子を育てるのに数年かかる子育て獣で、一部の強い個体が雌から雄に10年かけて転化する。雄になると成長は鈍化し、寿命も生物としての強さも何倍にもなっていく。

だが、この子は既に雄。

よほど[守りたい雌]が近くにいたんだろうね。


膝の上に乗せると、人の肩を枕に昼寝を始めた。ピスピスと呼吸する鼻がくすぐったいが、悪い気はしない。




ーーキィィィ


二人目のお出ましだ。


「アンタが依頼者か?」

「アンタは?」

「ランドルだ」


本命が来た。

人のことを悪く言わないステラが、依頼で出た先で『あまりにマナーが悪かった』と怒り心頭だった奴だ。


「生殖器の強い魔力素材、何か思いつくものある?」

「近々、大物が入るかもしれないぜ?」

ぴくっ


いつのまにか肩の上に乗っていた、小さなボディガードが、何かの感情に当てられて目を覚ました。


「へぇ?これから大物討伐に行くの?」

「興味あるかい?」


勿体ぶった言い方でこちらの関心をひいてくる。


「そうね、何が入ってくるのかによるかしら?」

「この街じゃ、数年に一回入ってくるかどうかだ。ただし、見つからなかったら諦めてくれ。確率は…そうだな、三割ってところか」


ふーん、三割、ね。

「…七割の確率で『失敗』するの?」


「いや、素材が持ち込まれるの確率はもっと高い。だが、その生殖器が出るかどうかがわかんねぇんだ」


「へえ?『自分で獲ってくる』わりにはあやふやなのね?」

「要は俺はアンタにモノを持ち込みゃいいんだ。そうだろ?」


「で、モノと金額は何なの?」


次の一言で、確信に変わった。




「ヤシマンバだ。手に入りゃ30マレルで手を打つぜ」




彼が出ていった後、彼の足取りを注意して追いかける。

なかなかに面白いものが見られた。


不思議なことに、彼の売り込み先では、必ず彼の持ち込むものが手に入らない状況になっている。


右前足通り4番街表通りのミーニャは赤玉の反復石を20マレルで買わされた。

右後ろ足爪マーケットではラスクルがハラーマの骨粉を10マレルで買わされた。

尻尾通りの先端の門番は可愛い娘のためにアラガンの飾り羽根を8マレルで注文していた。


どれもこれも、相場の数倍だ。


コイツはどうやって、ステラとイグジからヤシマンバを奪い取るつもりなのか?


既に入荷を当てにしている以上、何か勝算を確信する仕込みがあるはず。


実力的には、それなりのものがあるのだろう。

隙のない立ち回りには自信が見え隠れしている。


そして、これだけアコギな商売をしながら尻尾を掴ませず、のうのうと食ってこれているという事実。


こちらも注意してかかる必要があろう。

さあ、仕込みの時間だ。動くのは明日からだ。

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