探偵セルテの聞き込み調査
ヤシマンバの件で、私は私なりに動くことにした。
あの娘に危害を及ぼす意図を持つ者がいるのではないか。
それは、確信に近いものだった。
人の感情や思惑は先読みで図れない。
思惑や信念のもと行動した結果、先読みは変えられるものだから。
なら、ステラがその信念を曲げずに全うできるよう、陰ながら手助けするのが、私の信念なのだ。
まず、ヤシマンバの納品先。
ステラはそういう情報を明かさない。誰かの不利益になることを理解しているから。
なら、状況証拠を揃えるまで。
「私の情報網の出番ね」
と言っても、自分の能力に驕り、人と関わらないできたツケを払わなければならないね。
山猫の常連で、食材に通じているのが2人。
昔から山猫に通うアノマ爺さんと、新しく常連になったエンバック爺さんだ。
今日は遠征に行く前の買い物だと、相方と和気藹々、街に出ているステラのために、エンバック爺さんの店に顔を…ステラいるし。
そこには、見たこともない調理法の新メニューを試し、舌鼓を打つ2人の姿があった。
さっき影で動くと決めたばかりでこれは何となく恥ずかしい。
順番を入れ替え、アノマ爺さんの商会に顔を出した。
「おいおい、旅に出る気もなさそうな顔がこんなところにあるぞ?」
「うっさいわねぇ…」
でもそんな軽口の応酬も嫌いじゃない。
「あのさ、今どこかでヤシマンバの需要があるの?」
爺さんは一瞬考え、答えた。
「あーー…貴重だからなぁ。いつでも需要はあるんだよ。皮も骨も毒牙も耳石も探知器も頭蓋も何もかも。それに生殖器なんか雌雄問わず媚薬の素で滋養の薬の原料だ。喉から手が出るほど欲しがるジジイがわんさといるだろうよ」
「あんたもそのクチ?」
「うるさい小娘」
小気味良いやり取りの後、爺は別の客の応対に向かっていった。
…生殖器だけは私が買い取ろうっと。
でも、別に誰かが買い取りを希望しているわけではないのかな?
改めて、エンバック爺さんの店に行ってみる。
どうやら2人はもう店を出た後のようだった。
「おいおい、同伴でご出勤かい?」
「それならこの店質に入れなよ」
「こりゃ参った、まだ稼ぎが足らなんだ」
そのキャラクターの濃さは並み居る古株の常連に負けず劣らず、アクの強い食わせものだ。
「いま、どこかでヤシマンバの仕入れ強化してる問屋はあるかしら?」
「んん?」
この後の反応は予想がついた。
「いや、いつでも欲しいが出回らん。出るときゃ総出の奪い合いよ」
そうだよねー。
じゃ、別のところになるわけだ。
なんとなく、私にはもう読めていた。