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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
第十三章 セルテの章 王国の未来と天の声
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ラティス族のリディア

そして、最後の一人である。


「あと一人はどこにいるの?」


兵士は急に言葉を濁す。


「この市場の隣の島になりますね」

「じゃ、行きましょ」


他の島が、ほとんどがレンガや石積みで作った人工島ないしは護岸が大半の島なのに対し、向かう島は明らかに漁業者向けの作りにはなっていない。向かって右には砂浜、左には高い崖がそびえ立ち、崖の上の方からは川が流れ込み、滝を形作っていた。


右の砂浜側からアプローチしようとすると、船の侵入を阻むように暗礁が透けて見える。


これ、中、大型の船だったら近づこうにもどこから上陸すればいいのかしら?

幸い、ボートなら暗礁の上を通れる道筋はあったので無事通過して砂浜に接岸する。


「ここから登ります」

と指差すのは延々と続く階段。


「…げっ」

おっと、本音が出ちゃった。


仕方なく、一段一段と登っていく。自然の石を積んで作った階段は、一段一段の高さも違えば手すりもなく、濡れて足を滑らせれば一番下まで止まることなく行ってしまうことでしょうね…。

高い所の嫌いな私は、息を切らせながら慎重に昇らざるを得ないのだった。


半刻はかからずに、なんとか一番上まで登り切れた。その先には、広い平原とその奥には森、そして山。右手に小屋がいくつか見えた。


「あそこ?」

「そうです、行きましょう」

と言う前に、向こうから四つ足の獣に乗った人物がこちらに気づいた様子だった。こちらもその人物の方へ向かい、あちらもこちらに向かって進む。しばらくすると、立候補者と思われる人物にやっと会うことができた。


その耳は、人間よりもだいぶ高い位置でピンと三角に立ち、お尻の上の方からはくるんと丸まった尻尾が生えていた。


「はじめまして、リディア・ラティスと申します」


これまでの人物の中で一番腰が低く、礼儀正しい。


「こちらこそ初めまして、今回の選挙の実行役のセルテよ」

握手を求められる。

爪が少し鋭いのかちょっと痛い。


犬、だろうか?

人懐こさと気高さ、どちらも感じさせるのは種族より人徳ゆえだろうかしら。


「半獣人、怖くないですか?」

「全然。普段もっと怖い娘がすぐそばにいるから」

「ええ!?」

クスクスと笑うリディアはとても可愛らしい。


「今回はこのような機会をいただけて、私感謝しています」

「…まだ選挙は始まったばかりよ?」


リディアが少し遠くを見る。

「いいんです。立候補ができても選ばれるわけはないとわかっていますから」

吹き抜ける風。乱れた髪を整えるのがいじらしい。


「今回、選挙に立候補したのは何か意図があるの?」

「はい。まず第一は私たち半獣人の立場の向上。第二にこの地域の閉塞性の打破。そして第三に、王国の将来的な世界復帰です」


これまでの人たちの中で、明確に先を見通した、はっきりとした答えだった。


「でも、まだまだ私たちが当選するほど立場は優しくないでしょう」

「見たところ、制度的な差別は少なそうだけど…」

「そうですね。制度上、私たちは一般の方々とは変わりません。でも、人々の見る目はやはり違います。四千年前に王様が解放令を出す前は、職業も限られていました」


「…そう、大変な過去を背負ってきたのね…」

「いえ!もう数千年も経ってますから」


そう言う彼女は晴れやかだ。


彼女に肩入れする気はないけど、正直、選ばれてほしいなと素直に思う。




でも、条件は同じ。私は彼女にも明日の『選挙演説会』の旨を説明して、立ち去った。





…忘れていた。階段は下りの方が危ない、ということをね。

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