表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
第十三章 セルテの章 王国の未来と天の声
275/294

結果論

王様の顔はまるで、そこだけはこの先誰が来てもこの木が王様だったとわかるためとしか思えないほど、はっきりと人の頃の形を留めていた。


そのお顔に触れる。心の臓の位置と思われるところに耳を当てる。

鼓動がない。

代わりに、中を水が流れるようなゴポッという音が静かに響いていた。


ほんのちょっと前まで、私たちが顔を出すと目を開けてお話しした口は、今やその亀裂が埋まりただの瘤のようになっている。


長らくその場に立ち尽くしていた。でも、王宮はこれから忙しくなるだろう。私たちはその場から離れなければならなかった。




王様の異変は、瞬く間に王都中に広がった様子だった。もはや王城にいる必要のなくなった私たちが、ヤズグットたちの引き留めを振り切り宿に向かうまでの間、王宮の入り口からひっきりなしに国民が訪れる。


王宮側も柔軟に、中庭を開放して王だった木に国民が挨拶できる環境を整えていた。


王宮を出て、その弔問の列の長さに驚く。王宮前の大通りは長蛇の列。その長さたるや、王都中の国民が並んでいるとしか考えられないものだった。



私たちは、その最初から最後まで、行列の全ての人々とすれ違う。

みんな、泣いている。

涙が出ていないのは、私たちくらいだと思う。


宿に着く。ヤズグットたちは先持ってチェックインまで済ませていたようで、店主がかしこまって一番上等な部屋を案内してくれた。


バックパック二つをドサリと床に投げ置き、ステラはベッドに腰掛ける。

私は何だか無性に、窓の外が見たくて窓辺に腰を下ろした。


窓からは正面に王宮が見えた。


街は明かりこそある割に暗く、日が落ちて早々から、まるで真夜中のような静けさに沈んでいた。


私も何かする気になれず、気がついたら日付が変わる時間だった。ステラはまるで、人形にでもなったように放心している。

私は改めて、ステラの隣に座り直し、ステラを斜め前に捉えて声をかけた。


「ステラ…?」

「……。」


その間はまるでどこも見ず、何も映さない。


「なんで…なんで最初にあの滋養薬を作らなかったんだろう」

「結果論よ。誰もあの薬が効くなんて思わなかったわ」

「でも、剥離剤とか離型剤とか…今思うとそんなのなんで作ったんだろう」

「常識の枠から外れたところに正解があったのはその通りだった。だから、あのアプローチは正解だったのよ」

「…なんで、王様に元気を出してもらいたいのに滋養薬を作ろうって思えなかったのかな…」

「それは…」

流石に、フォローの言葉が出てこなかった。


「私、絶対にできるって、そう思って疑っていなかった。なんで…なんでっ……なんで!」


何も言えず、私はステラを抱きしめた。


ーうう…うああぁぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!


二歳、三歳の幼子のような大泣き。

まるで、叱ってもらいたくてしょうがないような。


ーどうして!なんで!


私も泣きたかったけど、ステラの涙を見たら、逆に引っ込んでしまった。

ダメよ?あなたはちゃんと、向き合って頑張って、最大限の努力をした。ただ結果に結び付かなかっただけ。だから、絶対に否定なんかさせてあげないんだから。


ステラの涙の洪水は、半刻では終わらず、泣きに泣き、声を枯らし、それでもなお止まらなかった。

声にならない声を張り上げ、ベッドに拳を叩きつけ。


そのうち、私の服を掴む手の力が弱くなったかと思ったら、そのまま眠りについていた。


きっと、ステラの全力が届かなかったのは、これが初めてだったのでしょう。


…私だって、そんなに経験が多いわけじゃないけどね。

私もそろそろ、限界だった。


気がついたら、お互いに抱き合う形で横になり、私も眠ってしまっていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ