ここでの生活
鍛錬することができない、というのは俺にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
「よう、ステラ」
「あ!イグジさん!」
ステラはいつもどおり、気がついたら酒場の看板娘として街に溶け込んでいる。
「注文どうしますか?」
「おすすめのつまみとエールくれ』
「マスター!おまかせ三種、エール入ります!」
「あいよ!」
しばらくすると、懐かしい肉詰めが出てきた。
「お、山猫みたいだな」
「そうですよねー!私もそう思っていました」
「やほー、どう?忙しい?」
「いらっしゃいませ、セルテさん!」
「とりあえずエールと冷たいつまみが欲しいわ」
「冷たいの…マスタキの和え物なんてどうです?」
「いいわね」
「っと…みんなもう来てるか」
「おう、ここだ、ここ」
「ステラ嬢、イグジの旦那と同じ組み合わせで」
「はーい!」
ステラがパタパタとキッチンに入っていく。
この一週間、俺たちは手分けして情報を集めていた。
ステラは食事、サイトは人々の情報収集、セルテは魔術関連、そして俺は軍事関連の動きを探ってきた。
「で、旦那、軍事的な動きってのはあったのかい?」
「わからんな、全くそういう様子が見えない。一般人に秘匿するために来訪者を使っているのかもしれないが」
「俺が調べた限りでも街の人々は特にそんなもん興味なさそうだな」
「やっぱりか…訳がわからんな」
「魔術の素養はない人も多いわね。むしろ私たちの世界より、魔術師は希少な気がするわ」
「はい、セルテさんとサイトさんのです」
「ありがと」
「おう」
皆がひと段落したところで情報を整理する。
街の人々は質素な生活に満足しており、特に娯楽になるようなものは少ない。
演劇と、音楽、それから向かい合わせで台の上に瓶の蓋を飛ばして板で打ち合う競技くらいか。
ちょうどシフト上がりのステラが合流する。
「食事もとても質素ですね。私のいた地域の料理も多くて、良い言い方をすれば幅広く、悪くいっちゃえばどこでも食べられるものばかり。このお店に限らずこの街全体でそんな感じなので、正直私が大体作れる感じです」
「魔術はもともと秘匿傾向にあるし、もし戦争状態なら密偵の可能性もあるんだから、開いていなくても当然なんだけど、街に魔術道具商は二店舗くらいしか見当たらないわ。そうなると、疑わしいのは…」
「まあ、王宮だろうな。お抱えの魔術師がいるとか、専売権を国が持っているか」
「サイトの言う通りでしょうね」
まあ、つまり、この街はあまり長居する街ではない。
あと三週間をどう過ごし、どれだけ早く無難に王の許可を取り付けて出ていくか、がポイントになりそうだ。
「あ、あの瓶の蓋を台の上で弾ませる競技は私もやってみましたけどすごく楽しいですよ!」
「あんたは変なところにハマるトコあるから、少しじっとしてなさいな」
「はぁい」
と、いうことでだ。
「よし、王宮に行って、出国手続きをしてもらおう。早めに許可を取って、解禁当日出国して、きな臭いところから離れてしまった方が安全だろうからな」
「賛成ね」
「遺憾なしだな」
「私はいつでも良いですよ」
満場一致で方針が決まったところでその日の夜のことだった。
明日王城に行こうと話していた矢先、向こうから招待が来たのだった。