あるべき姿
残るはステラの心と身体を再び結びつける事だった。
しかし、ここで大きな問題が発生した。
「足りない…だいぶ心の隙間が空いている。どこかに飛んでいってしまったのかしら?」
ステラから引き剥がされたアリヤの心は、ステラの体と大して変わらない大きさだった。
しかし、ステラに還ってきたステラの心は、どう見てもその半分、いや、三分の一程度しかないのだ。
だが、セルテも俺も、何ならサイトもそれほどの心配はしていない。
「きっと、世話になった人々のところへ顔を出しているんだろう。あいつのことだから」
「そうよね、自分は生きてる、本物だ!なんて主張する暇があったら、どんな冒険をしてるのか、美味しいものがあった、そんな話ばかりして帰ってくる。そんな気がするわ」
「へへ、信頼が厚いというか、ひでぇ解釈だというか…」
サイトも半分あきれている。
だが、体の方は既に寝息を取り戻し、血色も取り戻していた。あとは残りの心の帰還を待ち、目を覚ますだけだ。
白んだ空に太陽が降り注ぐまでのわずかな間に、俺たちは休息をとる。
丸二晩不眠不休で動き続けた俺たちの疲れは、今まさにピークを迎えていた。
多少なりとも回復を感じたところで、コロネが警戒を担当し、俺たちはランバの船宿へ向かった。
既にセルテも限界が近い。船に乗ると、雨水に溶けるキノコのように、グダッととろけて寝息を立て始めた。
ランバに事の顛末を話し終えると、サイトも俺も船上で少し休んだ。街までの三刻ほどの間は、記憶が全く残っていない。
街に着くとランバに感謝の酒を買って持たせる。
同じく、もう一つ買った酒は、こちらの船宿のオヤジに渡す。
「…そうか、カカァの心と体奪った奴をやっつけて、報いを受けさせたのか…」
オヤジは湖に向けて酒を煽り、少し零した。
「ほれ、久々の酒だ、美味いだろ?カカァよ、仇、取ってくれたってよ」
一刻も早く休みたい気持ちもあったが、オヤジの話を聞いてやりたい気持ちが勝った。
俺たちはしばらく思い出話の聞き手になり、それから宿に戻った。
まだ昼過ぎだと言うのに、三人とも一部屋でソファどころか床に寝転がり、そのまま眠りについた。
どれくらい寝ていたのだろう。寒いと思う瞬間もあった気がするので、そのまま夜を越して朝まで寝ただろうか。
天井が見える。明るい。
次第に意識がはっきりしてくる。
まず、固い床と俺との間に、布団が挟まっている。手を動かそうとすると、分厚い毛布と寝袋が布団代わりに掛けられていた。
寝違えたのか(まあ寝た場所が場所だからな)痛む首を動かして寝返りをしながら周囲を見ると、サイトも同じように、床に下ろした布団の上で、毛布と寝袋をかけられていた。
セルテだけは、奥のベッドで姿勢正しく寝息を立てていた。
何か、いい香りがする。
…そういえば、この二日、碌に食事を取った記憶がない。
一度空腹を自覚すると、我慢ができるものではない。
俺は身体を起こして、匂いの元を探す。
…そこには、ステラが味見をする姿があった。