ステラを奪った者
「皆さん、そんなに驚いてどうしたんですか?」
「君は…誰だ?」
「ステラですよ?ステラ・ファルスター・シルク。美味しいもの大好きで、不思議な出来事が大好きで、セルテさんとイグジさんがだぁいすきな…」
「いや、違うな。ステラじゃない。君はレティスリーテじゃないのか?」
「……!」
「当たりだったかしら?」
ステラの顔をした何かは、可愛い顔を気色悪く歪ませた笑顔で一言。
「違うわぁぁぁ、ざぁぁんねぇぇん」
どういうことだ?ステラに入っているのはレティスリーテ以外あり得ないのじゃないか!?
攻略の糸口を綺麗に切断され、俺は言葉を失う。
セルテは…必死で考えていた。
その時、ここまでパーティに遠慮して黙っていた男が口を開いた。
「そうだよな。アンタはレティスリーテじゃない。アリヤだろ?」
「…なんで?なんで知ってるの?」
「いや、レティスリーテはあの男に執着していたはずだろ?誰かれ構わず口説くアンタの姿に違和感があったんだよ」
「…そうか…もしかして、結婚が嫌だった…?」
流石のセルテはすぐに推論を展開する。
「…そうよ。わたしは自由でいたかった。あの人に惹かれたのも、自由な発想でいろんな物事を捉えられるところだった」
急に下を向くステラ。いや、アリヤ。
「だけど、あの人は次第に権力に染まってつまらない男になっていった。だから、わたしは少しずつ距離を置いた」
「なるほどな、王様が許婚を用意したのは…」
「そう、わたしの仕込み。わたしは喜んだわ。レティにも色々吹き込んで、あの人のことを少しでも好きになるように。予定外だったのは、あの人がレティを選ばなかったことよ…」
次々と衝撃の事実を語るアリヤ。
「で、自分の巻いた種で、首を締め上げられたと」
「まさか、心を引き剥がされるとはね…。でも、わたしはある意味自由を手に入れた。こうしてレティにもちゃぁんと仕返ししたし。ねぇ?」
そういうと、先ほどから近くをうろうろしていた、例のマーブルへ視線を向ける。
マーブルはこちらも彼女も見ないで洞窟の外へと向かって泳いでいく。
「まさか!」
「やられた瞬間、心の剥がし方を知った私は、まずはレティの心を剥がしてやったわ。初めてやったから、ちょっと体がズタズタになっちゃったけど…」
別荘で見た彼女を思い出す。
ズタズタに…まさにその通りだった。
きっと彼女は、自分自身の心を探していたのだろう。
あの体は既に死んでいた。だから、死者の行き着き場から別荘に通って。
だが、心はこうして生かされていた。だから、九千年もの間、すれ違ってしまっていたのかもしれない。
「俺もよ、基本はひねくれた性格してるから、女の裏をすぐ考えちまう。ステラみたいな裏表のない天然物はそうそう見かけるもんじゃねぇ。大体はアンタみてえなクッセェ培養モンなんだぜ?だから、なんとなくそんなことを疑ってたんだ」
そう言うと、両手で曲刀を投げる。しかし、あまりに見当違いな方へ。
「俺の刀、カッコいいだろ?ほれ?」
投げた刀が、弧の軌道を描いて帰ってきた。
素早くまた投げるとまたキャッチ。
気がつくと、アリヤが体の自由を奪われていた。
ー糸か!
曲刀に結んだ糸が、アリヤを縛り付けていた。