ヤシマンバ遠征⑥
大蛇の亡骸を2人で引きずり、ベースキャンプへ戻るのに二刻はかかった。
既に汗が流れ止まらない。
2人でなんとか水辺へと持ってくる事には成功したが…
「これ、どうするんだ?」
「この場で…解体し…ましょう。ふぅ…流石に…全部どころか…半分も…はぁ…持って帰れません…」
ステラは既にへばっている。
「俺が解体する。指示をくれ」
身の丈の数倍はある大蛇。胴の太さはその辺の木と大差ない。
「…ふぅ」
湖で水を浴び、少し持ち直したステラが、水筒の水を飲み、息を整えた。
「ありがとうです…」
あ、まだダメなやつだコレ。
「まず、口の端のさっき付けた切れ目から鱗の切れ目を辿って尾の先端まで刃を通します」
解体用のナイフを借りる。ステラの付与か、あのセルテのナイフに似た狂気じみた切れ味を予感させる。
ーーさくっ…すーーーーっ
ほらなんだよこの切れ味。俺らの剣の稽古が馬鹿らしくなるぞ…。
文句も言いたくなるが楽なのはいい事だ。端まであっという間に辿り着く。
「首の付け根から皮を引き剥がします。ナイフで手に触れると、手が切り落とされるので気をつけて」
やべえ。
先ほどの戦闘とは違った意味での緊張の中、皮と身を剥がすこと半刻。
「よーし、私も復活してきました」
俺からナイフを受け取り、鼻歌を歌いながら貴重な部位を切り分け始める。
俺はというと、ちょっとした予感から、抜かれたワタとステラがいらないと言った部位を集めて、木の横に少し掘った穴に蓄えていった。
大体の解体が終わるともう辺りは完全に夜だ。
ランタンの光が煌々と我々を照らす。
ステラが夢中な間に火を起こしておいたが、逆にステラがその火を使って何かを作っていた。
「食事、できましたよー!」
解体が終わるとほぼ同時だった。
「いつの間に作ったんだ?」
「ほら、コレです」
先ほどステラが火に何かしていると思ったら食事の用意だったようだ。
「流石だな」
「「命の巡りに感謝を」」
灰の中から取り出した葉の包みを受け取ると、灰が中に入らないよう慎重に開けていく。
「ヤシマンバの肉の蒸し焼き、木の実と香辛料包みです」
肋骨のそばの肉だろうか。骨を掴んで食べられるから実に食べやすい。
「!」
臭みもなくまるで家畜のような肉は、筋肉質だが硬すぎない。むしろ繊維に沿ってほつれ、その間に蓄えられたプルプルとした油がたまらない。
「なんでこんなに柔らかいんだ?」
「硬直前だからですね。部位もやわらかいところを選んでます」
「んーーー!」
出た、ステラの幸せの舞。今俺が名付けた。
一緒にいれた木の実が食感のアクセントになり、悪魔の種のピリッとした辛みが後を引く。
「たまらないな」
心の底から出た言葉だった。
「最高ですね」
2人で夢中で食べてしまった。
さあ、腹が落ち着いた後は戦利品の確認だ。
「まずはコレ、ヤシマンバの毒牙!一対で1ヶ月は美味しいものが食べられますよー!」
「これは?」
「それはおでこの中にある、探知器というところです」
「俺が切ったところだな。中身は無事だったみたいで良かった」
「人にもあるらしいですよ?」
「そうなのか?」
全く、本当に知識が多いな。
「これは耳の中にある石で、磁場をコントロールする蓄魔力素材です!」
「こっちは…生殖器か」
「それは既に買い手があるんですよ」
…そういやそんなことを言ってたな。
「もう一つは頭部、だったか?」
「はい、頭部というか頭蓋と脳ですね。脳は貫かれてしまいましたが、多少欠けたくらいで形を保っているのでなんとか…」
よかった、やっちまったと後で後悔していたのだ。
他にもいくつか、ステラは目を輝かせて部位を回収しているようだった。
で、だ。
「これらの肉をなるべくたくさん持って帰りたいと…」
「はい」
そこには、来る時に保冷袋に入れていた鳥の十倍以上は楽にあろうという肉が積み上げられていた。