彼女のその後
「ステラの体を得て、彼女のしたい事は何かしら?」
「既にサイトに見せた女の側面、それから船長の奥方の話の通りだとすると、『男』への執着がありそうだな」
「おいおい、そんな嬢ちゃん見たら健全な男ならコロッとやられちまうぞ。何しろあの美貌だからな」
そんなステラ、見たくないし考えたくもない。
「ステラの体はとんでもなく酒に弱い。酒場なんかで酒を煽ると1発でダウンだろうな」
「いくら体を飛ばして移動したとしても、今日の今日は現れないと期待するしかないか」
「そこはもう、祈るような気持ちね」
「この本の中では、まずは体を奪った許婚は何したんだ?」
「それが、一日、自分の魔術を安定させるために、まずは身を隠していたみたいね。そのあとは街に繰り出して派手に遊んでる。それはもう、アリヤを穢しにかかるようにね」
「よし、明日の朝イチで街に戻るか?」
「多分墓場に出没するのが明日の夜だな?」
「じゃあ、今のうちに、小説のゆかりの地を巡りましょう」
「今晩は寝ないで動きたいんだが、どうだろうか?」
「賛成だ。時間がねぇ」
「私も勝手に動くつもりでいたわ」
「よし、飯だけ食ったら即行動開始だ」
ステラも飯食えてるだろうか?
とりあえず、ステラが作ってくれていた瓶詰めを三つほど開けてパンに軽く載せる。
「美味い。これだけで立派な料理だぜ、嬢ちゃん」
「こっちはジャムね。甘酸っぱい」
「こっちは甘辛く煮込んだ肉が入ってる。パンより米に乗せたい味だな」
食べながら、今から行ける場所をピックアップする。
「主人公の男とアリヤの故郷の村は、今のあの街に吸収されているようだな」
「隣接した農村だったからね」
「レティスリーテの自宅跡は…街の方か」
「あ、このマーブルの餌場。ほら、物語で闇魔術を練習したレティスリーテの別荘のあったところが近いわ」
「夜のマーブルか…危険はあるが、行ってみる価値はあるか…」
テントを撤収して、すぐたち上がる。幸い、あまり危ない生き物の気配は感じない。
後ろに一つ、弱々しい気配がついてくる。
ステラだよな?そうだよな?
俺たちはきっとステラだろう気配が逸れないよう注意しながら、歩いて別荘のあったとされる場所へ向かう。
1時間ほどだろうか?
そこには、まだ建物の跡のようなものだけは残っていた。
「何か、分かるか?」
「もう数千年も前だからね、呪術も魔術の跡も残ってないかしら…」
「おい、何か土足で踏み荒らした後があるぞ?」
ーばちゃ…びちゃっ…
その時、何者かの気配が急に近づいてきていた。
いや、もう既にすぐ横にいた。
ーフコー…
腐り、色を失った肌。グズグズに崩れ、切断された上半身を乗せただけ、背骨が見えてもなお、歩けるのは、闇魔術の代償だろうか?
二の腕は未だに女性らしい柔らかな肉付きを思わせるところがあった。
顔は…可哀想でとても見られるものではなかった。
ーフコー…びちゃ…びちゃ…
“彼女”は何かを探すように、建物の周りを歩き回る。こちらは不意をつかれて完全に姿を晒しているのに、全くのお構いなしだ。
足を引き摺りながら、辺りを歩き回り、そして、そのまま闇の深い湖の中へ…。
俺たちは息をするのも忘れて、その様子を黙って見守っていた。




