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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
第十章 ステラの章 地竜の山と死者の海
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新たな境地

「次も楽しみですねぇ!」


既に抵抗のない私は、結構グイグイと虫の煮出汁ジュースを飲む。

それをみて引くセルテさん。


…果たしてこのあと、どうなってしまうのだろう?


「もう帰りたい…」

「もったいないだろう。大体、食べたくても食べ物のない苦しみは俺たち身をもって体験しているだろ」

「…へえ?そんなことがあったのか?」

「あー、あれは辛かったですねぇ」


私たちは、代わる代わるあの時のことを話す。

美味しいご飯の旅が台無しになった、海賊の襲撃。

二つ隣の船室で生死を彷徨った妊婦さん。


「あの時はセルテさんに高そうなドレス着せられて大変だったんですよ…」

「あのドレス、私、着られなくなっちゃったわよ。服がステラを選んでるみたい」

「ええ?ごめんなさい!」

「だから、あれあんたにあげる。また着なさいな」

「うぇぇぇ」

「ドレスかぁ、見てみたいな」

「アンタはステラはタイプじゃないんでしょうが!」

「そんなこと言ってねぇ!あの親父の話だろ!」


「はい、前菜です」

「うお、びっくりした!」


唐突に現れる店員さんに驚かされながら、次のお皿を迎えるよ。


「これは…見た目じゃわからないですね」

「とりあえず食べてみないとわからんな」

「もうやだ…イグジまで毒されてるじゃん…」


パッとみたところ、肩から脇の肉を塩漬けしたような見た目をしているけど…?


生野菜の上に薄くスライスされた赤みのお肉に、野菜を包んで、ソースを絡めてぱくり。


「うわあぁぁ、これは美味しい!」

「うそでしょ…」とはいいながらセルテさんも一口「美味しい…」

「これは…野菜の方なのか?」

「わかんねぇな、美味いもんは美味い」

生野菜の特有のシャキシャキした部分に、塩漬け生肉の塩気とまったりとした食感。その中で、プツプツと魚卵が弾けるような食感が合わさって。


「あ…この中にあるプツプツしたやつ…?」

「はい。正解です」

「どうしよう、美味しいんだけど…」


「このプツプツした食感はアリカバンバの卵です」

「ええ?そうなの!?」

驚いた。私たちを丸々噛みちぎっていく、大型の獣が最初はこんな小さいなんて。


「殻が柔らかいのは産卵前のお腹の中にあるこの大きさの時だけで、産卵の際にはもうお客様方の頭より何倍も大きくなります。だから小さくてプチプチしたこの大きさの卵って凄く貴重なんですよ」

「へえー」

言いながらセルテさんも、パクパクと食べ続ける。


「ちなみに、この塩漬け肉もアリカバンバです」

「水辺の獣ってのは匂いがあるイメージだったがな」

「最近、綺麗なところにたくさんいるアリカバンバの巣が見つかって、私たちも重宝しているんです」

…んん? いや、まさか、まさかね。


あの橋を作った理由を、改めて説明する。

足もとに広がったアリカバンバの巣を飛び越すために角度を計算して、足場を高くして…。


「あの橋、そんな理由で作られてたのかよ!」

んー、サイトさん、良い反応。


また、次の料理が来る。

あ、スープだ。


「これは何となくわかるわ、ステラが悪巧みしてる時に出てきそうな見た目だもん!」

「確かに。そういう時あるよな」

ええ?ひどくない?

「はは、美しいパーティ愛だねぇ。じゃ、いただいてみようか」

「…なんだか、すごくとろみがあるわね」

「なんだろう?骨から煮出したスープだともっと濁りが出るんだけど…これは澄んでるよね?…独特のピリピリした感じも…あ!毒だこれ!」


ーブッ!

セルテさんがまた吹き出す。

「毒!?」


「正解です。ヤトグスという蛇の毒袋を丁寧に取り出して、毒を熱分解して煮込んでいます。舌にピリつく毒ならではの感触を楽しんでいただきたいなと」


へえー!毒袋なんて危ういものでも、ちゃんと料理すれば食べられるんだ!ピリピリの後ろにある、複雑な甘みと苦味。そして圧倒的な旨味。

「…絶対に私たちのご飯ではやらないわよね?」

「えー?」

「やらないわよね」「ね?」


何か、洗脳騒動の時のセルテさんより、さらに数倍光を失った瞳で、うつろな表情をして試合割れると『やだ』とは言えないような…ひー!

「俺もパーティの食事で命を落とすのは御免だな」

「真の敵は身内にあり、だな」

「それはどっちに向かって言ってるんだ?」「さあな?」



次に運ばれてきたのは、美味しそうに焼けたビスケットに、明らかに異彩を放つパテ。

「これは何かあるわね」

「毒まで出されちゃ、もう怖いものはないけどな」

「どうぞ、この辺はそのペットちゃんにも食べてもらえます」

「あ、やった!ありがとうです!」


コロネは気にせず美味しそうに食べてる。


「これの原材料が問題だよな」

「ずっと私が最初に食べてますよね?そろそろ漢気が見たいなぁー!」

「…くっ」

「そーだそーだー」

セルテさんの棒読み。いいのかな?そんなこと言ってると…。


「仕方ない…。いくぞ!」

イグジさんは、たっぷりとビスケットの上にパテを乗せて、ぱくりといった。

「お? 美味いな」

「本当ですか!?」

私も我慢できずぱくり。


「おー!」

これは美味しい!

「あ、本当だ」セルテさんも美味しいの太鼓判。


「これは十二本脚の蜘蛛とワヌルを細かくすりつぶして混ぜ合わせたものをペーストに仕立てました」

「ええ?ワヌルはともかく、蜘蛛ですか!?」

「はい、蜘蛛の唾液に含まれる麻痺毒を秘伝の処理で無毒化すると、こんなふうにまろやかな塩分と甘みを含んだ調味料になるので、それを使ってワヌルの肝臓をじっくり火を通してから合わせて味を整えたものです」


お姉さんの料理の幅の広さ、感動だよ!

「いやー、弟子入りしたいですね!」

「良いですよ」

「いや、ダメだ。ダメダメ。」



そしてついに、メインディッシュが前に置かれる。

いかにも肉厚なステーキ。

上品に大きめのお皿に控えめに、美しく飾られたお料理が食欲をそそる香りを放っている。


「なあ、ステラ、今、順番はどうなっていたっけ?」

「はい、私が最初に行ったのが二品。イグジさんが一品ですね」


イグジさんと私、二人が同時に視線を向ける先には、青い顔をしたお姉さんがいた。


「…分かったわよ、やってやるわよ!」

「目が据わってますよ」「確実にヤケクソになっているな」

「どうなっても知らないからね…」

上品な仕草で音を最小限に、お肉を切って口に運ぶ。


「なんでよ…すごく美味しいじゃない…」

「よーし、私も!」

すっとナイフが入る柔らかいお肉は、肉汁をたっぷり含んでいる。

クリーミーなソースにつけるのは二口目にするとして、まずはそのまま一口目を口に入れよう。

あえて生っぽく、複雑な色を放つ断面は唇に触れると十分火が通っていることがわかる。

口に入れる。柔らかすぎず固すぎず、噛んだだけほぐれていく。肉汁と脂のバランスが良くて、臭みもなく甘みが口に広がる。


「ふわぁぁ…美味しい!」

次はソースにつける。

少し白っぽい、不思議なソースは木の実っぽさを持った香り。

酸味と、程よい塩味。続けて感じるピリッとした刺激。


この感じ、私は知っていた。伊達にど田舎で育ったわけじゃない。


「これ、木に住んでいる虫ですね」

「もう嫌…なんで美味しいのよ!」

いや!虫って美味しいものも多いんですよ!栄養価も豊富で優れた食材なんだからっ!


「お見それしました。アルパンタという虫の幼虫です。現物見ますか?」

「絶対ダメ!」

「勘弁してくれ」

あ、もう一人下向いてショック受けている人がいた。


「やめておいてあげてください…。ところでお肉の方は、何の肉なんですか?」

「そちらは死の海のマーブル、『シュロウ』という種族の肉です。旨味が強く、このソースでも負けないかと思います」

「はい!とってもおいしかったです!」



「嬢ちゃんの胆力がやべえな」

ぐったりする二人と喜ぶ私、そして呆れる一人。

刺激的な食事は、私の創作欲を大いに刺激してくれたのだった。

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