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ひたむきステラと星の竜  作者: KEY
幕間⑨
217/294

永遠に、共に。

気がついたら、橋を作っていた。


みんなで一丸になって。初めてあの人が『彼らをうまく使おう』って言い出した時は、この人でなし!って思ったけど、まあ、良い形で協力し合えるようにはなったかしら。

彼らも、私たちの力なしでは橋をかけようなんて思わなかったでしょうから。


大きな丸太を転がし、押して、引いて。

ステラちゃんが与える付与のおかげでだいぶ軽くはなっているけど、彼女の負担は相当なはず。だって、街道の家をニ件丸々串刺しにしてしまえるほどの大木を、何本も何本も、細木を下敷きにしただけで女こどもが転がせるなんて、ちょっと考えられない。

…でも、いちばん輝くのはご飯の時かしら。作っても食べてても、可愛いわねえ。

私ももっと肩を並べて一緒にやりたいなぁ。


セルテちゃんは私よりも五つは年下だろうに、あの歳でいろんな術を使う。

いきなりあの人を脅して交渉を始めたときは驚いちゃった。魔術に呪術?反則よね。

でも、あの人を丸め込んでも私は知ってるわ。言葉で縛っても、実際にはなーんにも、呪いなんかかけていないんでしょ?あれだけの力の持ち主なら、いつでもあの人なんか殺っちゃえるもんね。それでも、彼を信じて、チャンスをくれた。そうでしょ?

私もそうだけど、良い女になりたくて、必死で背伸びしているのが、側から見ていると…可愛いなぁ。


二人には女としては敵わないかなぁ。

私ができることと言ったら、いいお茶を最高の温度で美味しく煮出して、最高のもてなしをするくらい。あ、でも、そこはステラちゃんにも負けない自信があるかな。



あらあら、ラックったらまた調子に乗って、ステラちゃんに絡みに行くの?

本当に心配が尽きない。命知らずで頑張り屋なところはすごく良いのに。

まあ、惚れた女のために命を張るなら私は何も言わないわ。昔のあなたを見てきたからね。


初めてあなたを見つけたときは『どれほど辛い思いをしてきたのだろう』という、深い、濁った目をしていたわ。

見世物小屋の変態に飼われて、関節を外されて。思い出した、『箱人間』て何よ。うちでは絶対にそんなことさせない!

うちの子になってからもしばらくは誰も信用できず、噛み付く、引っ掻く、怯えて人に近づけず、台車の荷室の暗闇で、野獣のように目だけが爛々とこちらを向いていたっけ。

やっと私たちに慣れてきたところで。


顔も良いし、性格もいい。あと半年足らずの奉公で、うちの奴隷からも抜けられるんだからもう少しよ。

自由になったら何をするのかしら?

ちゃんと作法も、武術も、マナーも仕込んだ。どこに行っても恥ずかしくない一人前の男なんだからね。胸を張るといいわ。

イグジさんを見習って武人を目指しそうな目をしてるけど。一番大変よ?

私のおすすめは、惚れた女を追いかけて、男を磨き続けることね。



イグジさん。

確か彼の名前は北東の方で聞いたことがある。商隊キャラバンの中では有名な傭兵だった。

『武骨で無表情、何を考えているか分からないが、払った金以上に働く最高の雇われ護衛』だったかしら。確か剣の人って聞いていたけど、武器が矛のような、槍のような、剣のような、不思議なものだったのでしばらく分からなかったわ。

…噂で聞くより、ずーっと素敵。


楽しそうに笑って、仲間ともうちの子たちとも分け隔てなく。たまに武器を振ればヤルクなんて軽々と吹っ飛ばしちゃうんだもん。アレでもうちの一番の使い手なのよ?



いよいよ橋がかかる。あっという間にできた立派な、本当に立派な奇跡の橋。

やっとあの人もいつもの凛々しさに戻ったわね。それでこそ。よ。


あの人が一人になった。

お願い。最後に。いえ、最期に。お願いよ。


あなた、ねえあなた。

こっちを見て。


「…?」

あの人が天を、いえ、私の方を見る。


あなた。彼らにちゃんと感謝を伝えなきゃ!

「…ヤルク…逝っちまったんだなぁ…」


ここにいるわよ、バカね。私はいつでもあなたと共に。でも、それよりもやることがあるでしょ?

「…お前なら『このままで済ますな、人でなし』って怒るよな?」

そうよ?私が生きてたら、今頃頬を掴んで正面からお説教なんだから!


「…そうだよな?俺は俺。お前が見守ってくれていれば、俺でいられる。そうだよな」


売り物の最高級の護石の板を持ってくると、器用に文字を刻み始めた。

もともと、これがあなたの本業ですものね。お人好しで、奴隷の受け皿として商売の形を変えたのだから、相当よね。


そうよ。それでこそ、私の愛するあなたよ。


一晩かけてあなたが刻む一文字一文字を、私はただただ見守る。


“『命の架け橋』  管理者 ハンクス・デン・ボット


ハンクス商会代表ハンクス・デン・ボットの名の下に、自由の通行を約束する。この橋には製作者の三名と一匹のパーティ『イグジ、セルテ、ステラ、コロネ』への永遠の感謝と、我が妻ヤルクの命が込められる。何人たりとも、この命の架け橋を破壊するべからず。ただただ感謝と友情を持って管理を誓うものなり”


私のことなんてどうでも良いのよ。でも、最期に、ちゃんと通じ合えた。


ああ、もう十分よ。


ありがとうございます。心から。誰にすれば良いのか解らないけど、感謝します。

あとはもう、あの人の心に寄り添って。それで十分。私の見初めたハンクス・デン・ボットと共に、消えてなくなるその時まで。




ああ、また意識が飛んじゃう。



ーまだ、まだもうちょっとだけ。


「真面目な話に戻るが、あと二日ほどでトランマの街だ」

「…何とか生き延びたわね」


ーよかった。本当に。


「奥さんは…惜しい人を亡くした」

「いいんだ。ヤルクはしんみりしたことが嫌いな奴だった。いい女だった」


ーそうよ?私はサッパリした女なの。だから、私のことは気にしないで。


「私たちを最初に迎え入れてくれたのは、ヤルクさんだったから…。だから私たちは今、ここで皆さんと一緒に過ごしているんですよ。私たちは、皆さんにただただ感謝しています。この恩は忘れられないですよ」


ああ、これで最後かしら。


「…ありがとう。ヤルクも喜んでいると思う」


ありがとう、あなた。私の気持ちをわかってくれて。やっぱり最高の夫だわ。



ああ、彼らが行っちゃった。

ごめんなさい。私もこれで最後かしら…。でも。


「ヤルク、いつまでも一緒だ。見ていてくれよ。俺もお前が恥じないような人生を歩むからな」

ーはい。いつでも心は共に…。



「よし、行こう」

ええ、どこまでも一緒に。ね。

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