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糸口

 夕食の後、自室に(こも)っていると清吉の声がした。

「和人ぉ!お前、一体何をしたんだ!」

 清吉は和人の部屋まで来て、和人の首根っこを?まえると、自室迄引っ張って行こうとする。とても70を過ぎた老人の力には思えない。伊達に畳職人を続けていない。

「爺ちゃん、何だ。放せよ。ちゃんと付いて行くから。」

 首根っこを掴まれて、変な姿勢で前屈みになりながらも和人は抵抗する。何とか清吉の腕を振り解くと、和人は如何にも不満顔で衣服を正す。2人は一瞬、睨み合った。清吉の用件は大体想像がつく。此処で逃げるつもりは無い。清吉もそれを察したか、先に立って歩き出す。和人は黙って清吉の後に続く。

 清吉は自室まで和人を連れて来ると、黙って畳の上を指差す。座れと言う意味だ。和人は指図に従い、どっかりとそこに胡坐(あぐら)をかく。清吉は和人と向かい合って、徐に胡坐をかく。

「おめぇ、(さかき)んとこに怒鳴り込んだそうじゃないか。」

「怒鳴り込んじゃいない。相談に行っただけだ。」

「なんの相談だ。」

「言わなくても、もう知っているんだろ。」

「良いから話せ。」

 和人は清吉の表情を(うかが)う。和人の顔をじっと見ている。内に籠った怒りが感じられる。

「…『もりとえらび』に変な噂が有って、そんな噂をされるんじゃ冗談じゃない。神事の内容が秘密になっているから、そんなデマが蔓延(はびこ)る。だから、神事の内容を教えてもらって、現代にマッチさせて変えてくれるように頼みに行ったんだ。」

「それで?」

「それでって?」

「それで、どうなった。」

「どうって…。」康親(やすちか)に痛い所を突かれて、飛び出して来たとは言いたくない。「どうにもなってない。榊の親父さんがどんなことを当日するのか、教えくれただけ。」

「教えてもらった事はどうするんだ。」

 清吉の姿勢が少し前屈みだ。

「え?どうもしない。教えてもらった内容は大したことないし、それをみんなに話したところで、何かが変わる様な中身じゃない。」

「何もしないつもりだな。」

 一語一語、しっかり発音する。そんなに念を押したいのか。

「なんだよ、そんなに(こだわ)って。爺ちゃん、何か知っているのか?」

「いや、何も知らん。さっき、榊の家から電話があって、お前が行った事を知らされただけだ。」

「何て言ってた?」

 事情聴取して、指導を入れるように頼まれたのか。

「お前に辛い思いをさせて申し訳ないと。父が失礼をしたと、謝っとられた。」

「『父が』って、誰からの電話だよ。」

「娘さんだ。」

 美里さんだ。何で、美里さんが爺ちゃんに電話なんか。

「元々、自分が悪いと言っていた。だから、もし、本当に納得できないのなら、今年の『もりとえらび』を中止してくれるように親や氏子会を説得するから、お前がどうしたいか()いてくれとよ。」

 あちゃ~。そんな事、美里さんに言われて、『はい、良かった、そうして下さい』と出来る筈が無い。少しは(あらが)ってみるつもりだったが、一気にその気が萎える。

「この、馬鹿野郎。」

 清吉が拳で和人の頭を小突く。なんともバツが悪い。自分が始めたことで、こんなに美里さんを困らせてしまっていたと判っても、今更無かった事にも出来ない。何を言って良いかわからず、黙って下を向く。

「良いから、お前は黙って『もりひこ』をやれ。…いいか?」

 和人は下を向いたまま、渋々小さく(うなず)く。

「平安の昔から続く由緒正しい神酒井神社の神事を、たかが高校生の一存で変えられるなんて、思い上がりもいいところだ。この島のもんは神社を守るために此処に住みついたと言われている。それだけ大切な事だ。」

 案外素直に和人が応じたから、清吉のエネルギーが余ってしまった。ついでに少しだけ小言を言っておかなければ気が済まない。

 そんなこと言っているから、みんな一ノ島を出て行ってしまうんじゃないか。

 反射的に頭に浮かんだ科白(せりふ)を和人は飲み込む。人が居なくなるのは神社のせいじゃない。本土から離れた島の不便さは、連絡橋が出来なければ解消しない。大金が掛かる橋の建設と島との行き来をする人の数は釣り合わない。不便なままでは、年々島の人口は減って行く。更に建設費用と効果の差は開く。連絡橋など夢のまた夢。清吉のような残る意思を強く持った者と、この島を出て行く術を持たない者だけが取り残されて行く。

 もう開放してくれるだろう。のろのろと和人は立ち上がる。

「榊の家で聞いた事は言うんじゃないぞ。『もりとえらび』の日にあった事は他言無用じゃ。」

「分かってるって。言われなくても…」あれ?何だか引っ掛かる。何だろう。「爺ちゃんは、『もりとえらび』の式次第は知っていたのか?」

「式次第って?」

「言うなって言われたばかりだから言えないよ。『もりひこ』『もりひめ』が神社に行った後、宮司が執り行う中身だよ。」

「そんなもん、宮司でもない(わし)が知っている筈なかろう。何を言っとるんじゃ。」

「そうだよな。」

 そうじゃない。何か的外れな会話を話している。

 釈然としない気持ちを抱えながら、和人は清吉の部屋の障子を開けた。


 自室に戻ってスマートフォンを見ると、丈一郎からメッセージが来ている。

〈すまない。力になれなくて〉

 何を言っているんだ。別にそんなこと思っていない。

〈気にするな。俺が勝手にキレただけだ〉

〈俺は『もりひこ』になる覚悟はあるぞ〉

 画面の文字を見て思わず微笑む。必死な表情の丈一郎が目に見える様だ。

〈ありがとう。大丈夫、俺がやる〉

〈済まない〉

 全く、律儀な奴だ。

 美里さんはどうしている?と打ちかけてやめる。SNSのやりとりから、きっと彼女が清吉に電話したことを丈一郎は知らないのだろう。

〈『もりとえらび』の中身、話してしまって良いぞ〉

 おいおい、宮司の息子がそんな事言ってしまって良いのか?丈一郎が今度は困るだろ。榊の姉弟はどっちも向こう見ずな提案を平気でする。似た者同士だ。

〈儀式の中身は秘密なんだろ〉〈そんな事をしたら、お前勘当されるんじゃないか〉

〈そうかも〉

 ほら、無理するな。

〈でも、抵抗する〉〈話していけないのは、『もりとえらび』が終わってから〉〈まだ、『もりひこ』に選ばれていない和人が話をするのは、止められていないって言う〉

 そりゃ、屁理屈だろ。馬鹿だな。そんな理屈…、ん?何だろう、胸がザワザワする。さっき、清吉の部屋を出る時に感じた違和感と繋がっている。何かが引っかかっている。

 和人は、スマートフォンの画面を見つめて考えた。

 丈一郎の言う様に、俺はまだ正式に『もりひこ』に選ばれていないから、勝手な発言ができるという抜け道の発見か?いや、違う。康親(やすちか)から聴いた話を話せる、話せないは大した意味を持たない。じゃあ、なんだ?さっき、爺ちゃんと話した時はどんな話でひっかかったんだっけ?爺ちゃんなんて言った?『榊の家で聞いた事は言うな。『もりとえらび』の日の事は他言無用。』って言ったっけ。あれ、これじゃ、普通だ。何も引っかからない。何だか気持ち悪い。

 和人は自分の部屋を出ると、清吉の部屋に向かう。障子を開けると、清吉は今夜も秋祭りの準備に精を出している。

「なあ、爺ちゃん。」

 廊下に立ったまま、障子の隙間から顔だけ覗かせて声を掛ける。清吉は顔を上げると、老眼鏡を下にずらして、和人を見る。

「なんじゃ。」

「あのさ、さっき爺ちゃん、何て言ったっけ?」

「何の話をしている?まだ腑に落ちていないのか。」

「そうじゃなくて、…そうかもしれないけど、ほら、さっき、『もりとえらび』の事は話すなって言ったろ。それ。」

「そのままだ、『もりとえらび』に関わった者は、それに関する話を他人にしてはならん。」

 これは、簡単には分かりそうにない。和人は清吉の部屋に入り込むと、畳の上に胡坐(あぐら)をかく。

「それをさっき、爺ちゃん、何て言った?覚えている?」

(わし)がか?そんなもん、そのまんまだろ。他に言いようなどありはせん。」

「うーん、そうなんだけどさぁ。」

 和人は首の後ろに手を回して掻く。

「お前だって知っているだろ。今更、何が聞きたい。詳しく話してやらにゃならんか。」

 清吉も体の向きを変え、和人を向き合うように座りなおす。

 いやぁ。知っているから、詳しい話は要らないんだけど。

「これも、昔からの仕来りじゃ。今まで破られたことは無い。『もりひこ』『もりひめ』になった者が、誰かに話したという話は聞いたことが無い。これは昔に限った事じゃない。和人もほれ、聞いた事あるまい。」

 和人はぞんざいに首を縦に振る。

「だから、お前もそうするんだ。『もりとえらび』の日にあった事は、誰にも話しちゃ…」

「それだ!」

 和人は思わず腰を浮かして叫んだ。声に驚いて清吉は話を途中で止めると、きょとんとしている。

「爺ちゃん、今、『その日にあった事は、誰にも話しちゃいけない』っていったよね。」

 正確には言う途中だったのだが。

「そうじゃ。何をそんなにびっくりしとる。何度も言っとろうが。」

 (いぶか)し気な顔で清吉はボソボソと呟く。

 丈一郎のSNSで、引っかかっている物の糸口は掴んでいた。『もりとえらび』に選ばれる前と『もりとえらび』で選ばれた後。その違いって何だ?だから、今の清吉の言葉でピンときた。さっき清吉と話した時も、この言葉が違和感のきっかけだった。話しちゃいけないのは、『その日あった事』だ。

「おい、和人?」

 一人で考え込んでいる和人の表情を覗き込む。

「あ、いいや。何となく分かった。」

 和人は立ち上がると、そそくさと清吉の部屋を出る。何を考えているのか図り切れずに清吉は和人の動きを注意深く目で追う。和人は目を合わさない様にしながら、障子を閉めると、足早に自分の部屋に向かう。

 やっぱり、おかしい。丈一郎の親父さんが言っていた内容なら、『もりとえらび』で選ばれた者が話したところで何の支障も無い筈だ。そんな仕来りを守る理由が無い。きっと、まだ自分が知らない出来事が当日あるに違いない。それをずっと、隠して来たんだ。

 自室に戻り、ベッドに仰向けに転がると、天井を見て考え込んだ。

 隠されている出来事を知りたい。あと4日もすれば、きっと自分で経験するだろう。でも、そんなの待っていられない。隠さなければならないような事、その上、経験した当事者も仕来りを守って話さないような事。何だか得体の知れない程、大きなものが待っているのを感じる。そう判ってしまうと、何が何でも知りたい。当日になる前に何かやらなければならない事がある気がする。『もりとえらび』って、結局何なんだ?どうすれば、分かるだろう。きっと丈一郎の親父さんは知っているのだろう。だけど、もう一度訊いたところで、白を切られてお終いだ。第一、また榊の家に自分が乗り込めば、美里さんや丈一郎に迷惑をかける。丈一郎達に頼らずに、自分自身で何とかしなきゃ。他に神事の中身を知っているのは?爺ちゃんは?う~ん、爺ちゃんは知っているのか微妙だな。丈一郎の親父さんに訊いた式次第を本当に知らないような感じだった。きっと他の氏子会の人も同じだろう。第一、自分が交渉したところで、話してくれるような優しい爺さん婆さんじゃない。あとは、当事者か…。実際に『もりひこ』『もりひめ』に選ばれたことがある人。未だに守秘義務を守っているんだ、これも簡単に教えてくれるようには思えないが、他の人とは違い、確実に当日何があるのか知っている。これだけでも、必死に食い下がる意味がある。じゃあ、それって誰?

 和人は上半身を起こして、部屋の中を見回す。

 『もりひこ』も『もりひめ』も知らないや。

 和人は立ち上がると、腕組みをして部屋の中をぐるぐる歩きまわる。

 きっと、神酒井神社に過去の『もりひこ』『もりひめ』の記録が残っているだろう。丈一郎の親父さんに教えてもらう?いや、何でそんな事知りたいのか訊かれたら、何て答える?じゃあ、夜の内に忍び込んで調べる?いやいや、記録がどこにあるのか分からないのに無理でしょ。第一、結局美里さんを悲しませる事になる。犯罪だし。え~、じゃあ、どうする?

 行き詰った。和人は溜息をつくと、再びベッドに倒れ込む。

 『もりひこ』『もりひめ』。神酒井神社の宮司が、名前を書いた木札を箱に入れ、(もり)で突いて選ぶらしい。誰がなるのか、当人も、家族も知らない。家族が知るのはきっと、前々日の夜だろう。前日の内に家族の然るべき人から当人に告げられる。島のそれ以外の人が知るのは当日。夕方に神酒井神社へと向かう当人達を見て初めて知る。まだ10歳だったが、自分も爺ちゃんに連れられて、神社の鳥居の前で、『もりひこ』が来るのを見物したっけ。白い筒袖(つつそで)、薄紫の(はかま)。頬がニキビだらけの、眼鏡をかけた…

 和人は飛び起きる。

 そうだ、前回の『もりひこ』の顔を覚えている。あの顔、あれは神社で正月に行われる弓道の寒稽古(かんげいこ)で良く見かけた。寒稽古には、老人から子供まで島で弓道をやる人が大勢集まった。老人達は昔を懐かしむ様に、青年は少年の、少年は子供の世話をやいて、世代間の交流を深める。あの人、誰だっけ…。そうだ、伊邑(いむら)医院の。

 明日は土曜日。どうしても知りたいなら、この土日が勝負だ。和人は日頃使わない頭をフル回転させて作戦を練った。


 翌朝、遅い朝飯を食べると、着替えて外に出た。島の集落の中を旧道に沿って自転車を()ぐ。久し振りにすっきり晴れたのは良いが、日射しが暑い。だからと言って、のんびりはしていられない。自由に動ける時間は今日明日しかない。旧道の角にある『伊邑(いむら)医院』の看板が出ている屋敷の前で自転車を降りる。玄関には『本日休診』の札が下がっている。和人は医院の入り口に自転車を止めると、医院の玄関には向かわず、屋敷に沿って角を曲がり、屋敷の横手に向かう。そこには、私邸の玄関が、病院の入り口とは対照的に目立たない黒い一枚扉で存在している。玄関で呼び鈴を押す。屋敷の中から連動してブザーの音が微かに漏れて来る。暫く玄関の前で待っていた。胸がドキドキする。頭の中で最初に話す挨拶の言葉を繰り返し唱えてみる。

「はい?」

 インターホンから音声が聞こえる。女性の、少し年齢を感じさせる声だ。きっと伊邑家の奥さんに違いない。

「すいません、あの、俺、公頭(くがしら)畳店の清吉の孫の、和人です。ちょっと相談がありまして。」

 和人は、自分が考えられる限り丁寧にインターホンに向かって話す。何だか訪問販売員の気持ちが分かる。

「ああ、公頭さんのところの息子さん。ちょっと待ってね。」

 良かった、取り敢えず冷たく門前払いされずに済んだようだ。こういう時、爺ちゃんが商売をしていると説明し易くて助かる。

 程無くして中年の痩せた女性が玄関ドアを開けてくれる。

「こんにちは。」

 すかさず和人は頭を下げる。

「まあ、中へどうぞ。」

 女性は玄関ドアを押さえて、和人をドアの中へ招く。おずおずと、和人は玄関の中に入る。

「ええと、お名前なんとおっしゃったかしら。」

「あ、和人です。」

「ああ、和人さんね。…まあ、上がって下さい。」

 女性は、今度は玄関の上り口にスリッパを出して(そろ)える。

「いえ、此処で、直ぐに済みますから。」

 ずかずかと知らない人の家の中に入る気にはなれない。此処のご主人には風邪をひいた時にいつも世話になっているが、それは医院の方で会うばかりだ。

「まあ、そうなの。」

 女性も重ねて勧めたりはしない。

「実は、俺、えっと、今度の『もりひこ』に選ばれまして。」

「あー、『もりとえらび』ね。」

「はい。それで、3日後にあるんですが、その前に心構えとか、その…不安があって。」

「大丈夫よ。うちの創太郎でも出来たから。」

 丁度良かった。その人の話がしたかった。

「あ、そう、それで、経験者の創太郎さん?に相談したいと思いまして。」

「あら、御免なさい。創太郎は今、京都に下宿していて、こっちには正月位しか…」

 そうでしょう。居るとは思っていない。

「あ、なので、連絡先を教えてもらえないでしょうか。」

 少し間が空く。何か考えている様だ。

「あの、こっちから連絡するのがまずい様でしたら、携帯の電話番号を置いていきますので、連絡をもらうのでも構いません。」

 少し、強引だろうか。

「そうねぇ。別に連絡して悪いことは無いでしょうけど、知らない電話番号だと、あの子、出ないかも知れないから。」

 和人は慌ててポケットからスマートフォンを取り出し、操作する。

「じゃあ、電話番号お預かりするわ。和人君に連絡して良い時間はいつかしら。」

「いつでも良いです。いつでも、出られるようにしておきます。」

 自分の電話番号を画面に表示して、女性に見せようとする。

「ちょっと待って、書く物持ってくるから、それに書いてくれる。」

 女性の持ってきたメモ用紙に和人は電話番号を書いた。

「すいません。電話してくれるように伝えて下さい。」

 メモを渡し、それだけ言うと伊邑邸を後にする。

 創太郎からの電話がかかってくるまで、そんなに時間はかからなかった。きっと直ぐに連絡してくれたのだろう。見慣れない番号からの着信があり、和人はすぐにそれと分かった。

「すいません、急に連絡お願いしてしまって。」

 まず最初に()びる。

「ああ、和人君だっけ?『もりひこ』に選ばれたって聞いたよ。それで、相談って何かな?」

 快活な青年の声がスマートフォンのスピーカーから流れて来る。

「『もりとえらび』の事で教えてほしいんです。出来れば、明日、会って話がしたいんですが。」

「え?僕は京都だけど、分かってる?」

 知っている。京都まで行くとなると、往復するだけで一日を費やしてしまう事も。

「ええ、10分程度でも良いので、会って話を聴かせてもらえれば。俺、京都まで行きますから。」

「そう…」

 電話のむこうで逡巡しているのが伝わって来る。

「そっちから出て来るとなると、こっちに着くのは午後だね。」

 京都までの行程など考えた事も無い、でも、きっとその位かかるだろう。

「たぶん。」

「うん…まあ、良いよ。長い時間は難しいけど。京都駅に着く時間を教えてくれるかな。」

「あ、あの、ちょっと調べないと、分からないです。」

「ああ、じゃあ、この電話番号に連絡貰えるかな。京都駅で会おう。」

「ありがとうございます。後で調べて連絡します。」

 相手に見えないのは分かっていても、つい、何度も頭を下げる。

 電話を切ってから忙しくなった。アプリを開いて、京都駅までの乗り継ぎを調べる。途中から新幹線を使った方が早い。でも、新幹線代はとんでもなく高い。急行列車で行くことも出来るが、とても一日で行き帰りは出来ない。手元にある小遣いを?き集めてみる。『もりひこ』になると判ってから、本土の友達と遊ぶ機会が自然と減って、無駄遣いしていない。何とか往復の交通費は賄えるだけありそうだ。でも昼飯はパンか何かで節約する前提だ。出発も、朝一番の連絡船に乗ってやっとだ。

 和人は創太郎の電話番号にメッセージを送る。暫くして、返事が来る。『時の灯り』前?検索して場所を確認する。

 きっと、あの人は何かを知っている。そして、自分に何かを与えてくれる。根拠は無い。何となく、そんな期待を感じながら、和人は次の日を待った。


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