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胡椒の木を見つける

「......マモル」

 誰かが呼ぶ声がする。

 目を開けるとアンがオレの顔をのぞき込んでいた。小さい頭、それなのに大きい目、少し高い鼻、小さくて赤い唇、下がっていてオレの顔にかかりそうになっている茶色の髪の毛。初めてアンの顔をまじまじと見るがかわいいな。

「マモル、呼んでも起きてこないから心配して来たんだけど、揺すってもなかなか起きないし、どうしたのかと思った」

「あぁ、ゴメンよ。昨日はえらく疲れて寝てしまったんだ」

 アンには『Light』が使えたことは言えないので、ごまかす。

「とにかく、これが朝食だよ。今日もジンが剣の使い方を見てやるから、朝食を食べたら来いと言ってた」

「分かった、ありがとな」


 朝食を食べ、顔を洗いに井戸に行くと昨日の朝と同じように大勢の女の人がいる。今日は昨日より時間が遅いので(腕時計を見ると7時過ぎだ、ソーラー腕時計は便利だ。でもずれているような気がする。1日24時間より短い?)みんな朝食の片付けや洗濯をしている。

「マモル、昨日はありがとうね」

「アタシは2日続けて肉を食べたのって、いつ以来か忘れるくらいだったからうれしくてさ、ダンナとがんばっちゃったよ笑」

「アンタとこ、まだ子どもできるんかね?」

「マモルのおかげで子どもたちも大喜びさ」

「マモル、今日もジンと狩りに行くのかい?今日も獲物を頼むよ!」

「いくらマモルだからと言って、そんな毎日獲物狩れるわけないだろ?」

「マモル、無理するんじゃないよ、ジンだって獲物狩れるのは10日に一度くらいなんだから」

「もしマモルが獲物狩ってきたら、また真っ赤に血を浴びてくるのかね?」

「あら、そうかも知れないね。そん時はアタシが服を洗ってあげるよ」

「なら、アタシが身体を洗ってあげるよ。アンだけがマモルの身体見るのって不公平だろ?」

「アンタよりはアタシの方がいいよ、そうだろマ・モ・ル?アタシが身体の隅から隅まで洗ってあげるよ」

「アンタの指で洗ったらマモルは痛がるから、アタシのこの指で柔らか~く洗ってあげるから、マモルは獲物を持って帰るんだよ、あははは!」

 昨日は誰もオレに話しかけず、よそ者を見る警戒心丸出しの目で見ていたのに、肉が2日続けて食えたもんだから、コロッと態度が変わってしまった。でも無視されるよりはずっといいな。


 女の人たちと言うか、オバチャン丸出しの(はや)し声に送られて小屋に戻る。小屋にアンが待っていて、オレがこの世界に来たとき着ていた服を渡された。この服はこんな生活続くなら、もう着ることないかも知れないな。もう、ずいぶん前に着ていたような気がする。一応、壁に掛けておこう。

 アンと一緒に小屋を出てジンの家に行くと、ジンは待っていたようで、剣の手入れ、剣の素振りの練習が始まる。う~ん、昨日より今日の方がうまくいってるような気がする。剣を振り下ろした時の、空気を斬る音が違う気がする。


 ひとしきり汗をかいたら、ジンに連れられて昨日と同じようにカゴを背負い、門を出る。昨日の山椒の実は大鹿と戦ったときに散らばってしまったから、持ち帰れなかったし今日こそは持ち帰るぞ!

 道すがら山椒の木を見つけたので実を集めて行く。田舎の家の近くにあったのは山椒や大葉、わさび、生姜、ミョウガとかだったよな。そういのがあるといいな、食卓が豊かになるもん、と思いつつ歩く。

 あれあれ、こんな水辺のほとりにミョウガがあるよ?こんなにたくさん!! 刻んだミョウガに味〇素をかけて醤油かけて食べたいなぁ、今のところ醤油はない。


 でもやっぱり、異世界生活定番の醤油作りをしないといけない?まず、大豆を作ることが必要?ミョウガだけで食べたことはなかったから、微妙だな。日本の食卓は、いろんな調味料やら香辛料で成り立っていたんだ、としみじみ思う。味〇素は絶対無理だが、醤油は異世界ノベルの主人公たちが作っていたので、オレでもできるだろ?


 そんなこと考えていたら、香辛料に凝ったオフクロが胡椒の木を育てたことがあったのを思い出した。最初のうちはオフクロが意気込んでやってたくせに、オフクロの悪い癖が出て、途中で飽きてしまって結局オレが育てたっけ。それで自家製の胡椒作って食べてみたけど、手間を掛けたわりには市販のほど美味しくない気がしたから、面倒みるのが大変なもんで止めちまったな。でも、大学入って農学部だったから、大学の農場で胡椒の木を見たときは感激したな。この世界に胡椒の木なんてないかな?日本より緯度が低そうだし可能性はあるかな。

 などと思ってたら、目の前に胡椒の木が出てきた。よく見るとその周りに何本もあって、みんな緑色の実をたわわに付けてる。


「ジン!おい、胡椒がある!」

「なんだ、胡椒ってのは?」

「胡椒ってのは、すごくいい香辛料になるんだ。もしかしたら金になるかも知れない」

「ホントか?こんな木はどこにでもあるんじゃないのか?そもそも香辛料って何だ?」

「香辛料ってのは肉に少しかけると、味が変わってすごく旨くなるんだ。オレが加工してやるから、できたら食わせてやるぞ。これはたぶん胡椒だと思うから、この袋に入れて持って帰ろう」

「そうかぁ?なら、オレも手伝うわ」

 2人で胡椒の実の房ごと、カゴに押し込む。胡椒の実が大量だ。これだけで来た甲斐があったな。


「今日はマモルに突っ込んでくる獣はいないな?」

「やめてくれ(フラグ立てるのは!)、オレは2日も続けて血だるまになったんだぞ。今日は絶対キレイなまま帰りたい」


 ジンとオレは胡椒の木を捜しながら森の奥に進んで行く。

「だいぶ森の奥まで来たが、これはオレしか入らない道だからマモルは一人で入るなよ」

 ジンの先導でさらに奥に入って行く。

「さあこれだ」

 ジンの指を指した先に檻があって、中にイノシシがいた。罠ってこれか。

「罠って、もっと簡単なものかと思ってた。意外とごついな」

「あん?簡単ってどんなものを考えていたんだ?」

「いやな、脚が固定されて動けないヤツとか」

「そんなんだったら、捕まってもオレが来る前に、他の獣に食べられてしまうだろ?だからがっちりとした檻で、捕まっても外から食われないような檻の罠にしないといけないんだ」

 檻の中ではオレたちを目にしたイノシシが暴れ始めた。ジンは槍を持って狙いをつけイノシシを一突きで仕留める。

「こいつの毛皮は売り物だから、なるべく傷がないようにしないといけないんだ」

 そっか、オレが殺った野牛や大鹿のように首を大きく切り裂いてしまったら毛皮は売り物にならないな。

 ジンがイノシシを仕留めた後、檻の入り口を開け中に入り脚をしばる。檻の中にあった丸太棒にイノシシをくくりつける。

「ほらマモル。棒の端を持ってくれ」

 あーーオレとジンで担いで村に運ぶのか。オレって力仕事は大学入って農業して以来なかったけど、できるかな?心配しながら肩に布を当て担ぐ。おぉ、神さまのくれた力のせいか軽いぞ?ジンが前を担ぎオレが後ろを担いで、村に向かってテクテク歩いて行く。今日はイノシシが捕れたのでこれで終わりらしい。

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