ハルキフに移動する
「マモルがオーガに移動するときは、私の馬車を使うが良い。そのときに書記を同乗させるから、オダ様の前で話した参謀本部について記録させてくれ。あと、個人的にマモルの住んでいた世界の仕組みが興味あるので、それも記録させてくれ。
オダ様の生きておられた世界については、概ね聞いていて、我々の世界とそれほど変わりないと言うことを知っているが、マモルの世界はどうも大きく違うようだ。他にもこの世界で有用なことがあれば、生かしたいと思うのだ」
「分かりました。あの参謀本部や階級の考え方と言うのは、私の来た世界から導入されたものだと思います。ですから、ゴダイ帝国には『降り人』がいて、それを提案し、採り上げた人がいるということでしょう。
織田様の世界から私の世界まで500年くらい経っており、軍事に関して色々と組織や戦術やら練られていますので、ご協力したいと思いますが、提案しても採用して頂けるかどうか?画期的な提案も握りつぶされるのは、歴史が証明していますので」
「そうか、そうであろうな」
「はい、織田様の前では言わなかったのですが、ゴダイ帝国に参謀本部があれば、織田様の戦い方の研究をしているのでないかと思います。ですから、織田領全体でどのくらい兵が出るか、騎馬、槍、弓がどのくらいいるのか、どのような戦法で戦うのか、ということを調査していると思います。どのように兵を展開するか、調べているはずです。戦争が起きた場合、指揮する者は自分の成功体験を繰り返すと言われており、戦い方のクセがあると言われています。ゴダイ帝国軍が織田様と戦い、勝ったとき、負けたときの原因を調べ、次の戦いのとき、どう対応するか、作戦を立ててくるのだろうと思います」
「そんなことをしているのか」
「はい、それだけ研究しているはずです。私の世界のものと同じであれば、そうだと思います。あとは参謀本部がいつでき、どのくらいの人員で動いているかで変わってくるかと思います」
「怖いものだな」
「そうですね。本来なら、この国でも同様な組織を作り、対ゴダイ帝国戦を研究しないといけないかと思います」
「そうか、しかしこの国では難しいであろうな」
「せめて、ハルキフ方面からゴダイ帝国が攻めてくる事を想定して、研究しておくだけでも良いかと思います」
「分かった、オダ様に上申してみよう」
「お願い致します。私もこの国に移ってきて、今の生活を大切にしたいと思いますので、ご協力できることは、できる限りのことは致します」
ギレイ様は難しい顔をして帰って行かれた。
オレにしても、ゴダイ帝国に参謀本部があったというのは衝撃で、できれば名前だけの組織であって欲しいと思うんだけど。しかし、貴族制を廃して階級制度で国を動かしているというなら、中国戦国時代の秦とその他の国のようなものでないかと想像されるんだなぁ。ゴダイ帝国が秦なら、この国は何なんだろう?真正面なら魏か韓か。オレの生きている15年だけでも安泰であって欲しいな。
ネストルと一緒に来ていると、手元に金があってもキレイなお姉さんのとこに行こうとは言ってこなかったよ、驚いた。みんな、バゥみたいな大人ばかりかと思っていたけど、えらいなぁ。でもオレが誘えば乗って来たのかな?部下から誘うというのは、あり得ないか。まぁ、このまま寝ようね。
その後は何事もなく、ギレイ様の馬車に乗ってオーガの街に移動した。
ネストルとはこの街で別れ、オレはハルキフの街に行くことになっている。村に帰るネストルには土産を買っていくことを頼んで、オレはハルキフ行きの馬車に乗せてもらった。貴族扱いされるのがイヤなので、平民が乗る乗合馬車に剣を抱えて乗って大人しくしていこっと。
乗り合い馬車は、8人乗っていて、オレ以外に剣を持った用心棒のようなものがいて、他には夫婦と子ども2人、あと商人のような包みを抱えた男が2人だ。
商人のような男2人は互いの商売と最近の景気について話をしている。家族連れは次の街の親戚を頼って働きに行くそうだ。用心棒は本当にこの馬車の用心棒だそうで、滅多に盗賊は現れないが、農民崩れの凶賊が襲ってくることがあるので、念のためということらしい。平民しか乗っていない馬車を襲っても大した上がりにならないので、まず襲われることはないらしい。襲われるのは、輸送隊みたいな金や荷物を持っている馬車隊ということだった。
オレは内心、獣を呼ぶ磁石を持っているし、暗殺者を呼ぶ磁石も持っているようなので、迷惑かけなければいいのに、と心配してます。
念のための石ころを手の上で転がしていると、この人何をしてるんだろう?的な眼差しで見られる。けれど、しばらくしたら変な人がいる、くらいの眼で誰も話しかけてこなくなって、ほっぱって置かれる。まぁ、この世界の常識を余り知らないから、話かけられても困るし。最初の街までは何事もなく済みました。
商人2人はそのままで、家族連れは降り、代わりに母娘が乗ってきた。大丈夫なの、女2人で短いとは言え、旅というのは危険じゃないの?と思ったけど、他の男たちは女性が乗ってきたことで、気分が上がったような気がする。まあ、普通は何事もなく行くんだろうな。おい、商人のおっさん、女性たちに馴れ馴れしく話しかけるんじゃないよ、1人いい思いしやがって。でもみんな聞き耳立てているけど。
途中で、女の人がお花を摘みに行きたいと言うので、小休憩になる。クッションもない馬車の板の間にそのまま座っていると、とにかく尻が痛い。人知れず『Cure』を使っているけど、他の人はガマンしているのか、馴れているのか、大したもんだよ。
こういう時にRPGではイベントが起きるんだよな?と思っていたら、予定通り?起きました。
「「きゃーーーーーーー!」」
悲鳴がデュエットで聞こえた。男はみんな声のした方に反応する。20mほど離れた草むらの中から女の人が立っている。バストアップの頭が2つ見え、すぐ側に熊が立ってますがな。どうするの?と思って、用心棒の顔を見ても狼狽しているけど、こいつ反応しそうにないし。
仕方なくビューーーーンと石を投げ、狙い通り熊の頭に当たる。カァーーーーーーン!!と音はしないけど、吹き出しが見えた気がしたくらい、キレイに当たり、熊がのけぞった。あー脳しんとうくらい起きなかったかな?それくらいで倒れるはずもなく、でもヘイトは稼いだようで、オレを睨んでくれるといういつもの展開に変わったし。
もう慣れた展開なので、剣を抜き熊に近づいて行く。用心棒さん、知らん顔してますね、オレは関係ないから勝手にやってくれ、ってことですね。はいはい、やりますから。近づいて行くと、熊はワッサワッサと走って来る。さぁ、いらっしゃい、キミは初めてでしょうけど、オレは対熊戦は何度目か分からないですし、でも油断しませんよ。
熊の首筋を斬って、いつも通り返り血を浴びたので『Clean』をかける。
女の人の方を見ると唖然とした表情で、泣き笑いの顔をしている。大丈夫かしらん?と思って近づいていくと、いやいやという感じで手で、来ないで近寄らないでってサインするんだけど、臭いますよね、やっぱ。服まで濡れたんでしょう?でも、そのまま馬車に乗るんでしょ?みんな迷惑しますから。
来ないでサインを無視して近づき、『Clean』を掛ける。
女の人たちは、ハッとした顔をしたけど、すぐに笑顔に変わった。
「「ありがとうございます」」
お母さんはともかく、娘さんかお礼言われると嬉しいけど、呪文のことは言わないでねとお願いする。
馬車の方を見ると、みんな熊の所に集まって、ガヤガヤ言ってるけど、これはそのまま置いていくしかないでしょう?誰も解体できないでしょう?
「これは良い肉だなぁ」
「おお、旨そうだな」
「市場に持って行けば良い金になりそうだな」
と言うので聞いてみた。
「これって、いくらくらいになるのでしょうか?」
「そうだな、金貨4枚かな?毛皮はほとんど傷んでないし、肉はちょっと少なそうだけど」
「金貨4枚は安くないか?5枚はいくんじゃないか?」
「まぁ、その辺じゃないかな?」
「そうですか、もったいないけどここに置いていきましょうか」
「「「「「えええ!」」」」」
「だって、こんなところで解体なんてできないでしょ?道具だってないし」
「そうりゃ、そうだが」
「もったいないのぉ」
「まぁ、早く出発しましょうよ。早く行かないと、着くのが夜になるんじゃないですか?それに熊の血の臭いに誘われて狼の群れがやってきますよ」
「そうだよな、じゃあ出発するか」
「えーーーなんとかならないか?」
と用心棒の兄ちゃん。だったら、お前がなんとかしろよ。聞き分けのないことを言うんじゃないよ。男ばかりなら野宿もいいけど、女の人が2人いるんだし。
「じゃあ、自分でなんとかしろよ。第一、倒したのはオレなんだから、オレが決めていいだろ?」
「それはそうですが、もったいなくて」
「なら、自分で何とかして、持って行けよ。馬車の護衛はオレがするから」
「そんなぁ!?」
「ほら、行くぞ。男の子は泣いちゃ、大きくなれないぞ」
用心棒の兄ちゃんは泣く泣く馬車に乗り込んだ。女の人はもう乗ってるし、お前がごねなきゃもっと早く出発したんだぜ。
「ほら、見てみろよ。狼が近寄ってきてるぞ。血の臭いがするんだって」
向こうの方から狼の群れが走って来てるし。




