いよいよ信忠様とご対面です
ギレイ様の馬車に乗せられ、信忠様の居城に向かう。
ギレイ様が無言なので、オレの方から何も言うことはない。無事、馬車が城に着き、案内役の騎士?役人?に連れられ奥に進む。ギレイ様は知った通路だからか、案内もろくに聞かず、スタスタと歩いて行く。
着いた先は、ドアというより扉という方がぴったりの豪奢な物だ。金がかかっていることが一目で分かる。
中に入ると、信忠様が立ち上がって、迎えてくれた。
「マモルか、よく来たな。待っておったぞ」
同席されている人たちを紹介される。一人、場違いなほど若く背の高い金髪碧眼の背の高い眼光の鋭い男がいる。20才くらいか、オレの顔を睨んでいる。なんか悪意というか嫌悪というか、隠さずぶつけてくる感じ。一人だけ、豪奢な服を着ていて、明らかに場違いな感じがするんだけど。ま、オレもこの中で貧乏臭さが飛び抜けているから、場違い感満載ですけど......。
「息子のアレクサだ」
と信忠様から紹介されるが、息子さんは頭をうなずくくらい動かしただけで、一言もなかった。
「お初にお目にかかります。タチバナ村の村主で騎士爵のマモルと申します。以後、よろしくお願いいたします」
と言って頭を下げても、何の返事も頂けなかった。無視かぁ、オレの何が悪いのか、礼儀がなっていなかったのか分からないけれど、ここまでやられると傷つくわ。他にもアレクサ様の周りにいる年上で金髪碧眼の2,3人のオヤジが、オレに対しあからさまに嫌悪感を表している。ウエルカムの人と、アウエイの人、はっきり別れている。
そんな雰囲気を知らん顔して信忠様はオレを迎えてくれた、恐縮です。ギレイ様も苦笑いしている。
「マモル、そこに座れ。さあ、話をしようではないか。何から話そうか?たくさんありすぎて分からんな笑。
まず、弩のことか。ギレイから聞いたぞ。さっそく試してみたそうだな。これは、わが領でも配備させることとしよう。これは鉄砲の三段打ちを例えていたが、矢をかけるのにそうは時間がかからないようだから、二段で十分打てそうだし、雨でも使えるから、使い道は広いぞ。。
それに凶賊や山賊相手にも使えそうだし、村の防衛に役立つ物であるから、村にも配備させよう。使わなくとも弩を備えていると賊どもが知って、襲ってこなくなれば良いことだからな。
あと、胡椒とクローブは確かに受け取った。さきほど、匂いを嗅いだだけだが、これなら海の向こうのものと変わらないように思える。十分、商品としてやっていけるから、どんどん作ってくれ。まだ気が早いが、来年再来年と5年くらいでどのくらい増産できるのか、見通しを出してくれ。これは楽しみである。わが食卓を豊かにしてくれるだけでなく、わが領の貴重な財源となる。できるだけの援助は致すから、タチバナ村で、今後どのように種から育てていけば良いか、他の村で栽培していくことを考え試してみてくれ」
「はい、分かりました。それについては、村に帰って計画を立て、ご報告いたします」
これは、PDCAを回しなさいと言われているんだな、と分かりましてございます。
「それにヒューイの所でも胡椒の木を見た、と言っていたな。ここからの帰りにヒューイの所に行き、どのくらい胡椒の木があるのか、検証してくれ。あと絹糸についても、ヒューイと協議してくれ。何としても産業として成り立てたいのだ」
「はい、分かりました」
「それから、魔法のことであるが、マモルは今、何が使えるのだ?」
「はい、大勢いらっしゃる場で申し上げるのは、いささか気が引けるのですが、「Clean」「Be Silent」「Cure」です」
と人前でやってみせたものだけ言う。なぜか、アレクサ様は怖い感じがして、オレの味方にはなってくれそうにない感じがする。
「そうか、実は魔法の呪文を教えても良い、という者がいないのだ。
魔法の呪文というものは、各自の秘密にしているものであり、今のマモルのようにどんな呪文を使えるのか、明らかにするものが珍しいそうだ。魔力があると言っても、どのくらい使えるか人に言わず、教えないそうだ。だから、申し訳ないが私の方からマモルにしてやれることはないのだ」
「そうですか、それは仕方ないです.分かりました」
「フン」
え、フンと聞こえましたけど?空気の読めるオレは知らん顔します。
「あと、米の調達についてだが、タチバナ村の運営がうまくいってからと思っている。しばらくはタチバナ村の運営に努めてくれ。
私から伝えることは、それだけだが、マモルの方から何か質問はあるか?」
「はい、先日のハルキフの戦いについて疑問がありまして、教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
と言ったところ、突然にアレクサ様が怒鳴った。
「何を言い出すかと思ったら、平民上がりの騎士爵がハルキフの戦いの何を聞きたいというのだ。少しくらい、戦功を挙げたからと言って偉そうな......」
「まあいい、マモル。申してみよ」
と信忠様から助け船が出ました。
チキンハートのオレは怒鳴られると萎縮して、何も言えなくなるんですから。どこの世界でも、声の大きい発言者の主張に会議が流される、ということを知っていますか?
遠慮しいしい話します。
「ハルキフの戦いで、ゴダイ帝国の捕虜が大佐や中佐や大尉とか言われていましたが、この国とは身分制度が異なるのですか?」
「そのことか?ゴダイ帝国は貴族社会でなく、階級社会となっているそうだ。確か、文官武官で大将中将少将と階級が下がり、勲功を挙げると上がっていくことができるそうだ」
「中国の戦国時代の秦のようですか?」
「秦か?あぁ、そうかも知れんな。
この世界では考えられないことだが、貴族制を廃して、王族を除いてすべての民を平民とし、過去の功績を廃したらしい。よくそんなことができたと思うが、日本の戦国時代を考えると余り違わないがな」
「革命のようですね」
「そうだな。それでマモルが知っているのなら聞きたいのだが、ゴダイ帝国には軍に参謀本部というものを作ったそうだが、何をするものか分からぬ。国王様も調べようとされているが、情報が取れないのだ。マモルが何か知っているか?」
と信忠様が聞いてこられたのにアレクサ様が
「なにをこんな下劣な者に聞いて分かるわけがない!」
言ってくれますよね、舐めていますね、オレを。クラウゼヴィッツの戦争論の解説した本を読んだことがあるんです、大学時代に。ほとんど内容は忘れてしまったけど、この人たちよりは知っていますよ!
「参謀本部とは私のいた世界にあるものと同じなら、知っております」
「何、知っているのか?」
「はい。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という言葉を組織的に実践するものです」
アレクサがまた茶々をを入れてくる。
「何を言っているのだ。我々に対して.....」
「よい。マモル続けよ」
「はい。簡単に言うと、この国から見ると、ゴダイ帝国を仮想敵国として」
「仮想敵国とは何か?」
「もっとも戦争になりそうな国です。」
「それならゴダイ帝国が仮想敵国だな」
「はい、それでゴダイ帝国がこの国に攻めてくると仮定して、どの道からどのように、どのくらいの戦力で攻めてくるか考える組織を作ることです。もし、この国に到る道に分散して攻め込む場合、ハルキフにはどのくらいの戦力で攻めてくるか、ハルキフに全兵力を当てて攻める場合は、どのくらいの兵力か?ということを考えます。ゴダイ帝国の人口がどのくらいで、どのくらい兵がいるのか、どのくらい戦争を続けられるのか?ということを、戦争になる前にしらべておき、対策を立てていきます。
長くなるので、後で何か書いて提出致しましょうか?」
「何を偉そうに言っておるのだ。我々は百戦百勝、負けた事がないのだ。勝つ、という鉄の意志があれば、いついかなるとき、ゴダイ帝国が攻めてこようと負けるはずがない!」
えーーーアレクサ様、その旗は下げた方が良いと思いますよ、と思ったけど言わずにいたら、信忠様から
「そうだな、そうしてもらおうか」
「分かりました」
「後は何かあるか?」
「いえ。これでありません、ありがとうございました」
「よい。下がれ」
「はい、失礼いたします」
部屋を出ると大きく息をついた。悪意が充満した部屋にいると、息が詰まりそうでした。同じ空気を吸っているとマイナスの方に気持ちが引っ張られてくる。沈むな~~。
案内役の人に連れられて廊下を歩く。人っ子一人おらず、空気がひんやりしている気がする。突然、後ろから羽交い締めにされる。まずい、これはあのときと同じ感じだ。
「Die」
羽交い締めしたヤツが手を放し、崩れ落ちた。
振り向くと、手にナイフを持った、高級そうな服を着た男が倒れていた。
「どうしたんだ?」
案内役の男が声を掛けてきて、倒れている男を見て息を呑んだ。
「これは......クチマ様。クチマ男爵様です」
「誰か呼んできていただけませんか?」
「は、はい、呼んできます」
案内役の男は奥の方に走っていった。
男爵か、貴族の者が抜き身のナイフを手に持っているのはマズいか?そう思って、手からナイフを外し、窓から外に投げた。
大勢の人が奥から走って来た。なんと、アレクサ様が先頭になって来た。関係者か?
「何があったのだ?」
「はい、私が案内役の方に付いて歩いていると、後ろで音がしたので、振り返ると、この方が倒れておられました。それで、呼びにいってもらいました」
「本当か?」
「はい、間違いありません」
「そうか......」
アレクサ様は釈然としない顔でオレを見ている。お付きの人が、クチマ男爵の身体を調べているが、もちろん外傷があるわけでもなく、日本でいうなら心臓麻痺か心不全みたいな感じに見えるだろう。
「マモル、お前は治癒の魔法を使えると言うではないか。息返されることはできないのか?」
「申し訳ありませんが、無理です。私の魔法は傷口を治すくらいがせいぜいで、死んだ人を生き返らせるということは絶対無理です」
「ふん、役に立たないな」
と一方的にけなされている所に、信忠様、ギレイ様が歩いてきた。
「マモル、どうしたのだ?」
同じ聞き方でも違うよな、嫌悪感丸出しでお前が殺したんだろ?的な聞き方と、中立の立場で聞いてくるのと容疑者の印象はだいぶ違うンですよ。
「はい、案内役の方に連れられて歩いていると、後ろで音がしたので振り返ると、この方が倒れておられました」
「本当か?」
「はい、本当です。それで、案内役の方に人を呼びに行ってもらいました」
「そうか」
クチマ男爵の身体を調べていたギレイ様が
「身体に異常はありませんね、織田様」
「そうか。突然死ということか。マモル、この者が何か持っていなかったか?」
「いいえ、何もお持ちではありませんでした。私は、この方の身体には一切触れておりません」
「ふーーむ。そうか」
何か含んだ言い方だし、アレクサ様はすごく不機嫌そうな顔をしているし、人が死んだんだから当たり前だけど、雰囲気は最悪だ。
オレに聞こえないように、皆さんあっちを向いて、ごにょごにょ話をしておられる。さっきはオレを意図して殺そうとしたんだよね?街で襲われたときは意図が不明だったけど、今は明らかにオレを殺そうとしていたんだ。どうして、オレを殺そうとするんだろう。将棋で言ったら歩兵に過ぎないおれを殺して得をする人は誰?あ、歩兵だから殺しても良いというのかな?なぜだろう?
考えているうちに、話し合いは終わったようで、アレクサ様の顔は真っ赤になっているし、信忠様は苦虫をかみつぶしたような顔だけど、ギレイ様は無表情だ。
「マモルは帰れ。このことは他言無用だ」
「はい、分かりました。では失礼致します」
玄関まで連れて行かれ、ギレイ様の馬車に乗せられ宿に着いた、
夜、宿で夕ごはんを食べた後、ギレイ様がやってきた。
「夜分済まぬな、マモル。今日のことについて、話をしたいのだ。二人だけで話をしたいのだが、どこか部屋を用意してくれないか?」
ギレイ様が宿の者に頼むと、会議用というか接客用の部屋があるそうで、そこに入れてもらった。
「マモル、私が来たのは非公式であるので、まぁ、お忍びということだと理解してくれ」
と前提条件を言われた。はい、分かっております、オフレコですね。
「マモルが城から帰ろうとするとき、倒れたのは男爵でクチマという」
「はい、聞きました」
「そうか。それでクチマはアレクサ様の側近だったのだ」
やはり、そういうつながりですか、想像通りです。
「それでだ、クチマはマモルに何か言ったり、したりしなかったか?」
「いいえ、何も」
「本当か?」
「はい、確かに」
「そうか。分かったと思うが、アレクサ様はマモルをひどく嫌っておられる。まぁ、マモルだけでなく私もヒューイなども嫌われているがな。アレクサ様から見ると、騎士爵などというものは平民と同じで、賤しき者なのだ。であるから、話をすることさえ、汚らわしいと思われているんだろう。困った意味で潔癖な方なのだ、貴族至上主義というか血統第一というか」
「そうなんですか」
そうでしょうね、わかりますもん、あの黒い感情が。
「そうだ、だからマモルと同じ部屋にいることさえガマンできないらしい。それなのに、織田様は私やヒューイを引き上げられ、ましてやマモルを優遇しておられる。それが気にくわないのだ。やがて、アレクサ様が領主になられたとき、マモルが部下などということは、許されることではないと考えられても不思議ではない。
あの方にとって、織田様の養子に入ったことさえ、屈辱であったようだが、今やヤロスラフ王国でもっとも栄えている領を継ぐことができる、ということで妥協されているらしい。だから、取り巻きは王都から連れて来た、由緒正しい貴族の三男四男ばかりで固めておられて、織田領出身の者は一人として加えておられぬ。
そのような方であるから、目障りなヤツは早いうちに始末しておこうと考えられて、クチマにやらせたのかと思ったのだがな。マモルの代わりに自分の息のかかったものをタチバナ村に置こうとしたのでないかとな。
織田様も同じ事を考えておられて、私が確認しに来たのだ」
「分かりました。今後、気を付けます」
「そうだな、十分気を付けてくれ。アレクサ様はしつこい方でな、一度決められるとなかなか諦められないのだ」
「はい、分かりました」
やっぱり、こんなことあるんだよなぁ......。
読んでいただきありがとうございます。3月5日の時点でブックマークが30件になりました!
読まれる方に取っては、取るに足らないこととは思いますが、拙い内容でブックマークを付けていただき、感謝しかありません。改めて、ありがとうございます。




