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オーガの町に泊まります

 ギレイ様にはすでに弩の情報が届いていて、その効果について耳にしておられた。

「弩というものはスゴいな。女でも戦力として十分戦えるようになる。これを数多く作り、配備するよう織田様にも上申しよう。あと胡椒やクローブの栽培の方も順調なようだな?」

「はい、ギレイ様にお土産に1瓶持ってきましたので、お納めください」

 と一瓶(と言ってもジャム瓶くらいの大きさだけど)机の上に置く。

「これは済まんな。前から、胡椒は流通しているが、ザーイを通して海外から輸入しているので非常に高価なのだ。これが織田領で作れるようになると、莫大な利益が見込めるから楽しみであるし、食卓が豊かになる喜びもある」

「それは何よりです。ルーシ王国で栽培していたときより、タチバナ村で栽培する方が早く実るような気がします。たぶん、地質の影響だと思うのですが、私も収穫を楽しみにしておりますので、頑張ります」

「頼む、そうしてくれ。今はタチバナ村に投資している段階だが、早く自立してどんどん香辛料が出荷できるようになってくれればいいな」

「そうですね」

 それから弩について、話があった。もっと大きく射程を長くしたもの、連射できるようにしたものを作っていけば、ゴダイ帝国に対して有利に立てると言われる。織田領に広めていくことは良いのだが、国内に広めていくと必ず、ゴダイ帝国に製造方法が伝わってしまうと考えられると言われる。

 オレからすると弩なんて、アイデア勝負だから、一度見るとだいたい作り方は分かってしまうと思うので、隠しても意味がないような気がするけど、そうでもないらしい。そういう政治的な話は上の人の話になるので、お任せする。


 その後、蚕の話が出た。ヒューイさんが領主となったハルキフの町に一度行って、蚕から絹糸を取る方法を伝授するよう織田様からオレに伝えるよう言われていたそうだ。そのため、織田様に会った帰り、オレはハルキフに行くことになる。ネストルはハルキフの前の領主の部下で、今は執行猶予付きの犯罪人でありハルキフの町に知り合いも多いので、今は行けないらしい。それで、オレが一人で行くことになった。一人と言っても、きっと誰か一緒に行ってくれるんだろうけど。


 ギレイ様と話をしている横で、机の上にどんどん書類が積み重ねられるので、オレは気が気でなく、おいとますることにしました。帰りに馬車を出すと言われたけど、オーガの町を見て周りたかったので、お断りして徒歩で宿に帰ることにします。

 出発は明後日ということで、今日一日は自由時間ということにしてもらって。ギレイ様は夕食くらい一緒に食べたいが、出発までにかたづけないといけない仕事が山積みでな、ということで夕食も勝手にさせてもらいました。


 町の通りの両側には商店が軒を並べ、すごく賑やかだ。考えてみると、この世界に来て、こういう場所に昼間に来たのは初めてで新鮮です。ルーシ王国にいたときは、一人で町をブラブラなんて経験できなかったし、と言っても夜の繁華街は一度経験したけど。

 食べ物屋さんが並んでいて、匂いが鼻をくすぐる。ソースのような匂いがするとやっぱり食欲をそそる。けれど、その屋台を見るとアレがいた!!丸々とした蚕が。ネストルは蚕の丸焼きソース浸けを見ると、舌なめずりをしそうな顔で見ている。それを見た店のおっちゃんが、

「ほれ、朝採れの蚕の丸焼きだよ、旨いよ、旨いよ!どうだい、一匹銅貨5枚だよ!ほれ5匹でおまけして銅貨20枚だ!」

 ネストルがオレの顔を見る。子どもじゃないんだから、その顔は止めなさい。

「ネストル、食べたいんですか?」

「はい!大好物です。タチバナ村では蚕がいなくて、食べることができなかったので、今これを見ると、食べたくて仕方ありません。大変申し訳ございません」

「仕方ないです。ネストルの食べたい分、買いなさい。オレはいりませんから」

「え、マモル様は食べられない?いえ、それなら私は食べるわけにはいきません。主人が口にしないものを仕えている者が口にして良いことなどありませんから」

「いや、オレは蚕が口にできないだけですから、ネストルは食べて良いですよ」

「いいえ、そんなわけにはいきませんから泣」


 そうか、そうだよなぁ、封建社会の中に生きていて、貴族の主人の前で、召し使いだけが食事するなんて、ありえないんだろうな。宿の食事のときも、オレが来るまで立って待ち、口にするまで待っているし。

「仕方ない、どこかで食事して行きましょう。どこがいいか、ネストルが選んでください」

「ハイ!分かりました」

 選んだ店は、そこそこ高級そうなレストランで、オレは蚕の入ってないものを頼み、ネストルは蚕の炒め物満載のコースを頼んでいた。今度、タチバナ村で蚕を育てますか?と聞くと、是非!!と言われたので、桑の木があるか捜そうか。


 その後、武器屋に連れて行く。ギレイ様に教えてもらった店に行くと、これがデカい店で、小さい小学校の体育館くらいの大きさだ。これが普通の武器屋さんなのでしょうか?


 期待していた定番の魔石とか、魔道具とか、魔法陣とか、魔剣とか、ないんですけど。お守り袋はたぶん魔道具に分類されるけど、きっと市販されているようなものではないんだろうな。


 前の戦いのときに、オレとバゥとミコラの鎧やヘルメットじゃない、兜なんですが、借り物でしたから、せめて3人は自前のものを欲しいと思いますよね、今後のこともあるし。でも、値札を見ると結構高いんで、それに考えてみれば本人を連れてきて合うかどうか見ないといけないんだった。

 それに凶賊の来襲に対して、女性軍が活躍したけど、彼女たち(彼らもいたけど)は防具がなかったから、丸裸で戦ったようなものだんだ。少なくともヘルメットと籠手と胸当てくらいは装備させたい。そうなると30人プラスくらいになるなぁ、でも必要不可欠の安全装備だと思うし、ちょっとした傷が化膿して、死に到ることもある世界だから装備させたいよ。


 そんなことをネストルと話をしていたら、話を聞いていた店の人が

「タチバナ村のマモル様でございますね?」

 と名乗りもしないのに聞いてきた。びっくりして

「どうして知っているんですか?確かにオレはマモルですが」

「はい、タチバナ村が30人の凶賊を討ち取った、というのは有名な話ですから」

「有名?」

 タチバナ村と30人の凶賊?


「そうですとも。助けられた輸送隊や護衛たちが、酒場で夕べ、その話をしております。こんな痛快な話は、なかなかないですから、誰もが皆、聞きたがって、彼らは酒場を変えて話をしてタダで酒を飲んでおりますよ」

 娯楽が少ない世界では、そんな武勇伝が大ウケなんだろうな。


「それで、タチバナ村で武器や防具がご入り用ですか?ならば是非、当店をご利用くださいませ。ハルキフの戦いの英雄のマモル様に当店の武器や防具をお買い上げ頂き、さらに凶賊殲滅したタチバナ村のみなさまに使って頂くというのは、当店にとって願ったりかなったりです。価格の方は精一杯ご協力させて頂きますので、是非是非、お願い致します」

 と90°、いや110°くらい折り曲げてお辞儀されるので、ネストルと顔を合わせて困ってしまう。


「熱意は伝わりましたから、実際に見積はいくらくらいになるでしょうか?教えてください」

 おっと、さすがに優秀な文官のネストルだ、ぼっとしているオレを置いといて質問した。

「そうでございますね。例えば30人分の兜と革鎧、革籠手をまとめてお買い上げ頂くとして、一人銀貨4枚として、銀貨120枚になりますので金貨6枚でございますね。

 それで、わざわざタチバナ村から来て頂くわけにはいきませんので、こちらから出向いて寸法を調整いたしましょう。その費用はサービス致しますので、それでいかがでしょうか?」

「う~~ん、ちょっと高いですねぇ。私がハルキフにいたときは、もう少し安く買えたのですが」

 とネストルさん。

「いえいえ、ハルキフとウチでは品質が違います。ご覧になって頂ければ(う~ん、オレにはよく分からないけど)当店の品質の良さがご理解頂けると思います。なにとぞ、どうか当店をご利用ください!」

「そうは言っても、他の店を回ってみないと。他の店の値段を見ないと、決められませんよね、マモル様」

 あーー、なんてクセ者なんでしょうか、ネストルさん。

「そうだな、ネストルの言う通りだから、他の店を見てみよう」

「お待ちください。分かりました、少々お待ちください、支配人を呼んで参ります。少々、お待ちください、絶対に帰らないでくださいませ!」

 と足早に奥に入っていった。


「オレたちって、有名になってたんだな」

 としみじみネストルに話かけると、

「ええ、マモル様はハルキフの戦いだけでも有名でしたが、凶賊を討伐したことで(実際はオレじゃなくて女性陣の働きですが)さらに評判になっているようですね。今晩、酒場に行って「オレがハルキフの戦いのマモルだ!」と言えば、タダ酒を腹いっぱい飲めますよ。食事もただになりそうですね、ははは」

「やめてくれ。そういうのは似合わないし、あまり騒がれたくないから」

「残念ですねぁ。ハルキフの戦いの英雄本人に会えるなんて、普通の人間にとっては夢のような話だと思いますよ。見ててください、支配人が興奮してやってきますよ」

「でも、手元にあるお金じゃ、この後のことを考えると足りないけど、大丈夫なの?」

「お任せください。切り札がございます!!」

 う~~ん、何だろ、切り札って。


 と奥の方から、どっぷりと貫禄のある人がどたどたとやってきた。ハアハア息をしてオレの前に立ち、一礼した。

「これはこれは、タチバナ村のマモル様ですか。大変申し訳ありません、こんな所でお茶もお出しせず、どうぞこちらにいらしてください」

 と奥の応接室に招かれて。なんか、このパターン、良くない予感がするよなぁ。

「それで、タチバナ村の皆さまでお使いなる防具がご入り用だとか。是非、当店をご利用くださいませ。絶対に、絶対に後悔されることはないよう、ご協力致しますから」

 う~~ん、どうしよう、ここまできて、断る精神力は持ってないけど、ネストルさん頼りだなぁ。そこでネストルさんが言いだした。

「もう少し、ご協力して頂けば、お店から購入したいと思います。と言っても、なにせ、タチバナ村はまだ、織田様からご支援頂いて村が成り立っており、手持ちのお金がないのですよ。

 ない袖は振れない(とオレには聞こえたけど、きっとこの国では違う言い方だよね)と言いますから、出世払いと言いますか、いろいろと助けて頂きますと助かるのですが?」

 ネストルさん、あなた越後屋ですか?いやぁ、オレの部下で良かったよ、こんなの相手に値段交渉なんてオレにはできんわ。


「むむむむ....是非とも買って頂きたいのですが、金貨5枚ではどうでしょう?」

「もう一声!」

 怖いよ、ネストルさん苦笑。

「うーーーーーーーーん。それでは、金貨4枚としたいのですが(横の店員さんが青い顔をしているよ?)ただ値引きしたというのは、同業者に聞かれると非常にまずいことでして、何か、何でもよろしいのでタチバナ村の方から何か、いただけないでしょうか?」

 前の世界なら、サイン入り色紙。記念写真とかあるんだけど。あ、胡椒があるよ、胡椒、ネストルさん、それでいこう!

「うーーーーーん、困りましたねぇ。お伺いするのですが、皆さまは、皆さまのご家族様は、ハルキフの戦いの英雄のマモル様に会って、戦いの話を聞きたいと思われませんか?タチバナ村の凶賊殲滅戦の話を聞きたくないですか?ご本人から、話を聞けるのですよ?どうですか、こんな機会は二度とないですよ、マモル様の話と差し引きでタダという訳にはいかないでしょうから、金貨1枚でどうでしょう?二度とない機会ですよ?」

「なんと、ハルキフの戦いとタチバナ村凶賊殲滅戦をご本人から聞けるという、なんと、本当によろしいのですか、マモル様?」

 支配人さん、目が血走っています。そんなに睨まないでください。思わず、うなずいてしまったじゃないですか。

「分かりました。是非、お願い致します。家族の者に聞かせたいと思います!!それでマモル様、20人くらい集めても、よろしいでしょうか?なんなら、夕食をご一緒したいのですが、後でお宿に迎えに伺います。今晩でよろしいでしょうか?分かりました、今晩、よろしくお願い致します。あぁ、なんと言うことだ、こんな幸運が来るなんて!

 おい、せっかくだ、お前も家族を呼んで来い。店?店なんて今すぐ閉めろ。帰って夕食の準備をするぞ。お土産の手配を忘れるな。では、マモル様、後ほどお迎えに伺います。どうぞ、よろしくお願い致します」

 一気にまくし立てられ、あっという間に話が決められ、店を出された。


「ネストル、切り札って、これですか?」

「はい、大変申し訳ございません。しかし、貴族の方はともかく、平民でマモル様のお顔を知っているものはおりませんから、きっとこの手には乗ってくると思いました。宿の主人にこの話をすれば、宿代も無料になると思いますよ。どうでしょう?」

「いや、オレは静かに暮らしたいからいいです」

 そんなことしたら、見物人が寄ってくるかも知れないし。

「それは残念です笑」

「それにしても、オレが口下手だったらどうするんですか?」

「それは大丈夫だと聞いております。サラがノンとミンから、マモル様がとても上手にお話されると聞いてきましたから。一度私も聞きたいと思っていたんですよ」

「はぁ、分かりました。ちょっと紙を買っていきましょう。今晩話す、あらすじをまとめておきたいんです(トホホ)」

「分かりました!これは必要経費ですね、買ってまいりましょう」

 どこに行っても、こういう展開がオレの前にあるとはね。何がお金になるか、分からないもんだ。やがて、すっからかんの一文無しになったら、これで稼ごうか。




読んでいただきありがとうございます。


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