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ロマノウ商会を訪れて

 一流商会の中は、こんなんなんか?と驚きながら、ドギマギしながらもう小市民丸出しです。


 そんな待つこともなく、見るからに執事然とした男性が現れ、奥に案内された。衛兵隊庁舎とは明らかに違う高級感溢れる廊下を通り、さらに高級な部屋に通される。足下の絨毯がふかふかじゃないですか?オレなんか、こんないい部屋に通されていいんですかね。

 横のネストルはさも当然!と言った顔をしているけど、大丈夫なの?オレはまだ、一番下っぱの騎士爵ですよ?噂先行で過大評価されている気がすごくするんですが。一部上場の一流企業の応接に通されたような気がしますよ、行ったことないけど。


 出された紅茶も美味しい。ちゃんと香りもするし、渋みもちょうどで、カップも高級感が漂っているし、もし割っても弁償できないでしょう涙。

 そんなことを考えていると、入ってこられました、高級そうな服を着た、いかにも紳士という出で立ちで、振る舞いの方が。

「初めまして、タチバナ村のマモル様でございますね。私はロマノウ商会のオーガ支店長のジョアンでございます。よろしく、お付き合いをお願い致します」

 ロマノウ商会?確か、ポリシェン様と領都に移動するとき助けた馬車に乗ってた人がロマノウ商会の会頭だって言ってなかったっけ?やたら丁寧な挨拶に、恐縮する限りで。


 オレが何かを言う前に、隣のネストルが鞄から小瓶を出しジョアンに差し出した。

「お初にお目にかかります。私はタチバナ村でマモル様の下で働いておりますネストルと申します。以後よろしくお願い致します。今日は、今後のお付き合いのご挨拶も兼ねて、伺いました。

 事前にご案内しておけば宜しかったのですが、今回突然、織田様に呼ばれたものですから、連絡が間に合わず突然のこととなり、お詫び申し上げます。

 今後のお付き合いもありますので、取りあえずの手土産ということで、これを持参致しましたので、お納めください」

「これは?」

「これは、タチバナ村で採れました黒胡椒です」

「え、黒胡椒ですか?」

「はい、黒胡椒です。すでに織田様には献上しておりまして、今回持って参りましたのは今後お付き合いする重要な方たちにお配りしようと持参したものですので、その辺りをご理解頂きたいと思います」

「おぉ、それはそれは、まことにありがとうございます。

 実は、マモル様のことはルーシ王国にいらっしゃったときから、わが商会ではご注視しておりました。シュミハリ辺境伯様にも黒胡椒を献上されておられたと聞いており、そのまま爵位を頂戴されるのかと思っていたと会頭のセルジュが申しておりましたが、こちらの国に移ってこられたと聞いて、私はなんとかしてマモル様とお近づきになりたいと願っていたところでした。

 わざわざ来て頂けるとは、ありがたい限りです。なるほど、オダ様に会いに行かれるということなら、お召し物は用意されておられますか?まだ?では、当商会ですぐに作らせましょう、代金?そのようなものは必要ありません、セルジュから、もしマモル様がいらしたら、できる最大限のおもてなしをせよ、と言われておりますから、何もご心配なさらずに。

 今晩のお泊まりは?あぁ、あそこの宿ですか?良ければ、当商会で手配させて頂きますがいかがでしょうか?結構ですか?分かりました。では、代わりに領都の宿を手配させて頂きますので、そちらにお泊まりください」

 と一気に言われ、気圧され黙っているだけで終わってしまった。

 お金を預けたいとネストルが言うと、預かり証を出してくれた。これを見せると、どこに行ってもロマノウ商会でお金を下ろしてくれるという預金通帳のようなものだ。

 しかし、あの町でちょっと会っただけで挨拶をしたわけでもないのに、敏腕商人というものはすごいね。二流商社マン出身のオレからすると一流商社マンとの違いを見せつけられたような気がする。昔、課長に言われた「目配り、気配り、思いやり」を実践されてますね、ジョアンさん。営業マンとしてオレはあなたの足下にも及びませんから。


 もう、いるだけですごく疲れたので、夕食の招待も受けたのだけれど、遠慮して帰してもらった。と言っても、行きは徒歩だったのが、帰りはご立派な馬車に乗せられ、途中これまた立派な洋服店に寄って採寸され、明後日の朝までにお届けします、という。いくら出せばオーダーメイドの服をそんなに早く作ってくれるんだ?という思いを秘めながら、前の世界では常に量販店の値引きスーツしか買えなかった自分を省みながら、へとへとになって、やっと宿に着いた。

 宿に着いて、夕ごはんまで時間があるなぁ、と思っていたらネストルが

「マモル様、大変申し訳ないのですが、実は私の着る服がないのでございます。誠に申し訳ないのですが、私の服を買ってきたいのですが、持ち合わせがございません。

 ハルキフで連座した際、財産が没収されまして、無一文でタチバナ村に行きました。大変言いにくいのですが、今日の懸賞金から銀貨10枚いただけないでしょうか?」

 と、これ以上ないくらいに頭を下げ、お願いしてきた。あ、確かにそうか、と思って銀貨10枚渡す。

「はい、10枚渡すけど、足りるの?」

「はい、大丈夫でございます。途中、古着屋を見つけてきましたので、そこで購入して参ります。前職は購買担当をしておりましたので、物のおおよその価格は存じておりますので、これだけ頂ければ、程度の良い中古品が買えます。では、申し訳ありませんが、しばらく外出致します」

 と言って出て行った。


 え?ネストルが多めに言ったかも知れないって?いいの、それくらい。オレの正装代をただにしてくれたんだし、ロマノウ商会との渡りをつけてくれたんだし。

 これってバゥやミコラでは絶対無理だったわ。2人のどっちを連れてきても、かならず今頃は、どこに行きましょうね?なんて言ってるよね、役にたたないよなぁ。

 夕ご飯に呼ばれて行くとちゃんとネストルが待っていた。やっぱ、有能なお供は違うね。


 翌朝はギレイ様に会いに行く。宿で待っていると、お迎えの馬車が来て、領主館に連れて行かれる。

 領主の執務室に通されると、異世界ノベルの常識通り、書類に囲まれたギレイ様がいた。

「悪いな、マモル。見た通りだから少し待ってくれ」

 と言われて、椅子に座って待つ。書類に基本サインしてるだけに見えるけど、サインする間に書類が来て、賽の河原で石を積み上げているようなものかしら、怖ろしや。

「見事なものですね、さすがオーガの町の領主様です。ハルキフの町ではこれほどではありませんでした。できる領主様は違います」

 とネストルが語るが、オレは何が偉いのかさっぱり分からないけどね。ギレイ様の腱鞘炎だけが心配だわ。


 30分も待ったか、書類の山からギレイ様が出て来られた。お疲れ様、という他、言葉もないな。

「マモル、人ごとだと思っているな?おまえはすぐだぞ、書類の山に囲まれて、泣きながらサインするのはな笑」

 ギレイ様、手に『Cure』かけましょうか?

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