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オーガに向けて出発します

この投稿の時点で30万字を越えました。55話で30万字、200話、300話と投稿されている方たちは、それはスゴいな、とただただ、尊敬します。

 次の朝、みんなに見送られてオーガに向かう。ネストルを連れて行くけど、村にはサラさんがいるから大丈夫でしょう。村の女性たちの武のリーダーのイリーナさん、文のリーダーのサラさん、男を呼ぶのは呼び捨てでいいけど、女の人を呼ぶのは「さん」付けしないと心が安まらない、前の世界の習いが取れません。

 凶賊たちはロープにつながれて、馬車の後を歩く。一応、ケガはオレが救急処置をしたから、普通に歩けるようになったし、もしイヤイヤをしたら、オレの魔法の練習台にされるという話を吹き込まれたようで、特に文句も言わず付いてきている。

 村を出て、1時間も進むと定番のように狼の群れが現れた。群れと言っても6頭だから、小さい群れなんだろうけど、輸送隊の周りをウロウロと回り始めた。凶賊の後の方はお守りの範囲内ギリギリのようで、狼たちは飛びかかりたいけどできないというジレンマでカリカリきているように見える。


 いつまでも、このままで進むわけにはいかないだろうな、と思って提案する。

「隊長さん、あの狼をオレが始末しても良いですか?」

「「「ええ、なんと、あの狼をやっつけると?」」」

「弩を使うのですか?」

 ネストルが聞いてくるけど、そっか、あなたはオレが獣と戦う所を実際に見たこと無いんだよね、まだ来てから時間経ってないし、狩りに同行してもらったこともなかったし。これは一度見せておいた方がいいかな。

「いや、この剣を使います」

「え、その剣で?」

「1人ですか?」

「6頭いますよ、オレたちは手伝いませんよ?いいんですか?」

 と輸送隊の護衛たちが聞いてくるから、

「まぁ、大丈夫です。このまま狼を連れて行きたくないしね」


 輸送隊は大騒ぎになる。護衛の人たちも、イヤイヤと首を振って、関わりたくないと言ってるし、目線逸らしているのもいるし。凶賊たちは、ホントかよって顔をしている。

「いえ、ホントに1人で大丈夫です。まぁ、見世物だと思って見ていてください。馬車を止めてください」

 馬車が止まり、凶賊たちが近寄ってきて馬車の周りに丸く集まる。オレが剣を持って歩き出すとネストルが

「マモル様、大丈夫なんですか?あんなに狼がいるんですよ。マモル様がお強いとは聞いていますが、もっとご自分を大事にされた方が良いのではないでしょうか?こんな所でケガされるとタチバナ村の希望が消えてしまいますぅ」

 ネストルはハラハラ感満載の顔をしているけど、横の皆さんも同じ顔をしているし、凶賊たちもオレがやられたら、狼に食われるかも知れないと思っているのか、やめればいいのに、という顔をしている。

「まぁ、見ててください」

と言ってスタスタと歩き出すと、後で息をのむ音がした。さて、始めます。


 剣を下げ、剣先を後に向ける。狼たちが、オッ、来るのか?てな顔をして、待ち受けるようにオレを中心に半円を作る。テクテクを進め、お守りの範囲を出た瞬間、ダッシュして左に飛び、1頭、2頭と斬る。狼たちはギョッとした顔で動きが止まった(ように見える)ので、半円の円周状に斬って行く。3,4頭と斬って行くとさすがに残り2頭が逃げ腰になって、後ずさりして離れていった。

 剣を一振りして、狼の血を払って輸送隊を見ると、一同唖然、凶賊たちも口を開けて見てる。あんたたち、今頃、輸送隊を襲わなきゃ良かったと思っているでしょ?何度目の反省かなぁ?後悔先に立たず、って言葉はこの世界にないのかな?ま、あっても知らないのかな。


「マモル様、スゴいです。驚きました、まさかこれほどとは」

 そうなんです、ネストルさん、あなたの信頼が欲しかったからやって見せたんです。良かった、通じたようですね。

「じゃあ、出発しましょうよ。もう来ないと思いますから」

「ああ、行こうか。いや、スゴいな。噂は聞いていたけど(どういう噂でしょうか?)、人を斬るのと狼を斬るのは全然違うからな。いや、すごい」

 隊長さん、動揺しないで行きましょうよ。付け加えますと、オレは人を斬るよりは、狼を斬る方が気持ち的に安らかなんです。


 その後は何事もなく、日が沈む前にオーガに着く。ギレイ様に会うのは明日ということで指定された宿に入る。前と違って、供とは違う部屋ということで1人部屋があてがわれていた。

 部屋のドアがコン、コン、コンとノックされる。

「マモル様、衛兵隊から連絡が参っております。凶賊のことで、衛兵隊庁舎にいらして欲しいということですが、いかが致しましょうか?」

「あ、そうですか?私に来いということですか?」

「はい、できればマモル様に来て欲しいと言うことです。あの凶賊には、やはり懸賞金がかけられていたようで、懸賞金の支払いはマモル様の方が良いであろうと、申しておられます」

「分かりました。行きましょう」


 オレは馬車を持ってないし、無一文なので馬車を呼ぶ金もないので、ネストルを連れて徒歩で衛兵隊庁舎に行くと、特に調べられることもなく通された。って異世界ノベルではこういう所に行くとたいてい、色々と調べられるでしょ?あれが普通だと思っていたけど、違うのね。もしかしたら、お貴族様だから?インテリジェンスカードとか調べないんですね、何か唱えたら、腕から出てくるとか、ウィンドウが開いて、スキルとか賞罰とか見れないしないようだ。この世界にはファンタジー要素ないんだ、残念。


 残念な思いは巡るけれど、庁舎に入って奥に通される。立派なドアを開け、これまた立派な応接に通されて、座った途端、横から紅茶が出された、ありがたい。喉が渇いていたんです。

 しばらく待ってると、偉そうな人がお付きの人を連れてやってきた。

「初めましてマモル様。私は衛兵隊隊長のユーリー・シクリルです。以後、よろしくお願い致します。

それではさっそく、今回捕まえて頂いた凶賊たちですが、懸賞金が付いているものがおりました。それに、懸賞金がなくても懸賞首と一緒に行為をしたものは1人銀貨1枚が出ますので、お持ち帰りください。これは、暗闇の黒狼の仲間だったということだからで、ただの泥棒や悪党では懸賞金は出でませんので、ご了解ください。

 それでは、凶賊のボスですが......」

 と延々と説明が続いたのですが、結局金貨5枚と銀貨10枚頂きました。未だ、お金の価値がよく分かりませんが、ネストルが目を見開いていたので、思った以上の金額であったということでしょう。奥さんが心配されるのも無理ないかも。大丈夫です、ネストルはいかがわしい場所には行きませんから。たとえ、オレが行ったとしてもネストルは留守番させますから。あ、と言っても、誰かに案内してもらわないとキレイなお姉さんのいる場所には行けないから、ネストルが行かないとオレもいけないんだ。


 このお金を持って領都に行くのかなぁ、ATMはないよね?と思っていたら、ネストルから、必要分だけ手元に残して、あとは懇意にしている商家に預けて行きましょう、と言われる。銀行というものはないのだが、貴族では懇意にしている商家というのが必ずあって、足りないとき融通してくれたりするらしい。

 懇意と言っても、オレに懇意の商家なんて、どこにもないよ?と言うと、私に心当たりがありますと言われて、ネストルに連れて行かれる。今回みたいに、余った金を預けるというのは珍しいが、オレのような有望株の貴族はきっと歓待してくれますから、と言い連れて行かれた。

 そこは、それはそれは大きい商館の4階建てで、玄関には守衛?門番?用心棒?ドアボーイ?が立っている。銀座の高級店の前に立っているドアボーイではありませんよね?不埒なヤツが突入するのを防止するためににいるんですよね、見るからに強面のおっさんだし、帯剣してるし。

 ドアの前で当然、止められました。だって、馬車じゃなく、歩いてきているんですよ、徒歩で。それなのに自信たっぷりでネストルが

「タチバナ村のマモル様と部下のネストルと申します。突然の訪問で大変申し訳ないのですが、支店長様にお会いしたのですが?」

 と言うと、門番はさささっと中に入っていった。

オマエらみたいな、紹介状の1枚も持たない得たいの知れないヤツなんて取り次ぎなんてできるわけないだろうが、とけんもほろろに追い返されるかと思ったよ。

 まさかオレの名前は知らないと思うけど、と思っているとネストルはオレの顔を見て

「大丈夫です。必ず、向こうは会いますから」

 と自信満々で言うので、小心者のオレは内心ドキドキしながら、じっと待つ。営業やってるときに、課長から飛び込み営業やってこいと言われたときの心境だわ。


 


読んでいただき、ありがとうございます。やっと、伏線が一つ拾えました。

ところで、優秀な営業マンというのは、本当に自分の商社でなく他の商社の納入している物資の問題でもいち早く教えてくれ、フォローまでやってくれるという、今使っている商社の担当がバカに見えるくらいの働きをしますよね。接待がどうのこうの、と言う前に、まず本来の仕事振りで差を見せつけてくれるのは、受け取り手として本当にありがたいです。

次回は3月2日の予定です。

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