信忠様に呼ばれる
凶賊たちを退治して、一息つき、その場でギレイ様の手紙を見ると、信忠様が呼んでいるから領都ギーブに来るように、ということだった。はっきり書かれていないけど、どうも魔法のことについて、誰か紹介してくれるのかな?オーガに行けば、同行してくれるそうだ。まぁ、胡椒のことも順調にいっていると思うし、そこら辺を聞きたいんだろうね。PowerPointでまとめてプレゼンできればいいんだけど、紙さえ貴重品のこの世の中では、口八丁の口先で誠心誠意説明するしかないでしょう。
行かないわけにはいかないので、さっそく、バゥ、ミコラ、ネストルを集めて、明日の輸送隊と一緒にオーガに行って領都に向かうことを話した。そうすると、誰が一緒に行くか、という話になる。
オレは1人で行こうと思ったんだけど、と言ったら、騎士爵にあるものが供を連れていないなんてあり得ない、ということを3人から言われる。付いて行くのは1人で十分であろうということで、バゥとミコラが、オレだオレだと言い争うが、考えてみると2人ともこの国の出身じゃないから、礼儀作法とか知ってるの?という疑問が湧いてきた。誰かオレに教えてくれないと、オレはどうすればいいか分からないでしょ?と言ったら、バゥとミコラはハッとした顔をして、黙ってしまい、2人ともネストルを見た。ネストルは、私が?と言ったけど、考えてみたら、他にいないよね。みんな、隣の国から来た人間ばかりで、この国のことを知っているのはネストルファミリーの3人だけなんだから。
私は犯罪人ですが(元いた世界の執行猶予中ってことでしょ)、よろしいのでしょうか?とネストルに聞かれるとオレも自信がない。だから、取りあえずオーガまで一緒に行って、ギレイ様に意見を聞き、ダメと言われたら、ネストルは帰らせてギレイ様に家臣を貸してもらうことにした。
バゥとミコラは何を期待してたのか、ひどくがっかりして、ネストルに、いいないいな、と言うけど、何も良いことないと思うな。考えてみなよ、オレたち無一文なんだよ。そんなに言うなら、何がいいのか言ってみなさい!
ネストルの奥さん(あ、サラさんと言います)が呼ばれて、ネストルを明日から領都に連れて行くと告げると、分かりました、と言ったけどネストルに小声で「いかがわしい場所に行かないでくださいよ」と念押ししていました。
大丈夫です、オレたち金を持っていませんから、と言ったら、サラさんは「だって、凶賊の懸賞金が入るかもしれませんよ」と諭された。ふ~む、読みが深いですね、奥さま。いかがわしい場所に行くのも男の甲斐性でしょうし、オレのこの世界を知る貴重な経験になるんです、なんて言いませんけど。
ノンは何も言いませんよ、と言ったら、みんなから「当たり前です!!」と言われる。サラさんに言わせると、
「そもそも、マモル様は貴族としての自覚がなさすぎます!私どもが蟄居していた時も、マモル様の噂が聞こえてまいりました。直前まで平民だったにも関わらず、ヒューイ様に同行され、ゴダイ帝国の大佐を生け捕りにし、100人余りを降参させ(話が大きくなっていますね)、10人以上斬られたという、大殊勲を上げられ、本来ならば男爵になられても不思議でないけれど、他との釣り合いを考え、騎士爵に据え置かれたということが、伝わってきました。私どもは蟄居中で外の情報がほとんど入ってきていない状態にも関わらず、です!!
そんな武勇を持つ方の元に行くということで私どもは、どんな怖い方であろうかと心配したのですが、タチバナ村に来てみればいたって気さくな方で安心しました。それに武一辺倒かと思えば、胡椒やクローブを育て、木を増やされておられます。それに、弩というものを発明され(あぁ、あれはオレが発明したように見えるのか)、今日は弩のお陰でこの村が救われました。私のような、武の素人でも敵を倒すことができ、誠に感謝しております。
マモル様の近くに住まわせていただき、マモル様はすぐに男爵になられ、子爵に上がられても不思議ではないように思います(買いかぶりが過ぎますよ、えへへ)。そのようなマモル様ならば、必ず、必ずです、オダ様やギレイ様から、誰か貴族の年頃の娘様をマモル様の奥さまにと婚姻の話が参ります。えーと、確かオダ様はお子様がいらっしゃらないので、お家来の方の娘を養女にして、マモル様の奥さまに推してこられます、きっと。
あぁ、私どもに娘がいれば、マモル様のお側においていただいたのに、残念でなりません(それなら、あなたが来たらどうでしょう?いえ妄想ですから、すみません)。
私は(え、私どもでなく私ですか?)ここに来るまで、ネストルの名誉回復のために頑張ろうと考えていましたが、マモル様にお会いして、されていることを見てマモル様のために頑張れば、みんなが上がっていけると思いました。
まことに失礼なことを申し上げましたが、マモル様は私どもの期待を全部背負っているということを、よくよく自覚してくださいませ(そうです!とその他3名の男たちから同意の声)。まだ、お若いので大変かと思いますが、よろしくお願いいたします」
と、一気に言ってペコリと一礼した。そこらにいた男どもは、みんな唖然。全員がネストルの奥さんの尻に敷かれた感を持った一瞬かも知れない。
サラさん、よく他の貴族のことも知っておられますね?と聞いたら、仕える者としては当然です、と言われました。
案外、ダンナより奥さんの方が拾いものだったような気がします。




