凶賊来襲
次の輸送隊は、大勢のお客さんを連れて来た。招かざる客だけど。
日課にしている植木たちに魔法をかけ、村の外周を見回っていると、遠くの方から土煙を上げながら、ガラガラという音を上げながら、輸送隊が走ってきている。普通は、ゆっくりとやってきて、土煙を上げることなんてないので、あきらかに何か異常が起きている。
「あれは何かに追われているぞ。助けにいかないと、行くぞ」
とオレよりリーダーらしいバゥが叫んで、村の中に手配した。非常事態発生を知らせる鐘(と言う割れ鍋)を乱打させ、武器を持たせる。武器と言っても、みんなに弩を持たせる。助けに行くって言っても、オレとバウとミコラの3人だけなので、間に合うかどうか、戦力として足りるかどうか?
とにかく、3人で走る。断然オレが早く、輸送隊に近づいた。
輸送隊から大声が飛ぶ!
「うしろ、後から凶賊が、追って来ている。はやく、早く、村に、入れてくれ!」
凶賊が付いて来たようだ。輸送隊の後から来る、凶賊は100m弱離れている。多いな、20~30人か?あれだけいたら、輸送隊の護衛は5人ほどしかいないんだろうし、戦うなんてあり得ないだろう。普通は荷物捨てて、逃げる一手だろう。だけど、今回は村に近かったら、村まで逃げようとするよな。あとの問題は村に逃げ込んで、村が凶賊を跳ね返せるかどうか?ということだけど。
「よし、とにかく走れ!」
村の門は開いている。凶賊が追いつく前に、中に入れそうだ。
バゥが怒鳴る!!
「おい!弩を使え、オレたちが中に入らなくても、輸送隊が入ったら射るんだ。門は開けておけぇ!オレが守る、絶対に中に入れないから、安心しろ。とにかく近づけるな!」
オレより信用されているバゥ......。
輸送隊と凶賊の距離がどんどん近づいてくる。あっという間に50mとなり、30mとなる。あと門まで10mもない所に輸送隊が来たとき、シュっと矢が射られた。頭の上を越え飛んで行く。それをきっかけに、頭の上をもの凄い数の矢が通り過ぎていく。振り返ると、凶賊たちにどんどん矢が刺さる。1人に1本矢が刺さっても、さすが凶賊と言うか、前進してくるけれど、2本、3本と刺さるとさすがに、見た目もすごいがダメージもあるようで倒れる。
面白いように凶賊に矢が刺さり、ハリネズミのようになった凶賊がバタバタと倒れていく。凶賊の数が半分以下になると、さすがに最初の勢いに乗った凶暴な顔はなくなって、恐れが顔に出ている。もう、前進しようという気はなくなり止まるのだが、それでも矢は射られ続けられているから、次から次へと凶賊に当たり倒れる。
しまいには残った凶賊たちが背を向けて逃げ出す。残ったのは2人しかいないし、さすがに射程距離を外れたから見逃してやるか、と思ったら、バゥとミコラが自分の弓で矢を射る。見事に2人の凶賊の背中に矢が当たり、結局、1人残らず倒して、凶賊たちは死屍累々といった有様だ。スゴいとか言いようがない威力だ。オレが何もしなくて終わるって、何これ?
時間としては1分もかかっていないと思うけれど、すごく長かったような気もする。頭の上を矢が次から次へと、流れるように絶え間なく飛んで行った。矢が止まったのは凶賊が逃げたからでなく、たぶん矢が尽きたんだろうな。
塀の上では、女たちがやんややんやの歓声を挙げてる。すっごい喜んでいて、中には泣いている人もいる。お、柵の上のネストルの奥さんが弩を振り上げて、こっちに喜び伝えているよ!いつもは沈着冷静な淑女の鑑みたいな人が、何か大声を上げているよ。
ばんざーーい、ばんざーーい、って始まった。へぇーーーーそんなに嬉しいの?中に入った輸送隊のみなさんはポカンとしているんだけど、命からがらだったから、まだ肩で息している。
門の中に入って行くと、女の人たちはみんな、すっごい興奮した顔でオレに次々と感謝を言ってくる。もう死ぬかと思った、犯されて殺されると思った、さらわれて売られて行くと思った、でもがんばってやっつけることができた、自分で守ることができた、こんなにやれるとは思わなかった、弩があって良かった、弩を練習して良かった、子どもを守れて良かったって、みんな涙を流しながら言った。
離れたとこにノンとミンが見えたけど、とてもオレの近くに寄って来れるような状況じゃなくって、興奮したオバチャンたちに囲まれてワンワン言われるのって、オレは初体験なので本当に怖いと思うわ。
背中をバンバンされて振り向くと、真っ赤な顔をして涙を流しているネストルの奥さんのサラさんがいた。いつもは冷静で物静かなあの人が饒舌に大声でオレに語る!語る、というより叫ぶ、と言う方が近いような?
「私は夫と一緒にこの村に来て、ここは獣も近くにいて危険なこととは知っていました。盗賊、凶賊、山賊がいることも頭では理解していました。でも、今日初めて凶賊を見て、身体が震えました。この村も凶賊に襲われ、私たちは蹂躙されて、犯され殺されてしまうのかと思い、覚悟もしました。
けれど、村の女の人が弩を持って柵に向かうのを見て、私も一緒に弩を持って走りました。柵に上り、凶賊がこっちに向かってくるのを見て本当に怖かったです。でも、イリーナさんが、待て!と号令を掛けてくれて、矢を弩に掛けて待ちました。ジリジリと心が痛む中、目の前に凶賊が来たとき、イリーナさんが「撃て!」と叫ばれ、その後は無我夢中で矢を射ました。私の矢がどれだけ当たったか分かりません。でも、凶賊を倒すことができました、みんなで凶賊をやっつけることができました。これで、これでまた、今までの生活を続けることができます、ありがとうございました」
この人、こんなに喋る人だったんだ、オレの手を両手で握って、ブンブンと音がするくらい振って。
とにかく良かったね。
後で知ったのだけど、この国でも山賊や凶賊が襲ってくると、撃退したとしても相当な数の犠牲が出ることが多くて、最悪の場合、村人皆殺しにされる、とか普通にあるそうだ。村には基本的に戦闘員がいなくて武器もありあわせの剣や槍、ひどい時は鍬とか使うときもあるのに、賊は戦いの専門家だし、十分準備して襲ってくるから撃退できる方が珍しく、今回みたいに攻めた方の凶賊が全滅するなんてことはあり得ないらしい。奇跡が起きたと言っていいくらいなんだそうだ。オレは前の村の経験でも山賊を全滅して、こっちの被害はほとんどなかったという経験していたから、これが当たり前だと思うけど、オレの常識が違ってた。
とにかく被害なかったし、村のみんなが逃げないで戦えたから良かったよ。バゥがかみさんのユリさんからバンバン叩かれて褒められていたけど、嬉しそうで痛そうだったな。イヤ、いつまでたっても叩かれているバゥが1番の被害者かも?




