ありがたく魔法教本を頂く、そして
こんなに地味で、進行が遅々として進まず申し訳ありません。と言っても、魔王がおらず、ろくに魔法もなく、中世世界と似たような設定なので、こういうものだろうと思うのですが、いかがでしょうか?
ヨーロッパでイギリスとフランスの百年戦争やドイツの三十年戦争と言っても、一年中戦っているわけでなく、農業など生産活動しながら戦争をしているのであって、そうでないとみんな飢えてしまいます。だれか食料を作ってくれないといけないし、運ぶものがいないといけないし、戦争をバックアップしてくれる者がいないと続かないわけですし。
今は、新しく生活圏を広げているという段階ですので、しばらくお読みください。
ギレイ様から送られた物は、薄い薄い本とは言えないような、紙っぺらな紙の折りたたんだものだった。
「マモル様がお一人のときに開けるように、と伝えてくれと言付かっております」
「そうですか、分かりました。ありがとうございます。それでは今日はこれくらいですので、バゥにこれからのことを教えてもらってください」
「はい、ありがとうございます。先ほども申し上げましたが、家族共々精一杯頑張りますので、よろしくお願いいたします」
と頭を下げて出て行った。
さっそく1人になったので、紙を広げて中を見た。ありがたいことに自動翻訳機能は与えてもらっていたけど、読み書きはまだ修得していなかった。もしかして、と思い『Read』と唱えると読める読める。もしかして書く方も『Write』でいけるような気がする。でも署名を求められたら、日本語で書けばいいだろう。読めるのはオレだけなんだから、十分だ。
紙には魔法の呪文と、その効果がきったない字で5つ書いてあった。ギレイ様の部下の魔法を使える者が、書いてくれたのか。ありがたや。この世界で魔法の呪文の値段が分からないけど、きっと大変なことなんだろう。秘密のノウハウなんだろうし。
でも、ほとんど何が書いてあるのか良く分からない。特に英文の呪文が、たぶんこれだろう?というような感じで。こっちの人にしてみれば、アルファベットなんて意味のあるものに見えず、何かの記号にしか見えないのだろうから、これは仕方ないのだろう。オレにアラビア文字を写しなさい、と言っているのと同じなんだろうな、と同情します。
最初の呪文は『Cure』でした......。そうね、やっぱりこれが1番使うんだから、そうだよね。ありがたく頂戴します。婆さまも、これを唱えていたのだから汎用呪文なのかも知れないな。
2個目は『Grow』、なになに、育てる、とな。あーー確か、growing upって聞いたことがある、意味は忘れた。もしかしたら、これを、作物や木にかければ育ちが早くなるのかな?オレは、胡椒の挿し木に「育て、育て」とオレが毎日呪文を唱えていて、気のせいか少し効果が上がっていると思ったけど、これを唱えればサツキとメイのように育てられるのだろうか?
3個目は『Clean』。う~~~ん、これはどうした。当たりがでないくじを引いているような気がする。引けども引けども4等か5等しか出ないというか?やっぱり、最初に魔法を唱えた人、作った人は、この世界の不潔さや臭さに閉口して、作ったのだろうか?
4個目は『Light』。そうですか......。
最後の5個目は『Rain』だった。なんちゅうか、役に立たない呪文だった。これくらいが、この世界の常識なんだろうか?あまり、大がかりの戦略的攻撃魔法なんてのは、この世界にないのか?ま、オレは生活魔法の延長線上のものしか使えないから、あまり関係ないけど、戦争になったとき、敵にそういうのがいると、みんな一度に死んじゃうなぁ、そんなのないことを願うばかりだ。
あと、注意書きがあった。えっと、人に寄って違いますが、大体1人で10から15くらいまでしか魔法の呪文は使えないので、覚える呪文はよく考えるように、ですって。なるほど~~~!オレは『Clean』『Water』『Cure』『Light』『Dry』と5個使っているから、もしかしたらあと5個かも知れない。
もう一つ、書いてあって、魔法の呪文というものは非常に貴重なものだから、滅多に人に教えるものでなく、これは頼まれて仕方なく書いたものだ。自分はもっと高位の呪文を知っているが、教えて欲しければそれ相応のお礼を持参し、本人が教えを請いに来いとあった。う~ん、でもこの5つを見ていて、これより高位というのが、あまり期待できないような気がするんだけどなぁ?今は先ず、持っていくお礼さえもないから、当分保留でしょう。
それでも、ありがたいと思えるような内容だった、かな?最後の注意書きは、無駄に呪文を覚えるな、ということだから、これだけを聞いたのは有意義だと思う。これ以上は安易に覚えないようにして、ノンとミンに覚えてもらおう。
夜、3人になってから呪文の話をした。2人とも『Clean』と『Cure』は知っているから明日は『Grow』を試してみると言っている。オレの異世界ノベルの知識によると幼いときから魔法を使うと、魔法の総量が大きくなるとあったからね、と伝えると尊敬の眼差しで見てもらえた。この世界で、尊敬を勝ち取るというのは中々ないように思える。オレが獣を倒しても、最近は、みんな当たり前と言った顔で流すようになったし。いや、ネストル一家だけは驚いて賞賛してくれそうな気がする。やっぱり、褒められて伸びる子なんですから、オレは。
この夜から、ノンとミンに「マモル様」と言われるようになった。なんでも、バゥ始め、村のみんながオレに対して、様付けで呼んでいるのに、ノンとミンがフランクに敬称略で呼ぶのは良くないためだそうで、お貴族様としてあがめないといけない、と言われたらしい。いつか、お貴族様から嫁が来たとき、ノンが呼び捨てでオレを呼んだとき、お嫁様が激怒されるのが見える、とバゥが言ったらしいし。いやぁ、偉くなったもんです、さえないサラリーマンがお貴族様ですから。期限限定ですけどね。
めくるめく夜が今夜も明けて、3人で植樹した胡椒の木の畑にきた。オレはバゥに言われてから、3日に1度くらいの割合でここに来て「伸びろ伸びろ」とお願いしている。効果のほどはまったくの不明だが、あったと信じたい。バゥには小便をかけるな、と言ってあるので成長に対し、余計な因子は入っていないはず!はずだ......。
それで、ノンとミンにさっそく『Grow』を試してもらうことにした。『Google』じゃないよ、と言っても分かってもらえず、力一杯滑って、空気が悪くなったけど。
まず1本目にノンが『Grow』と唱える。指先から何か光る粉みたいな物が木に流れていったような気がする。ノンが「どう?」という顔をしてオレを見るから、親指を挙げグーを出すと「何それ?」と言われる。Vサインしても、ますます不信感を煽るし、どうすりゃいいんだ?
「どうなの?教えてよ」
「うん、何か指から木に流れたように見えたぞ。ミン、見えたか?」
「うん、アタシも見えた」
「そうなの、アタシも指先から木に何か行ったような気がしたんだ」
「そうなのか。じゃあ、次はミンな」
「はい、やってみる」
とミンがやると同じように光る粉の流れが見えた。ミンはニカっとこっちを見て笑った。オレもやってみたい、みたいけどガマンする。
「ほら、他のもやってみろよ」
確か、魔力が枯渇するくらいまで魔力を出して、それで倒れて、一晩眠ったら翌朝はちょびっと魔力が増えて、繰り返していくと雪だるま式に魔力総量が増えるということが書かれていったと思うけど。
でも、どの異世界ノベルみんながそうだったわけでもなかったし(と思う)、試しに一度やってみようか?2人一緒に倒れたら、どうやって家まで運ぼうか?やっぱりノンはオレが運んで、ミンはそこらへんにいるオバチャンにお願いしようか?決して、男の手で運ばせるわけにはいかないだろう?最初に、お姫様だっこするのは義父のオレの権利だろう?
「終わったよ、いや、終わりました、マ・モ・ルさま♪」
と言われて、妄想から覚めた。ああ、そう。植えてある木全部に魔力を注いでも、魔力枯渇しなかったのね。なんか違うかな?どうだろう?おお、良いところにバゥが来た。
「バゥ、実は植物が育つ魔法を教えてもらったので、試してみたが、何か違いがあるか分かるか?」
「う~~~ん、分からないなぁ。それより、最近、雨が降ってないから、そっちのせいじゃないかねぇ?」
「あれ、そうなの?なら、水をかけてみようか?『Water』」
とオレの指先から、ジョロジョロと水か木にかかる。
「お!これは、急にみずみずしくなった気がすっぞ!」
「そうだね、なんか不公平だよ。アタシたちの魔法より、マモルの水が効くなんてさ。でも、その水って飲めるの?」
「あぁ、前に飲んだことあるから、大丈夫だけど、飲んでみるか?」
「「うん」」
と、ノンとミンはオレの水を手に受けて飲んだ。バゥは前にヒューイさんと山に登ったときに、飲んだ経験あるからね、お預けということで。
「「美味しい!!」」
「そうか?なら、良かったな」
「これなら、木が喜ぶの、分かったような気がする。アタシもやってみる」
ノンが『Water』を試してみる。まねて、ミンも始める。ノンが始めたけど、水が出たのはミンの方で、ミンは喜んで木に水をかけまくっていた。そのうち、魔力が枯渇してしまい、ミンが倒れてしまって、オレが背負って家に運んだ。ミンを寝かせて、木の所に戻るとノンの『Water』が成功していた。ただ、『Water』は結構魔力を使うらしく、全部の木にかける頃にはヘラヘラになってた。たぶん、他の人から見ると、木に水をかけて遊んでいるようにしか見えないと思うので、あとでバゥに説明しておいてもらおう。
胡椒の木の植木やら森に自生している木に、ノンとミンが魔力を注いでいるせいなのか、元々この世界はそういうものなのか、それとも地力のせいなのか、オレには良く分からないが、オレの知らないスピードで成長している。実をもいですぐ、次の芽が出てくるのだから。ま、みるみるムクムクと言うわけじゃないけど、1週間くらい経つとびっくりするくらい伸びてた、という感じで。例えるなら、猫草が伸びるような感じかな?あれは種を植えて1週間もすれば、10cmくらいの草になるんだから、反則だと思ったけどね。ここの土の色ってかなり黒い色で黒土って、これを言うんじゃないかと思う。確か、黒海周辺にそういうのがあったと思うけど、見たことないので確証がないけど。
やがて、ここでも麦を作る予定だけど、麦→とうもろこし→大豆→米!と言う「サイクルで回したいんだけど、米は夢かなぁ。蕎麦も入ればいいけど、醤油がないしなぁ、どこかに醤油麹が生息してないだろうか?でも見分けることができないわ、オレ。鑑定スキルがあれば、ものを見た上にウインドウが開いて名前と解説が出るんだろうし、誰か持ってないかなぁ。




