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ネストルが村に送られて来た

 ギレイさんが帰って数日して、一組の夫婦と小さい男の子がやってきた。名前はネストルだという。オレがギレイさんにお願いしていた、この村の行政官候補だそうだ。


 彼らを村の集会場に入れ、バゥと一緒に話を聞いた。


 彼は、ポツポツと語り始めた。

 元々、ネストルはハルキフの町の行政官をやっていたという。

 ハルキフはオレがこの国に来て、いきなり戦いにかり出された町だ。その町の領主の下で、つつがなく仕事をしていたという。役所の使い走りから始まり、だんだんと仕事を覚え、法律を覚え、計算を覚えして、20年ほどたち、町の行政官の上から3番目までに上がったという。ということは、行政官として結構優秀な人なのかも知れない。


 20年ほどのうちに、幼なじみの女性サラさんというと一緒になり、子どももでき、裕福とは言えないまでも、そこそこ暖かく、楽しい家庭であったそうだ。


 しかし、そんな生活がある日突然、壊れた。

 例のハルキフの戦いのときに、時の領主、現領主のヒューイさんの前の領主がゴダイ帝国からの勧誘に乗り、山の中に帝国の先遣隊の砦を作ることを許可していたそうだ。ゴダイ帝国のもくろみ通り上手く行けば、その砦が城になり、拠点となってゴダイ帝国がヤロスラフ王国侵攻の足がかりになっていたはずだった。しかし、その砦が信忠様の知ることとなり、討伐隊が出て、ゴダイ帝国軍を討ち、砦を破却した。


 そして、領主とゴダイ帝国とのやりとりの文書が見つかり、領主は罪を問われ死罪となった。そして、行政官も連座した罪でネストルは準騎士爵から平民に落とされ、牢に入っていたという。その間、家族は蟄居することになり奥さんの実家に預けられていたそうだ。

 そこへギレイさんから、オレのタチバナ村に行って、行政官として働き成果を上げるなら、猶予期間を見て名誉回復させようと言うことで、タチバナ村にやってきたそうだ。家族を置いてくることも考えたが、家族も蟄居して犯罪人として見られるよりは新天地で生活することを選んだという。


 ネストルは言う。

「私のような、領主の犯罪に連座したものをお使いになるのは、気分の良くないことでしょうが、この村で誠心誠意マモル様にお仕えし、家族共々一生懸命働きますので、どうかこの村で働くことをお許しください」

 と、ネストル、奥さん、男の子の3人で頭を下げて、お願いされた。バゥを見ると笑って頷いている。

「分かりました。知っていると思いますが、私は『降り人』で、この村のものはルーシ王国から来たものばかりです。まだ、村は始まったばかりですから、あなただけでなく奥さんも、村人に混じって働かないといけないでしょう。それで良ければ、この村で生活してください」

 と言うと、さすがにホッとしたようで、ネストルと奥さんは涙をにじませて、うなずいていた。


 もう少し、ネストルのことを聞いてみると、年は38でバゥより上だった。ハルキフの町で行政官をしていたときは、上司の言われるままに仕事をしていて、領主が何をやっているのか、雲の上のような人だったし、何も知らされなかったという。まぁ、冤罪と言えば冤罪なんだけど、バゥに言わせれば死罪になることもある(国家反逆罪の片棒を担いだようなものだから)くらいなので、今回のように爵位剥奪され、家族もろとも、どこかの行政官として配置されるのは大甘の処置のようだ。

 バゥがそう言うと、ネストルも「私も死罪になると思っていました」と言ってるし、奥さんも青い顔をしているから、この世界ではそういうものなんだろうな。


 でも領主がゴダイ帝国の侵攻の手助けをしようと、よく考えたものだ、とオレが言うと、ネストルが「後から考えると、田舎町の領主で余り金回りのよくないはずなのに、いつの間にか金使いが荒くなり、羽振りも良くなって、部下たちは不思議に思っていた」そうだ。少しずつ、ゴダイ帝国から金が流れ、気が付いたときはにっちもさっちもいかないように絡め取られていたらしい。


 そういうのは、オレのいた会社でもあったなぁ、社長のバカ息子が部長をやってて、仕入れ先から接待漬けにあって、紹介された女に入れ込んで、気がついたら、そこの仕入れ先の傀儡になっていたってこと。みんなが部長のひいきに眉をひそめていたら、ある日突然、女が会社に来て修羅場が発現したっけ。同僚みんなで息を殺して見入ったんだよね、あれは。人の修羅場ほど面白いものはないと思ったけど。


 オレの経験はともかく、この人たちは大変な人生を送っているな。とりあえず、バゥの下の行政官として働いてもらうことにした。奥さんも専業主婦じゃダメだよ、と言ったら、行政官のNo.3と言っても、給料は微々たるもので(ダンナの前でそれを言う)内職をしていたと言う。この人もポリシェン様の義妹のタチアナさんと同じく、領主の娘の家庭教師をやっていたそうなので、村の子どもたちの先生をやってもらうことにした。この村の子どもたちは、一切教育を受けていなかったから、まったくの無地な状態でスタートするので大変だとは思うけど、やってもらうしかないね。


 行政をお願いすると言っても、何をお願いするのか、オレも分からず、とりあえず気が付いた所からやって、と丸投げなのだが、将来の展望だけは話をしておくと、バゥも目を丸くして「それは無理でしょう?」と言いやがる。良いでしょう、夢なんだから。みんなでお金を儲けて、もっといい暮らしをしようよ、バゥもネストルも爵位をもらえるようがんばりましょう、と言うと一応納得してくれた。けど、腹の中では否定しているだろうな。


 何が優先事項なんだろうと考えてみて、1つ思いついた。

「住民票を作ってください」

「住民票とは?」

「この村に住んでる、住民でどんな人がいるか、全員の記録です」

「初めて聞きました。それはなんのために行うのですか?」

「名前、出身地、年齢、仕事、特技くらいかな?それで、これから、この村に住みつこうとする人がいたら、追加していってください。ここにいる人は把握していますが、これから来る人の職業と特技を知っていれば、いざと言うとき役に立ちますから。あとネストルの気が付いたことがあれば記載してください。例えば、方言とか?この国って、方言とかありますよね?」

「あります。国の中でも南部東部北部で違いがありますし、ゴダイ帝国では似ていますが言葉が違いますから。ルーシ王国と我が国はあまり違いがありませんし、貴族語はほぼ同じです。でも私に分からないものも多いのですが?」

「いいんです、分かる範囲で。それに記録してもらうものは、言ったことをそのまま書けばいいので。あと、今は織田様から送られている物資におんぶに抱っこなんですが(おんぶに抱っこって何?と言う顔をするな!)、次の輸送隊から何が送られて来て、何を送ったか記録してください。いつか、こちらから送ったものや金額が送ってもらうものを上回れば、この村にも蓄えができてくるはずなので」

「はい、分かりました。それで記録するものはありますか?」

「あ、そうか。今まで必要としてなかったから、用意してないですね。すみませんが、この村に足りないものがまだまだあると思うので、それを村のみんなから聞いて、織田様に送って頂けるようお願いすることにします。とりあえず、それからお願いしますね」

「はい、分かりました。それと、これをギレイ様からマモル様にお渡しするよう、預かってきました」

 と言ってくれた物は......。

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