なんでも撃てば良いというものではなく
「モァ、止めろ!!」
モァの手首を押さえて発動を止めさせる。頭の上でチリチリと発光が続いている。
「なぜ!?」
顔を赤くしてモァが訊いてくる。アドレナリン出まくりなんだから、止められても困るだけだ。
「オマエ、ちゃんと範囲限定して撃てるのか?味方を巻き込まず、敵にだけ撃つことできるのか?もう接敵しているぞ!どこに撃つんだ?」
モァがコントロール良く、敵にだけ撃てるならイイ。でもそんな精密に撃つことなんてできないだろう、たぶん。
「失礼な!それは、敵の真ん中の方に、ズドーーン!と落とそうとするつもりで……」
「絶対味方には落とさないよな?大丈夫だよな?」
「うん……まあ……敵の後ろの方にドン!と落とすから。大丈夫だと思う、から」
尻つぼみで声に力がなくなるが、最後は敵の後ろ、最悪敵のいない所に落とすことになるかも知れない。それでも良いか。音と衝撃でダメージ受けるだろう。あれが次に自分に落ちて来たらどうしよう?って思うだろう。
モァは凛!とした顔になって、
「落ちよ!!」
と敵の後ろを指さすと、モァの頭の上の魔力が一気に天に吸い上げられ、上空でピカッ!!!!と目が眩むような輝きを発すると同時に、敵の後ろの空き地に落雷した。ズドーーーン!!!!という地面の揺れと同時に衝撃波が顔を打った。音と衝撃波にさすがの軍馬も棹立ちになる。我が軍は混乱し、将官たちは混乱を収めようと慌てふためく。マズいわ!と思ったが、敵軍の方がもっとマズかった。雷の落下点に近い兵士はみんな、前のめりに倒れている。剣や槍、盾などを持ってるから感電し放題だ。味方はこっちを見て、恐れているというのか、呆れているというのか、恨めしい顔で見ている。しかし、文句を言ったりしないのは、こっちが貴族、それも上位貴族であって、兵士のほとんどがせいぜい騎士爵か平民だからだろう。文句を言って首を刎ねられてはかなわないから。
とにかく味方の被害の十倍も二十倍も敵の被害の方が大きかったし、威嚇というのも甚大だった。ルーシ王国では魔女狩りが徹底されていて、今のような魔法を使うのを見るのは初めての者も多かっただろう。金属製の鎧兜を着て馬に跨っているお貴族様は雷撃から距離があっても、雷が吸い寄せられるように被雷している。そしてそのお貴族様の周りにいる従士たちも巻き添えを食ってしまっている。
敵軍の後ろの方から、
「怖れることはない!突き進めぇーーーー!」
と叫んでいる騎士がいるが、それは自分の身に災いが降りかからなかったから言える話だ。危険に身を晒さないヤツに限って勇ましいことが言える。こっちを向いている兵士たちの目線が泳いでいるのがはっきり分かる。
「押せ!突けぇーーー!!」
味方の最前列の指揮官がタイミングよく号令を掛けた。よく戦況を見ていると感心する。空気が変わった一瞬、モァに文句を言って来るわけでなく、敵に突撃を掛ける。その指揮官のいる部隊の列がグイっと前に出た。その圧力に負けたかのように、敵の列が下がる。さらに味方が前に出る。紡錘状に部隊が突き進む。その部隊だけを進ませると孤立してしまうので、その部隊の左右の部隊も引っ張られるように前に出る。敵軍は味方の飛び出した軍を押し包み潰そうと厚みを掛けて来る。それを包もうとする見方の軍。混戦となると、オレたちにできることはない。特に優勢に軍を進めているとなると、見ているしかない。敗勢の時、味方が引こうとしているなら敵に向かって、モァやユィ、スーが活躍できることは増える。しかし今は攻勢になっているため傍観するしかない。
「白兵戦ならば、私の出番でしょう!目にもの見せてやりましょう!」
スティヴィーが馬の上に立ち上がり、剣を抜く。白い刃が光を弾き、きらめかせる。
「はっ!!」
と鞍を蹴り、前方に飛び出した!が、その瞬間に消えた……。




