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 ゴダイ帝国から明朝、夜明けとともにルーシ王国と戦うと案内があったとギレイ様から伝令があった。オレは200余りの配下?を与えられ参戦することになった。オレに部隊を預けてもお飾りにすぎないということは分かっていても、爵位持ちの貴族が一兵卒扱いというわけにもいかないだろう、ということになったようだ。


 決戦の地は決められていて、平原を挟んで小高い丘が向かい合っている地の片方の丘にゴダイ帝国の司令部が置かれ、その前面に横並びに陣が置かれる。我が軍はゴダイ帝国の援軍の扱いなので、左端の一翼を担っている。もちろん反対の丘にはルーシ王国軍の陣地が構えられている。明日に備えて、陣構えは整っており、それこそ今からでも戦おうと思えば戦えるんだろうが、そういうことは神に誓って行わないものらしい。敵さん、遠目であるけど、良く言えば落ち着いて見える、悪く言えば元気がないように見えるな。


 明日は決戦!と思うと心が湧きたつのはオレだけでなく、部隊だけでなく軍全体が異様な雰囲気に包まれている。命を懸け、もしかしたら殺されてしまうかも知れない、などと不吉なことは考えず、いかに敵を多く倒し、できれば将校や貴族の首を挙げ、褒賞・褒美がもらえる活躍をするであろう自分の姿を思い描いている。だから、部隊全体がソワソワ、イライラ、ギラギラしているようなもんだ。こういう時は、夜の商売をなさっている女性の方々が繁盛しそうなものだが、決戦前ということで遠ざけられている。そこはそれ、出張娼館の経営者の方も勝手知ったるなんとやら、で軍と距離を取っているらしい。


 早めに夕食を食って寝ろ、と命令が下りて来て、オレも部下?に指示するのだが、オレ自身昂っているんだから、若き女性・女の子を抱えた一角で一晩過ごすと言うのは、周りのジト目など、色々大変である。女の子のオーラというか雰囲気ってのが自然と伝播していって、若い兄ちゃん兵士たちには毒だと思うがな。


 まどろむくらいで、悶々としながら、ほとんど寝た感じがなくとも夜は明ける。まだ暗い、薄明りの中で一人が動き始めれば、周りもジッとしていられずに動き出し、それが軍全体に広がり、軍として起動する。火が起こされ、朝の準備が始まる。ちょっとの水さえもったいないので、ほとんどの兵士は顔を洗わずにいるが、我々は女所帯なので密かに水を出しテントの中で身だしなみを整えている。当然のことながら。


 太陽の上が地平線から顔を出した頃には、朝食が始まろうとしていた。朝食と言っても、干しパンに干し肉、夕べ作り置きしていたスープ、肉と野菜の欠片が入った塩味の薄い薄いスープを飲めば朝食は終わり、いざ決戦!の始まりである。我々は前に出て密集する。補給部隊が竈を埋め、テントを畳み後ろに送る。補給部隊が後始末をしてくれる。


 オレの部隊は大公軍の一番端なのだが、横並びになった敵軍の幅が味方よりも狭いので、もしかしたら最初は接敵しないかも知れないなぁ、と思う。ゴダイ帝国軍がどういう戦いをしようとするのか分からないが、攻めて来るルーシ王国軍を包み込み、包囲殲滅するというならオレたちにも出番がありそうだが。包囲する前にルーシ王国軍が中央突破してしまえば敵軍の勝ちということになるんだが。日本人の感覚としてはゴダイ帝国が鶴翼の陣でルーシ王国軍が魚鱗の陣、魚鱗の陣の機動力・突破力次第ってことなんだろうけど。


 ゴダイ帝国軍中軍より、きらめく鎧に身を包んだ騎士が現れて前に進む。ルーシ王国に向かって進め中間地点で止まる、すると、ルーシ王国からも、もっとキラキラの鎧を着た騎士が現れ、両軍の中間地点で待つゴダイ帝国の騎士の前に進む。


「あんな鎧を着てたら、馬が重がって仕方ないだろ。馬がかわいそうだぜ」

 兵の誰かが言ったが、ルーシ王国の騎士は何とも重そうな鎧を付けている。あれって見せかけだけで、機動性を要求される騎士には向いてないんじゃないだろうか?あんなんで馬に全力疾走させたら、すぐに馬が潰れそうだ。騎士だってもの凄く汗をかくんじゃないのか?


 中間地点で両騎士が落ち合い、何かを言ってる。まずは名乗りあっているんだろうけど、誰もがその光景を見たくて、陣立てを抜けて身体だけ前に出て観る。鶴翼の陣の翼の先端がさらに伸びているが、これってそうそう観れるもんじゃないから、みんな興味があるんだよなぁ。


「何言ってんだか、聞こえないぜ」

「もっとデカい声で言ってくれればイイのによ}

 などと周りの兵士たちが言うが、アレはセレモニーなので定番のセリフを言っているんだろうさ。でもなぁ、今この時に攻めかけられるとやられてしまうなぁ?と思ったりする。でも距離もあるし、敵が突撃している間にこっちは態勢を間に合わせられるけどね。


 そういうフラグを揚げたせいか、まだ騎士は何か言い合っているのに、オレの部隊の方に向かってマリー王国軍の一軍が進み出した。槍を突き出し横一列に並んで進んで来る。まだ距離があるのに槍を水平にしてたら疲れるよ?突撃直前まで楽にしてれば良いのに、と他人事なんですが心配になる。新兵が多いのかなぁ。


「敵が来るぞ!」

 と叫ぶまでもなく、兵たちは陣立ての中に入り、迎え撃つ準備をする。ギレイ様の兵たちは古参兵(というほど年とってもいないが経験を積んだ兵という意味)が多いから割と余裕ある兵が多い。中にはオレが最初にゴダイ王国と戦った時の兵もいる。

 さあて普通に人間が歩くと分速80mとか言わなかったっけ?でも武装していると半分の分速40mも出ていないんじゃないかな?200mも離れていれば接敵するまで5分以上もかかるわけで、奇襲とも言えないから迎え撃つ方も十分に間に合う。

 もしかして騎馬隊が出てくるのかなぁ?と思ったが、こんな端っこの些末な軍相手に虎の子の騎馬隊を使用する必要はないと思ったんだろう。正々堂々歩兵同士の戦いを挑んでいらしたようだ。中央突破を狙っているのかと思ったら、端っこの些末な軍と見えるオレたちを撃破し、その勢いで中央に進もうと狙っているように見える。ここまでくると全体のことを考える余裕もなく、目の前の敵とどう戦うか?ということを集中する。

 

 100mを切れば、敵の足音さえも聞こえるようになる。鎧やら武器やらガチャガチャと音が聞こえて来る。ここまで近づけば十分に矢が届く距離なわけで、威力さえあれば討って来るはずだが、そのまま前進してくる。前面に盾を並べ盾の間から槍の穂先が突き出されている。


 こういう大会戦というのはオレにとってほぼ初めて(サキライ帝国の時は予備兵力みたいな扱いから前面に押し出された)なので、敵から魔法攻撃が飛ばされてくるのかと思ったが、その前に矢が発せられた。それが合図だったかのようにこっちからも矢が撃ちだされる。敵の矢がえらく伸びて威力があるなぁ?と思っていたら、急に威力が弱くなり逆に味方の矢が風に乗って敵陣に襲い掛かる。これって魔法の風を使っているんだろう。また向こうの矢の威力が高まり、それに応じるようにこっちの矢がよく飛ぶようになる。

 こっちもあっちも矢を防ぐために頭の上に盾を構えているので、そうそう矢に当たる者はいない(がゼロではない)。こういうのを見ると矢の応酬というのもセレモニーの一つなんだろうか?って思ったりする。


「次はいよいよ突撃ですな」

 副官が教えてくれる。そうだよな、矢は高価だからむやみやたらに撃ってはいけないのだ。矢を射るのは開戦前のセレモニーの一つみたいなものだ。

 1本5千円としても1千本打てば5百万円を浪費(と言って良いのか?)したのと同じなのであるから。矢羽根なんて、工業化されて均一化された羽根が量産化されているならともかく、この世界では一羽の鳥の羽根で作り職人が調整して、それでも不良品が出たら廃棄する、などコストがかかるようにできている。でも矢が来たら、撃ち返さないとおれない、というのが人情というものであるし。とにかく攻撃しているという気持ちが戦うことの恐れを覆っているんだ。とにかく矢を撃つことで、崩壊しそうな心をなんとか保っているんだな、新兵たちは。


 敵軍の進軍速度が最初の一歩に比べ遅くなっている。我が軍が近くなって来るから慎重になっているのか、それとも恐れているのか。こういう場合、恐れを振り切るために速度を上げて突撃する方が良いと思うのだが、これはきっとここまで来るまでに体力を使ってしまって脚が上がらなくなっているのではないか?こっちは迎え撃つ体制だから一歩も動いておらず、体力は温存している。


『しんあいなるほのおのようせい、イフリートよ、そのちからをわたしにかしあたえたまえ。いま、そのちからをしめさん。さあ、炎の雨を敵に降らせよ!!』

 さっきまで後ろにいたモァがオレの横に馬を進めていた。オレと違って乗馬技術は優れており、鐙に脚を掛け立っている。朗々と呪文を唱えると、モァの頭上にキラキラとした粒子が集まり始める。魔法の粒子が見えるくらいってのはモァよ、敵を殲滅するつもりなのか?

 

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連日の猛暑の中 更新 有難うございます \(^o^)/ お疲れの出ませんように
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