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村にギレイ様がやって来られた

 輸送隊第3陣が来たとき、ギレイ様も一緒にやってきた。


 やっと村らしくなって、みんなは板壁と板屋根とは言え、家と言えるものの中に住んでいる。あの村のような小屋とは違う。地面が床というわけではなく板の床があるし、ベッドと呼べるもので寝ている。隣の家とは距離も取られているので、ノンの声が聞こえる心配もない、聞きに来る人がいなければだけど。もう、みんな聞くのも厭きたと思うけどね。


「マモル、久しぶりだな。元気でやっているか?」

「はい、ギレイ様、お久しぶりです。ご支援を頂き、元気にやっております。それで、今日は何か用がありましたでしょうか?」

「なんだその、改まった口調は。私もオマエも貴族の一員であろうが?」

「はい、そう言われましても、身に付いた習い性というものでして、しばらくはこのままで、ご寛容ください」

「まぁ、いいか。今日来たのは、要件が2つあったのだ。1つは胡椒のことだ。前に送ってくれた胡椒だが、この村の近くにあった森の中にあった木から採れた実から作ったと聞いたが、本当か?」

「はい、森に入りまして胡椒の木を見つけました。実がたくさん成っておりましたので、それから胡椒を作りました」

 良い話を聞かされて、驚きながら喜ぶギレイ様。

「ほう、そうか!となると、胡椒をこの国で生産できるのは、割と近い将来になりそうか?」

「ルーシ王国でもそうだったのですが、森の中に胡椒やチョウジの木が自生していました。あ、すみません、チョウジというのは私の住んでいた故郷の呼び名で、この世界ではクローブと呼ばれているようです」

 ギレイ様はこれまた驚いた顔をして、

「ほう、クローブもあったのか?ルーシ王国にも、この国にも木はあったが知らないだけだったということか」

「そういうことだと思います。胡椒やクローブの種は渡り鳥が運んできて、ここやルーシ王国に落として、その種から芽が出て、木になったのだと思います」

「そうか、確かに我々は胡椒やクローブの木がどんなもので、そこからどうやって香辛料を作るのか知らぬ。マモルの推論からすると、ここの他にも胡椒やクローブの木はあると思われるか?」

「そうですね。あると思います。そう言えば、前に戦に行った、ハルキフの先の山の中にもありました。あのときはヒューイ様に付いて行くのが精一杯で、木があることだけを見ただけでした」

「なんと、あんな所にもあるというのか?う~む、我々は宝のなる木を持っていながら、知らなかったということだな。

 それから聞いてみるが、胡椒では白胡椒と黒胡椒があるが、マモルは知っておるか?」

「はい、知っています。採れる実と加工方法で違ってきます」

「それも知っているのか?そうか、知らない我々というのは、なんと愚かなのだろうな。目の前に金の鉱石があっても、金を取り出す方法を知らないのと同じだ。分かった、この件はオダ様と相談して、どうするか決めることにする。私の考えではマモルに胡椒やクローブの木を捜してもらい、加工方法を伝授して貰った方が良いように思うのだがな」

「分かりましたが、そうなると、この村で胡椒を作る意味がないのでは?」

「そんなことはない。胡椒やクローブはどれだけあっても足りることはない。国内の消費だけでなく、周囲の国々でも喉から手がでるくらい欲しがっているからな。どんどん作ってくれ」

「分かりました。向こうの畑に挿し木して育てております。すでに根が生えておりますようなので、結構早く成木になるように思えます。もってきた種も植えましたが、すでに芽が出ていますので、コレも期待しています。やがて胡椒を出荷したいと思っています」

「そうか、それは楽しみだ。これだけでも私が来た甲斐があったというものだ。それとだ、魔力持ちの件だ。これについては、領都に一度行ってもらう必要がある。領都に魔力持ちがいてな、その者に会ってもらわないといけない。ただ呪文というものは隠しておくことが当たり前で、教えてもらえるかどうか分からぬ」

「そうですか、分かりました。この村の魔力持ちは3人います。私と妻と娘の3人です」

「そうだったな。これは領都から案内が来るので、待っていてくれ」

「はい分かりました。それで、よろしければ、私の方からお願いがあるのですが」

「何か?」

「タチバナ村は、徐々に村としての形になってきましたが、この後どのように運営していけば良いのか、私には経験がありません。村の住民の中にはルーシ王国で経験あるものもいるようですが、この国の法律も知らないので、そういうことに詳しい人が欲しいのです。やがて、村の住民が増えてくると、いろいろと問題も起きましょうし」

「ふむ、確かにそうだな。心当たりがないではないが......もし、その者が罪を犯した者でも良いか?いや、その者が罪を犯したわけではなく、主人が罪を犯したので連座でその者も罪をかぶっている者がいるのだ」

「あぁ、その人がまっとうな人であるなら構いません。この村の住民はルーシ王国でそういう目にあった人ばかりなので、むしろ受け入れ易いかも知れませんね。よろしくお願いいたします」

「分かった。それは私の一存では決められないので、オダ様の裁可を得てからだ。あと他にあるか?」

「あと、ルーシ王国のあの村のことですが、何か分かりましたか?」

「すまないが、分からない。ルーシ王国から商隊が来たが、特に何も話さなかったし、こちらから聞くこともなかった。こちらは、あの村に対して何もしていないし、知らないことになっている。だから、知らん顔するしかないのだ。あの宿場から伝書鳥を1度出したそうだが、そのまま帰ってきたと聞いている。と言うことは、受け取る者がいなかったということだ」

「そうですか、ありがとうございます。あそこでジンという者がいたのですが、その者は天気を見通すことができたのです。明日は雨が降るとか、いつ晴れるとか、小降りになるとか。あれは異能というか、やはり魔力を使っているように思えました」

「そうか、それは残念なことだな。もし、あの村から誰か来るようであれば、こちらに運ぶようにしておく」

「よろしくお願いいたします。それと織田様に話をしていたのですが、弓を誰でも強く引ける弩というものを作りたいのですが、図面を書けますが、作ることができません。誰か作れる人を寄越してもらえないでしょうか?」

「ほう、それは聞いていなかったな。私には分からないが、マモルの言うことならきっと価値のあることだろう。マモルをオーガに呼ぶか、こちらに職人を寄越すか考えておく。他にあるか?」

「はい、丸虫という虫のことですが......」

「あ、あれか。オダ様が蚕と言っておられた虫だな。我々は大好物なのだが、オダ様はなぜかあれが好まれないのだ。もしかして、マモルもあれが嫌いなのか?」

「はい、あれを食べるというのは、ちょっと考えただけで、ダメです」

「不思議な話だな。もしかしたら、『降り人』はあれが食べられないものなのか」

 いや、アレがダメなのはオレと信忠様の2人だけかも知れませんよ。

「それで、あの蚕がどうしたのだ?」

「いや、あの蚕から絹糸が取れるという話なのですが」

「おぉ、そうなのだ。オダ様もそのようなことを言っておられたのだが、オダ様は話として聞いておられるだけで、実際にどうして糸を取るのかまではご存じなかった。マモルが知っているなら、是非教えてくれ」

「分かりました。ただ、こうやってやるんだよ、というのは知っているんですが、実際はやったことないので、綿糸を作る技術を持った人がいれば教えたいのですが、いかがでしょうか?」

「よし、あの蚕はハルキフの町の特産なのだ。あそこに1度行ってもらい、教えてもらうと良いだろうよ。これもオダ様に聞いてみる。まだ他に儲かる話はないのか?」

「いえ、もうないです。思い出したらご連絡致します。それで、ギレイ様は今日はどうされるので?」

「うむ、輸送隊の第2陣が帰るのと一緒に帰る。マモルが狩りをする所を見たいのだが、忙しくてな。マモルの狩りはオーガの町でも評判だぞ。輸送隊のヤツらがここに来て、毎日食べきれないくらい肉を食ったと自慢してな、第3陣は志願するものが多くて困ったさ」

「はぁ、それは大変ですね。がんばって、獲物を捕ってきます」

「ははは、頼んだぞ」

 ということで、後は出発の時間までギレイ様を村の中、畑、森を案内して回った。森に入って歩いているとバゥが「もうそろそろ出てくるんじゃないですか?」などとフラグを挙げるものだから、また鹿が出てきてオレが倒すことになってしまった。

 例によって、バゥが呼び子を鳴らすと、わらわらと村の男+第二陣の輸送隊の男たちが満面の笑みで現れ、手慣れた動作であっという間に解体して村に運んだ。

 村の男はともかく、輸送隊の皆さんがこんなに手際よく解体できるようになったのは、どうしたもんでしょうね。

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