決戦するのか?
マモルは堀を掘る、ヘイヘイホーとばかりに。手伝ってもらえば早く済むとは思っていても、手伝いの人間に比べて、自分の方が2倍も3倍も早く掘るんだから、オレだって手伝いに来たヤツだってイヤになるって。だからオレは黙々と掘るんだな。スコップにオーラを纏わせて掘れば、豆腐のように地面が掘れる、と思い込んで掘る。実際にはそこまでチートではないものの、見物人からはそう見えていると思う。第三者から見てオレのハーレムの女連中から(実際に手が付いているのはミワさんだけだが)、やんややんやの声援を浴びながら掘り進める。それを悪意と嫉妬のこもった視線で見ている男たちは、きっとオレが堀った土に埋もれて死んでしまえ、と思っているだろう。そんなヤツのために堀を掘らなくちゃいけないのか?と思いながら掘り進める。こういう単純作業を続ける時って、ついつい余計なことを考えてしまうそ。
しばらく雨が降っていないのか、表土はサクサク掘れるものの、30㎝も掘れば粘土質になりスコップに土が付着する。スコップ表面にテフロン加工できれば土がくっつかなくなるのかなぁ?などと余計なことを考えながら100m、200mと掘り進める。20mも掘れば応援団も野次馬もいなくなり、黙々と掘り進めた。暗くなっても明日ゾウさん軍団の突撃を防ぐためには、明日の夜明け前に堀を完成させないといけない。
「マモル、ごくろうさん」
夜中にスティーヴィーがやって来た。あと50mから100mくらいも掘れば良いかなぁ?と思って、いい加減厭きていたので手を休めてスティーヴィーを見る。だいたい、どこまで掘れば良いか?なんて目印があるわけじゃない。どこまで掘るか、それはオレの判断次第だから。長さはもちろん、深さも幅も。最初に掘ってた頃は、幅も深さも必要以上にあったと思うけど、だんだん浅くなってきてしまってるし。
「スティーヴィー、どうしたんだ?寝てないのか?身体を休めておけばいいのに」
オレの言葉にスティーヴィーは首を振り、堀の淵にしゃがむ。スティーヴィーは身体にフィットした黒のパンツルックであるから、しゃがんだところで何か色っぽいモノが見えるわけじゃない。どうしてこの細い筋肉量の身体であの瞬発力が生まれるんだろう?と思う。そして剛力がどこから湧いてくるんだろうな?
「敵を見て来た」
少し散歩に行って来ましたってな感じで言う。
「一人で行ったら危ないだろう?言えばオレが付いて行ったのに。サキライ帝国軍の偵察の時、結構大変な目に遭ったじゃないか」
「うん、そうだけど、あの時はサキライ帝国軍よりも魔獣がすごかったから。今は近くに魔獣はいないし」
いつもの無表情、オレの言ったことがまったく頭に入っていないよな。
「そうか。それなら心配いらないか。でもスティーヴィーより強いヤツって必ずいるんだからな。能ある鷹は爪を隠しているんだから」
「分かってる。注意してた。それに私も爪を隠している」
うーーん、これは自慢しているんだろうか?ない胸を張っている?
「なら良いけど、敵軍はどうだった?」
「大変だった」
「え?何が大変?」
「病人がいっぱいで」
「病人って?」
「おんなじ病気。まだ少ないけど、これからどんどん増えそう。見てたら、病人運ぶのに大変だった」
それを聞いて地獄絵図が浮かぶ。黒死病の初期なんだろうが、これから爆発的に増えるのか?
「敵は有効な治療が施されているのか?」
「ううん、やってなさそう。病気になった人集めて隔離している。すごい臭いしてるし。具合悪いと言う人いたら、すぐに運んでいる」
大変さが目に見えるようだ。黒死病が流行していることを知ってて進軍して来ただろうに、有効な手を打ててないんだろう。準備していたのが効かなかったのか?
「そうか……それじゃあ戦う前に全滅するんじゃないか?」
「うん、そうかも知れない。偉い人は、離れていた」
「離れていた?軍から離れていたということか?」
「そう。病人がいる所と反対側に泊まってる」
スティーヴィーの話だけで、敵軍組織は早晩崩壊するんだろうと予想された。だとしたら、ルーシ王国軍はなおさら決戦を早めないといけないだろう。ただ万が一、ルーシ王国軍が勝ったとしても、その後軍を維持できるかと言えば難しいと思う。もし維持したとしても王都に凱旋するというのは無理ではないだろうか?
それと肝心なことを訊かないと。
「敵は明日にでも襲って来そうか?戦闘準備をしていたか?雰囲気あったか?」
「ないと思う」
これはきっぱりとした答え。
「病人出始めて、大騒ぎしてる。下の人、とてもそれどころじゃない」
「だろうな」
それでもいつかは戦うんだろうな。
「夜が明けたら司令部に行くから、その時一緒に来てくれ。今の話をお偉方の前で話してくれ」
そういうとスティーヴィーは立ち上がった。下から見上げているせいもあるが、こいつはホントに脚が長いな!身体の半分は脚だから、オレやミワさんと住む世界が違う、いや育った世界が違うんだと実感する。頭だって小さいし、ホントに脳みそ入っているんか?と思ったりする。あとはこれで胸があれば万全なんだがなぁ……と残念に思ったりして。
「そんな面倒なトコ、行きたくない」
予想通りの答えが返って来た。面倒というのもあるだろうが、オヤジ密度の高い所に行きたくないんだよな。
「なら書面にして報告してくれ。それがイヤなら、直接報告するしかないぞ」
うーーん、と考えるスティーヴィー。書面にまとめるなんてすぐにできると思うが、
「わかった。出る」
堀掘りはいい加減イヤになっていたが、あと50mくらいは最低やらないといけないので、そこは頑張ってやり遂げた、オレはエライよなぁ、誰も褒めてくれないけど、やり遂げた感はある。
仮眠して、少し早く朝食を取り司令部にスティーヴィーを連れて行く。テントに入るときスティーヴィーが鼻をつまんで入るから、やめさせると顔をしかめる。
「なんだマモル、どうした?」
ギレイ様がオレの顔を見て訊いてきた。オレだって一方の将なので、司令部に顔を出しても不思議ではないのだが、いつもは呼ばれないと行かないので、こうやって自発的に行くとこういう反応になる。
「スティーヴィーが夕べ、ルーシ王国軍を偵察してきた。ルーシ王国軍内部で黒死病が流行り出しているということだ」
黒死病というワードに、おっ!とか、げっ!とか声が漏れる。やっぱり黒死病は克服した病気という認識ではない。まだまだ制圧途上なんだろう。
「ルーシ王国軍は戦わずに撤退するんじゃないか?」
期待を込めた見解を披露すると、ギレイ様は首を振る。
「いや、それはないだろう。むしろ決戦を早めるだろう。戦える兵士が多いうちに戦いに持ち込むだろう」
ギレイ様の言に周りも頷く。
「奴等はここまで来て、何もせず帰還することはできないはずだ。メンツが立たない」
と言われる。
「じゃあ、治療してやるから降伏しろ、なんていうのはあり得ないのか?」
無理だろうとは思うが、一応は言ってみた。ギレイ様は笑って、
「どういう理由であろうと、降伏するのは辺境伯家の終焉を意味することだ。一族郎党ルーシ王国から消される。一戦して惨敗したとしても、貴族社会の片隅に辺境伯家、いやシュミハリ家が残れるだろう。男爵は無理か、せいぜい騎士爵だろうがな。ルーシ王国軍としては、そんな余計なことを言われる筋合いはないと言うだろうし、どうして軍の情報が漏れたのか?と疑心暗鬼になるだろう。とにかく降伏というのはありえない選択だ」
と言った。誰も何も言わないところを見ると、全員が同じ意見なんだろう。
「マモルの情報をゴダイ帝国軍に伝えておく。そうなればゴダイ帝国軍も決戦を早めるだろう。そしてルーシ王国軍を破り、病人の治療を始めるな。少しでも早く戦うことが、向こうの兵を助けることに繋がるはずだ。たぶん明日の朝に戦闘始めるよう帝国軍からルーシ王国軍に使者を送るだろう。そのように進言しよう」
ギレイ様が言い、席を立つ。
「ゴダイ帝国司令部に行って来る。準備しておけ」
と言ってギレイ様と側近はテントを出て行った。後は任せた。
再開リクエストあって書きました。たまに書いてみると楽しいですが、次回は未定です。




