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もっと快適な旅の生活を!

 ルーシ王国との戦場に向かう前に、色々試していたことがある。戦場での暮らしの快適性を向上させるというのはいつの時代でも課題となっているのだろうが、オレはともかく、引き連れている美少女たち、という括りをするとミワさんは入らないなぁ。スティーヴィーはイケメン枠になるかも知れない。


 などというどうでも良い話は置いといて、とにかくオレの周りにワチャワチャいる女性陣の寝床くらいはもっと良くしたいと考え、実行することにした。具体的には、ラノベ定番の一軒家を魔力袋、というよりは魔力空間にしまい込む、というやつ。家財道具一式をしまって、場所を見つけて取り出し、快適に一晩過ごすというのをやってみたい。オレは一応隊長だし、部下の手前、オレだけがテント泊でなく一戸建てに泊まるというのは、かなり後ろめたいので、女性陣だけを泊めたいと思う、前にもトライは何度かやっているが上手くいっていない。でもミワさんから、

「魔法はイメージですから、やろうと思えばできます!できるはずです!」

 という根拠のない精神論とスティーヴィーという膨大な魔力の持ち主が現れたので、何度目かのチャレンジをやってみようと思い立ったのだ!


 前提として、生命反応のない有機物、要するに死んだ生物と無機物は収容できる。あと収納しようと思うモノに触れることが前提だ。それは絶対条件でなく、離れていても見ていれば収納できるのだが、接触しているときに比べ、魔力が結構持っていかれる。例えばミワさんを立たせておき、服に手を触れると、服だけがサッと収納させる。ただ下着などは収納されない不思議現象である。これを一度やった時、ミワさんのご機嫌がものすごく悪くなり、リカバリーするのが本当に大変だった。こういう時、美味しいスイーツやブランド物がないこの世界では、ご機嫌取りの手段が本当にないのである。でも下着類は残り、ワンピースだけが収納されたのはナゼだろうか?オレの心の中で、ミワさんをいきなり全裸にするのは、いくら二人っきりでもマズいと思って、意識せず制限が掛かったのだろうか?それともワンピースと下着は一体モノではないから、収納できないという理屈なのであろうか?その時は前者だと思っていた。

 ただし、どのくらいか分からないが、収納容量の上限は存在する。どうでも良いような前置きはさておき、要は旅先に家を持って行きたいのだ!今まで何度もトライしたのだが、どうも上手くいかいのだ。

 ミワさんに話すと、

「それは良いアイデアです!前からずっと思ってました!テントの中で寝るっていうのはどうしても寛げなくて、疲れが取れないんです。頑張ってください!」

 と完全に人任せだった。


 目の前に廃墟となった家々がある。それに触り、魔力袋に収容しよう!と念じる。が、なんにも起きない、なくならない、収容されない。これはなぜだろう?足元の石ころを拾って、念じてみると問題なく魔力袋に収容される。それならもう少し大きいモノ、道においてある荷車を入れてみる、ほら!入るじゃないか!それなら、この一軒を入れるのは大きすぎるからか?スティーヴィーに相談してみると、

「そんなことは無理。人間、欲張りすぎるとダメになる」

 としごく真っ当なことを言う。でもなぁ、

「オレの前の世界では、一軒家がそのまま魔力袋に入るっていう話があったのだよ!」

 と訴えると、

「もっと詳しく聞かせて」

 スティーヴィーにしては珍しく興味を持ってくれたのだが、ラノベの中でそういうのは定番で、と説明すると、

「そんなおとぎ話を信じてはいけない。多くの兵が苦労している中で、マモルだけが楽をしてはいけない」

 さらに真っ当なことを言いだした。スティーヴィーは根がまじめだからノリが悪い。ただ、

「やってみても良い。どういうモノが入るのか興味はあった」

 と協力してくれることになった。


 近くの家にテクテクと歩いて行き、玄関の壁に手を掛け、目を瞑るスティーヴィー。しばしの沈黙の後、フッと家が消えた。が、基礎の部分が残り、それより上が無くなった。

「家が入った」

 簡単なコメントをしてドヤ顔をするスティーヴィー。

「でもスティーヴィー、土台が残っているぞ?」

 オマエはそれで家を収納したと思うんかい?という疑問をぶつけたら、

「土台は無理。地面と一体になっている」

 当たり前のことをどうして訊くんだ?という顔をする。

「でも土台がないと家を移すことはできないだろう?」

「だから無理。地面と離れている部分だけ収納できる」

「地面と一体化している部分は収納できないと言うのか?」

「そう、どうしてそれが分からない。だから私は木造の家を選んで収納した」

 なるほど、オレは石造りの家で試していたからできなかったのか。

「だから根をしっかり張っている木は無理」

「しっかりってどのくらい?」

「分からない。マモルは時々理屈っぽいことを言う。無理なモノは無理」

 窘められるオレ。

「じゃあ、上物が木造だったなんでもいけるんだろうか?」

「できるモノとできないモノがあると思う。試してみないと分からない」

 今日のスティーヴィーは常識的なことを言うなぁ、と感心してしまう。


 木造の一軒家というモノを移築しようとすると、その移築先の基礎をしっかりしないと、地面に置いた途端、家が歪んだり亀裂が入ったりするだろう。そうなると持っていっても使えないということになる。

「ということは一軒家を持って行こうとすると手間暇かかって、大変なことばかりか?」

 ちょっと愚痴ったら、

「当たり前」

 とあっさり言われてしまった。

「じゃあどうすれば良いんだ?」

「小屋くらいが良いと思う。私としては浴室とトイレが一つになった小屋があればイイと思う」

「おーーーユニットバスか!なるほど!確かに理にかなっている!風呂を沸かすのはユィに水を出してもらってスゥに温めてもらえば良いんだし!」

「そう」

 オレのテンションが上がっているのに、平常運転のスティーヴィー。

「と言っても、そんな都合よく、そんな物件があるか?」

 と訊けば、

「切って作ればイイ」

 と簡単におっしゃるスティーヴィー。

「最初から完成したものを持って行こうとしても無理。使ってみて改良すればイイ」

 あーそうですか、ハイハイ分かりました。


 ユニットバスのような浴室とトイレが一緒になった物件、というか部屋というものはなく、結局浴室だけを家から切り離し持ち運ぶことにした。地面に直置きというのは問題あるので(排水はそのまま地面に流すので、床が濡れる心配あるし)基礎の代わりに丸太を並べて土台とした。こういうのはブレイクスルーすると(大げさだが)サクサクことが進むなぁ。

 とりあえずオレの周りの女性陣を入れる浴室だけは出来上がった。これで寝る前にさっぱりすることができることになった。が、風呂上がりでテントに戻るまで、地面を歩くから足が汚れる、とクレームが寄せられ、それならと簀の子まがいのモノを作る羽目になり、さらにテントを中をもっと快適に……と外からは見えない快適装備を要求され、とエンドレスな改善活動が始まった。改善活動に終点はない、という言葉を異世界でかみしめるオレだった。




 


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